第1章 入学試験編

第3話 再会

 2月21日、朝9時。

 靜慈の部屋に目覚まし時計の音が鳴り響く。その音と同時に大きなあくびをしながら靜慈は起き上った。

 今日は待ちに待ったOWDC大学校の入学試験日だった。

 これに受かればとりあえず家からは出られるという期待から、靜慈は緊張するというよりむしろとてもワクワクしていた。

 朝ご飯を食べたり着替えたり、荷物を準備したりとゆっくり身支度をする。

 それから1時間ほどで全ての支度が終わると、靜慈は玄関の扉を開け


「行ってきます!」


 と言い放ち、両親が既に仕事に出かけて誰もいない空っぽの家を後にした。

 



 OWDCの入学試験は2日に分けて実施され、1日目に筆記試験、2日目に実技試験が行われる。

 現在の時刻は10時過ぎ。今日行われる筆記試験は午後から始まるので、時間にはまだまだ余裕があった。

 東京にある試験会場のOWDC大学校まで電車で1時間程度着くし、早く行き過ぎても暇になるだけだろう、ということを考えながら、靜慈はゆっくりと駅まで歩いていた。

 駅に到着するやいなやちょうど東京行きの電車が来たので、それに乗り込んで空いている席に座った。

 ここ数十年間、様々な要因(主に使者だが)により技術が劇的に進歩することはなかった。100年前の人々が思い描いたような進化と言える進化はなかった。

 靜慈が今乗っている電車もその1つで、変わったところと言えば内装と外装の見せかけくらいだった。

 しばらくして扉が閉まり、電車がゆっくりと動き出す。

 靜慈はズボンのポケットからスマートフォン取り出して、てきとうなニュースを見ていた。

 スマートフォンといっても数十年前の"モノ"とは違う。現在のものは折り曲げたり畳んだり、まるで紙のように変幻自在。畳めばなんと手のひらサイズ、広げればまるでタブレット端末、さらによく分からない形にも変形可能。加えて恐ろしいほどの強度で超高性能……といった進化を遂げていた。

 しかし、"進化"と言ってもその程度だった。


(穴がなかったらどんな世界になっていたんだろう)


 靜慈はふと考える。

 彼の思う通り、穴の出現が世界に与えたダメージは計り知れなかった。

 そんなことを考えていると、いつの間にかそんな時間が経っていたのか、もう東京に着いていた。

 一度電車から降り、東京都新区OWDC日本共同本部行きに乗り換える。

 靜慈の行先である東京都新区。それは東京湾に建設された超巨大な円形の人工島。そこにはOWDC日本共同本部や大学校を始めとした、OWDCに関連する施設が多くあり、まさしく日本の対穴兼使者アポストロスの最重要拠点だった。

 靜慈が乗ったその電車には、朝でもないのに多くの人が乗っていた。


(普通の高校に行ったやつらは今ごろ試験を受けてんのかな)


 そんなことを考えながらしばらく電車に揺られていると、すぐに目的駅に着いた。

 電車から降りてOWDC日本共同本部へ向かう。

 そこで手続きを済ませ、案内資料を受け取って今度は大学校の校舎へ向かう。

 本部から校舎まで数キロあるため、敷地内を走っていたバスに乗り込む。またしばらく揺られてようやく試験会場である校舎に着くと、指定された教室へと向かった。


「いくらなんでも広すぎるだろ……」


 巨大な構内にぶつぶつと文句を言いながら、靜慈はようやく教室へとたどり着く。

 開いている扉から教室の中が見える。構造自体は普通の学校となんら変わりないが、全体的に白く綺麗で、最新鋭の設備とメンテナンスが行き届いているように見えた。

 教室に一歩入って周りを見渡すと、既に多くの受験生が席に座っていた。靜慈が自分の席を目で探していると、ここにいるはずのない人間が彼の視界の端に入った。

 驚いてそちらを向くと、自然とその人物と目が合う。

 靜慈は驚きのあまり叫ばずにはいられなかった。


「お、お前……な、ななな、なんでここにいるんだよ!」


 大声を出す靜慈に向かって、周りから冷たい視線が送られる。しかし靜慈にはそんなことを気にする余裕はなかった。


「やっほ!」


 その人物は少し手を挙げ小声で合図する。

 驚きのあまりその場に立ち尽くす靜慈の目線の先には彼の幼馴染、花咲萌の姿があった。

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