000-01 覚醒は胸の奥の熱さと共に

それはある動画投稿から始まる。とある大国から発信されたそれは英語で何を言っているかは分からないが、それでも心の奥に仕舞い込んでいた物を目覚めさせようとした。それは様々な名前があるだろう。しかし、かつての傷がその目覚めを邪魔する。


「んなの、実現できるわけないだろ...」


俺は動画の男の姿に懐疑的だった。でも、出来たらカッコいいとは思う。でも、27歳の男がこんな恰好して出ていけば笑い者だ。だから、俺はスーツを着て仕事に出掛ける。そんな毎日を過ごすはずだったが、上空には大きな機影。空襲の音が鳴り響く。死にたくない死にたくない。俺の脳裏には今朝の動画が過る。心の傷。その名は黒歴史。俺のスマホには、未だに封印している黒歴史...オサレなデスゴッドに憧れた痛い詠唱の書かれたテキストファイルがある。今でも、ごっこ遊びをしたくなる衝動だってある。でも、心の傷が躊躇わす。そんな現実逃避は、近くで大きな音と共にアスファルトの破片が飛んでくると共に消え去る。終わりだろうな。そう思ったその瞬間、死にたくない思いが心の傷を凌駕し、テキストファイルの詠唱が頭に思い浮かび、咄嗟に上空の機影に手をかざす。


「火よ、我が手元に集まり、我が敵を穿て!『フレア・ランサー』!!」


そして、魔方陣が現れ、炎の槍が放たれる。その槍は上空の機影を貫き溶かす。唖然とした俺は手に握るスマホを見る。そこにあるのは、俺のスマホで間違いないはずだ。しかし、手帳型ケースはまるで『俺の考えた格好いい魔導書』のような見た目をしていた。そして、俺の視界は一変する。様々な人から二つのオーラが見える。俺は一つはそれの名を直感で魔力だと分かった。

何がなんだか分からない。会社から連絡があり、急遽休みとなる。俺は魔法を手に入れた。しかし、この視界には戸惑うばかりだ。そんな状態だが、現実逃避をしようといつも通り動画を見ようとしたが、動画の中の人達には魔力ではない一つのオーラが見える。理解の出来ない現実に振り回されたが一つの動画が目に止まる。それは格闘家の動画だ。気で相手を倒す。この視界になる前の俺なら眉唾物と見なしていた。しかし、この目に映るサムネの男からは莫大なオーラーを宿していた。男は気で離れた相手を倒すと言っていた。あり得ないあり得ない。そう思いながらも期待した。そして、男の手からオーラが飛び、相手の男を倒す。この時、俺は気づいた。今、俺の目に映る二つのオーラは魔力と気だと。

この日から俺の英雄としての道が拓かれた。今朝のマスク・ライダーのコスプレの人に感謝した。


そして、後の平和になった世では、ダンジョンと呼ばれる異空間で冒険する者達を支援する探索者協会の日本支部の長となるのは、まだ先の話だ。




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