第1話 始まり

 2100年 メキシコ跡


「二足型使者アポストロス10体、来ます!」


 3人の耳に着いた無線通信に音声が流れる。


「いい? 今度のアレはあたしの獲物よ! あんたらは邪魔しないでよねっ!」


 髪色から服装までピンクに包まれた、どうみても小学生にしか見えない体型の女が言う。


「「はいはい」」


 彼女に見上げられた2人の男は呆れた口調でそう返事をすると、ゆっくりとその場に腰を下ろした。

 2人の返事を聞くや否や、彼女は自身の身長の2倍はある斧のような武器を握りしめ、迫りくる使者アポストロスの群へ突っ込んでいった。

 使者アポストロスの見た目は様々だ。

 体の形や大きさ高さ、さらに体に備わっている目や口などの器官の数や場所などに個体差がある。

 彼女の目の前にいる1体を例に挙げれば、大きさは約20mで、身体は人間のような形だが全体を歪に変形した白い皮膚が覆い、顔はまるで鳥、さらに目はついていない個体といった具合である。

 使者アポストロスの見た目は様々だがある程度共通している特徴もある。

 それは、白い外皮に覆われていることとその白い外皮に赤色のラインが刻まれていることの2つである。

 ――まぁ、その赤色のラインが描く模様には個体差があるのだが。


「どうしてあいつの性格はああも好戦的すぎるんだ」


 黒いロングコートを羽織った、少し年老いた男が溜息交じりに言葉を漏らす。


「僕たちのことも少しは考えて欲しいものですねぇ。あのバカには」


 細い目をした若い男も同じように不満を漏らした。

 会話の合間に遠くの使者アポストロスの絶叫が聞こえてくる。


「そういえば、今日って何日だ?」


 少し年老いた男が唐突に言った。

 急な質問に驚いた若い男は、少し間を空けて答える。


「2月の20日ですけれど。どうかしました?」


「いや、噂で耳にしたんだが、今年は私のかつての同僚の娘が日本のOWDCに入学するらしくてな。ほら、お前んとこのOWDCの入学試験日って明日だったろう? それで少し気になったんだ」


「そうですね。日本は明日が入試日です。けど、僕が聞いた話が正しければその娘さん、入学試験免除だそうですよ」


「あ、そうなの」

 

 少し年老いた男の表情がどこか拍子抜けしたようなものに変わった。

 しばらくすると、1人で使者アポストロスに突っ込んでいった女が2人の元に戻ってきた。彼女の体は使者アポストロスの返り血で赤く染まり、髪の毛には内臓かなんかの組織の一部が絡まっていた。

 男2人が彼女に労いの言葉をかけようとした矢先、再び無線に音声が入る。


「異形型2体来ます!」


 すると男らは立ち上がり、


「今度は俺たち男の出番だ。お前はその汚れでも落としているといい」


 と言うと、彼女の「分かったわよ」という返事と共に走り去っていった。




 同日。日本。神奈川県某所。


「……というわけで連絡は以上だ。いいかお前ら。明日は高校の入学試験なんだから、くれぐれも夜更かしなんかするんじゃあないぞ」


 生徒たちが沈黙する中、教卓に手をつきながら教師は言う。


「じゃあ日直、号令」


「起立、礼」


「「さようなら」」


 覇気のない声が教室に響いた。

 そうして流れ作業のような号令が終わると、教室の中は一気に騒がしくなる。すぐに帰る者、帰り支度の続きをする者、談笑し始める者など様々だった。

 そんな中、クラスの隅の席で帰り支度をする男子生徒が1人、そして前の席から振り向いて、彼に話しかける男子生徒が1人いた。


「おい靜慈せいじ。お前、本当にOWDC大学校を受けるつもりなのか?」


「あぁもちろん」


 靜慈と呼ばれた生徒はふてぶてしい態度でそう答える。

 靜慈。阿由葉あゆば靜慈せいじ。それが、身長体重共に平均に近く、黒い髪で、目つきが鋭い、というか幸薄顔、というかただ単にスカしているだけのような雰囲気を顔から漂わせているこの生徒の名だった。


「マジか~」


「うん。超マジ」


 靜慈は帰り支度をしながらてきとうに相槌を打った。


「いやー、お前すげーな。OWDCなんて俺は怖くていけねーよ」


 話しかけてきた男子生徒がへらへらしながら言う。

 世界滅亡危機対策機構(Organization for World Destruction Crisis)、略してOWDC。

 今から60年前に突如として世界に発生した穴と謎の生命体――使者アポストロス――に対抗するために作られた世界規模の組織である。

 そして、その組織の組員を教育するための学校として作られたのがOWDC大学校というわけである。


「ビビりのお前でも戦闘科以外なら行けるだろ?」


 靜慈が小馬鹿にするかのように言う。


「馬鹿言うなって。そもそも他の科は1つを除いて難関大学レベルなんだから、ただの中学生の俺が受かる訳ねーだろ。頭悪いから明日の入試だって不安だっつーのに」


 OWDC大学校には複数の科が存在する。

 戦闘員になるための戦闘科、戦闘員の武具や使者アポストロスの素材の扱いを学ぶ技能系の学科が2科、そして特殊な医療を学ぶ医療系の学科が2科の以上計5科がある。その内、戦闘科は実技試験をクリアすれば中学生の学力で受かるが、彼が直前に自虐を交えて言ったように、基本的に他は難関大レベルの学力が要されていた。


「でもなんでお前、将来的に命を危険にさらさなきゃいけない戦闘科にわざわざ行くんだ? お前結構頭良いんだから普通の高校なんて選び放題だろ? なんだ? 正義感にでも駆られ……」


 彼の視線が靜慈の肩をかすめた時、彼の言葉が止まった。

 そして彼は突然立ち上がり


「おっと、お前のが来ちまったな。残念だがお前とのおしゃべりもここまでだ。明日はお互い頑張ろうぜ。じゃあな!」


 と言い残してそそくさと去って行ってしまった。


「おい待てよ!」


 前列側の扉から教室を颯爽さっそうと出て行く彼に、靜慈の言葉は届かなかった。


「ったく、一体何なんだあいt……」


 靜慈は背後に何かただならぬ気配を感じ、先ほどの彼と同じように言葉を最後まで言い切ることができなかった。

 するとその時、何者かが靜慈の肩をトントンと叩いた。

 靜慈が恐る恐る振り向くとそこには……


「一緒に帰ろ!」


 そう話しかけてくる美少女が立っていた。

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