第4話 理由
時刻は夕方。あれから1日目の筆記試験が終わり、靜慈と萌は2人並んで、区内の指定されたホテルに向かっていた。
「それで、なんでお前がここにいるんだ?」
靜慈が萌に問いかける。
教室で萌を見つけたあの後すぐに試験監督が来たせいで、教室内はとても話せるような雰囲気ではなくなり、今の今までその理由を聞けずにいた。
「なんでってそりゃあ入試を受けるためだけど」
「いや、そういうんじゃなくて」
靜慈のため息が漏れる。
「俺は、お前が、なんで、ここにきたのか、動機が知りたいの!」
言葉の節々を強調させるような口調で言う。
「あははは。ごめんごめん。分かってるって」
萌は軽く笑うと、少しだけ真面目な顔で再び口を開いた。
「私はね、私が来たいって思ったからここに来た。ただそれだけ」
「は……あぁ……そうか……分かった……」
靜慈は全く答えになっていない彼女の返答に潔く納得した。いや、本心の深い所では全くもってなにも納得していない。しかし彼女から、これ以上問い詰めても何も答えないぞ、という強い意志を感じたため、納得する他なかったのである。
「ところでさ、お前昨日俺に言ったけど、お前の方こそ親を説得するの大変じゃなかったか? 大事な一人娘がいずれ命を賭ける職になるための学校に行くなんて、簡単に許すとは思わないけど」
折れた靜慈は話題を変える。
「全然。簡単だったよ」
萌は肩をすくめて少しおちょけた様子で言う。
「私の両親も対抗主義者だからさ、私は人類の未来を守るためにOWDCに行きたいんだ!(迫真)って、てきとうに言ったら許してくれたよ」
そのセリフに見覚えを感じる靜慈をよそに彼女は話し続ける。
「それで昨日、靜慈が両親を説得した時のセリフと私がそうした時のセリフが全く同じで笑っちゃたんだよね」
「だからか……」
だから昨日こいつはよく分からないところで笑ったのか、と靜慈は思い、苦笑した。
歩く2人を夕日が照らす。
話しながら歩き続け、ホテルに着いた頃には既に日が沈んでいた。
「あ、俺ちょっとコンビニ行くわ」
ホテルの入り口で思い出したかのように靜慈が言う。
「そう。じゃあ私は先に入ってるね」
「ああ。また明日な」
「うん。お互い頑張ろうーね」
互いに別れを交わすと、靜慈は身を
靜慈の背中がだんだんと小さくなっていく。
そんな背を見ながら、彼女はぽつりと呟いた。
「……言えるわけないよ。ここに来た理由が靜慈の近くにいたいからなんて……」
靜慈の姿が夜の街へ完全に紛れてしまうと、彼女は向きを変えてホテルに入っていった。
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