第6話 実技試験2
首から下全体を覆う黒を基調としたスーツを着用し、左腕で黒いフルフェイスヘルメットを抱え、右手には長さ約70センチメートルの両刃の剣を持ち、靜慈は集合場所の訓練場入り口前で班員を探していた。
スーツはある程度のボディラインが出てしまう位にはぴっちりとしていて、見方によっては少し
靜慈はその少し特殊なスーツに着替えるのに手間取ってしまったため、彼が集合場所に戻った時には既に大勢が班で固まって喋っていた。
その中には萌の姿もあった。彼女は自分が靜慈と同じ班ではないことが分かった時には落ち込んでいたが、もう既に彼女は他の班員と談笑していた。さらに言えば彼女が班の中心にさえなっているように見えた。
萌の調子が元通りになっていることが分かった靜慈は一安心し、引き続き自分の班員を探すために歩き回った。
「さん……さん……さん……さん……」
自分の班の番号を繰り返し呟く。
彼らが着ているスーツの背面には番号が印字されたゼッケンのようなものが貼り付けられていて、靜慈はそれに注意しながら辺りを見回す。
「おっ」
少し離れたところに目的の番号を背負ったスーツを着ている男女が見える。
靜慈はすぐに彼らの元へ駆け寄って行った。
「あの、2人とも3班の人ですよね。すみません、遅くなりました。同じ3班の阿由葉靜慈です」
靜慈は二人の元に駆け寄ると、まずは遅くなったことに対して形だけでも謝罪し、彼らとのファーストコンタクトを図った。
比較的体格の良い男と、とても小柄な女が靜慈の方を向く。
「お、これで全員揃ったか」
靜慈の姿を確認して男は言った。
その男は靜慈より身長が高く、筋骨隆々とまではいかないが筋肉質な体つきだったため、男の優しそうな表情にもかかわらず、靜慈は多少の威圧感を感じていた。また、長めのコームオーバーに青色のグラデーションが施された彼の特徴的な髪色もそれに拍車をかけていた。
「大丈夫大丈夫。全然気にしてないぜ。別に時間をオーバーしたわけでもないんだからさ」
男は、靜慈が感じている威圧感を吹き飛ばすほど爽やかな笑顔でそう言った。
「じゃあ全員揃ったことだし自己紹介でもするか!」
男が会話の音頭をとる。
「ではさっそく。俺の名前は
秋人と名乗った男は自己紹介を終えると、「靜慈クンだっけ? 次よろしく~」と言いながら靜慈の方へ目線を向けた。
そうして彼に流されるようにして、靜慈は自己紹介を始めた。
「えーと、阿由葉靜慈です。今は中3の15歳で、隣の神奈川から来ました。よろしくお願いします」
「中3ってことは高校受験の代わりに来たのか?」
靜慈が息継ぎをしようとしたその間に秋人が口をはさむ。
「あ、はい」
「はーすごいね~。あ、あとそんな
そうは言っても、年上で初対面の人間に馴れ馴れしくするのは勇気がいるものである。
「あぁ、はい、分かり……分かったよ」
その言葉を聞いて秋人が満足そうに首を上下に振った。
そうして靜慈の自己紹介が終わると、2人の視線が小柄な女へ移った。
彼女の身長は150センチメートルもないくらいに小さく小柄だった。そのため2人が図らずとも、彼女を上から見下ろす形になってしまう。
彼女は委縮しているのか、ずっと俯いていた。
「じゃあ最後は君だね。よろしく~」
秋人はそう言って彼女の発言を促した。しかし彼女は下を向いて小刻みに震えるばかりで一向に口を開く気配がない。
靜慈が不思議に思っている中、秋人は何かを察したのか彼女に優しく話しかける。
「大丈夫。自分のペースでゆっくりな」
場が沈黙する。靜慈は
しばらくすると彼女は少しだけ顔を上げて、急に喋り始めた。
「あ、あの。ボ、ボボ、ボボボクのな、名前……は……た、たかた、た、たか……た、
彼女は早口で、盛大に噛みつつも自分の名前を言い切った。
少し目にかかっている彼女の前髪の間から目がはっきりと見えたが、その目玉は激しく動き回り、2人の方を見ようとはしなかった。
秋人は既に察していたようだが、靜慈は彼女の目の1つから身体全体にかけて常におどおどびくびくと挙動不審な様子と、その早口で
彼女の顔が火照り、緊張の汗が滴る。
「じゅ、じゅじゅじゅ18歳です。みみ、宮城から……き、来ました。よよ、よ、よよよろしくお願いします!」
陽菜は持てる力の全てを出し切ってそう言うと、すぐにまた俯いてしまった。
彼女が俯くことで顔が隠れ、靜慈たちからは彼女の地毛であろう少し薄い黒色のボサボサなショートヘア―しか映らなかった。
「ん?」
靜慈に一瞬違和感が生じる。そしてすぐにその違和感は具体的なものとなった。
「18歳ってことは俺より年上じゃん! マジか! え、何!? 高宮さんってこと!?」
なぜなら秋人が言いたいことを全部言ってくれたからだった。
人を見た目で判断するなとはよく言うが、今回ばかりは彼らがそう思うのは仕方のないことだった。彼女の外見は下手したら小学生と間違えられる可能性もあるほどに小柄だったからである。
「え!? いやあの、その……えーっとあの……同じチ、チーム、だし、ボボ、ボクも、全然、気軽な感じで、いいです……よ?」
オロオロしながら彼女が答えた。
そんな困った様子をする彼女の一方で男2人は、本当に戦えるのかわからないほど小柄でおどおどした彼女を見て、大きな動物に睨まれて怯えている小動物を想起するのだった。
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