第9話

「勝った!」


土川は自信に満ちた笑みを浮かべながら、霍夜の胸に爪が食い込み、あとは死が待っているだけである。


土川が勝ったと思った瞬間、突き刺した傷が緩んだように感じられ、霍夜はゆっくりと彼の前に霊気となって散っていった。


「これは!」


土川は、自分が戦いに誘い込むための策略にはまったことに気づいた。


敵は暗闇の中、とにかく地上に戻って観察したかったのである。


振り向くとすぐに、玄天棒を手にした霍夜が笑顔で待っていた。


「また隠したいのか?もう手遅れだよ」


その棒は手の中で大きくなり、霍夜は巨大な玄天棒を両手で持ち、野球のように土川を飛ばした


こんな「大きな」攻撃は手に負えないが、体についたうろこ状の鎧のおかげで致命傷にならずに済んだ。


飛ばされた勢いで、土川はなんとか地上に戻り、また地面に穴を掘った。


「おっと、また逃げられた」


霍夜は、向こうは自分の全力の一撃を受けてもまた動けると思い、悔しそうに頭を掻いた。


この時、土川は地下でどうしようかと考えている。霍夜の分身術はあまりにも厄介で、また彼に奇襲をかけても再び騙される危険もある。

しかも、自分は今負傷していてしばらく回復して、優位に立った石岡が先に助けに来てくれることを待つしかない。


土川は霍夜が他の人の助っ人になるのを防ぐために、ひそかに小さな穴を掘って目を出し、霍夜を観察していた。


「どこにいるんだ?」


霍夜は自分に背中合わせて、自分がどこに現れるかを推測していた。


霍夜がまだ自分を探していることを確認した土川は、再び潜って別の場所を探そうとしたとき、霍夜が突然振り向いた。


「見つけた!」


という顔をしている自分に気がついた。


「まさか!」


土川は、この愚かな少年が自分の完璧な隠蔽を見破ったことに少し唖然としたが、洞窟の口はすぐそこなので、また潜るだけでいい。


しかし、洞窟の途中で土川は下に行くのを阻むものを見つけ、中を覗いてみると、足元に霍夜が挨拶をしている。


事態の深刻さを悟った土川は、必死で下に降りようとするが、下にいる霍夜に足首をつかまれ、身動きがとれなくなる。


「動くな」


このとき、地上の霍夜はすでに大きくなった玄天棒を顔面に掲げ、土川の頭めがけてゴツンと振り下ろしていた。


(しまった!)


棒の黒い影が自分に降りかかってくるのを見て、抵抗するのをあきらめ、心の中で霍夜を罵倒し続けた。


巨大な棒が降り注ぐ中、土川の願いは叶い、本当に地下に帰ってきた。


そして、それ以上は、洞窟の中で動きがなくなった…

「かっこいい!私も翼を生やして飛びたい。」

戦闘が終わり、金色の瞳孔が黒に戻った。 霍夜は空を飛ぶフィルを羨ましそうに見ていたが、何かに気づいたようで、フィルに駆け寄った・・・・・・。


∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗


(ドキッ!)


フィルは飛んでくる爆薬を一つずつブロックしていった。


霍夜と草津が不利になり、花田を守るために戦闘を終わらせることができず、内心動揺しているところである。


途方に暮れるフィルの脇を、一枚の花びらがひらひらと通り過ぎていく。


「イヤナ…」


フィルは揺れる花畑を振り返った。そうだ、自分のせいでみんなが困っているんだ。どうしてあんなにがっかりさせる?こんな自分をイヤナも見たくないだろう。


フィルの心臓はもがくのをやめ、その目は決意に満ちて、まっすぐ爆丸に向かって槍を振り下ろした。


「止め...........止めてそれ以上近づくな」


自分にかかってくるフィルを見て、爆丸は慌て始まった。


「これ以上近づいたら、この花畑は焼け野原になるぞ。」


慌てて懐から炎符を取り出して、フィルの攻撃を止めようとした。


しかし、その瞬間、フィルは決意して槍を空中に振り上げ、爆丸に横から直接一撃を加えた。


槍が爆丸の顔面を直撃して顔面が変形し、爆丸が気絶して倒れてしまった。


しかし、最後の瞬間、爆丸は炎符を発動させることに成功し、火球が花田に向かって一直線に飛んできた。


「やばい!」


成功したと思っていたフィルは、慌てて翼を広げて火球を追いかけた。


しかし、少し遅すぎたようで、火球は花畑に簡単に届く距離にあった。


イヤナの残した花畑が破壊されていくのを見ながら、フィルの脳裏にある記憶がよぎった。


突然!?


花畑の前に人影が飛び出し、その人の体に炎の玉が命中した。


火球を遮る人影を見て、フィルは驚いたが、もちろんそれが誰であるかはわかっていた。


ああ!あつあつあつ!"


火球に当たった霍夜は、炎が燃え盛る中、走り、跳んだ。


「霍夜!」


(うわっ!)


霍夜が焼き焦げかけたのを見ながら、フィルはじょうろを持って、急いで火を消した。


「助けた」


火は消え、霍夜は疲れ果てて喘ぎながら立っていた。


「なぜ、あなたは......なぜ、体でブロックしたんだ」

フィルが霍夜の焦げた顔を見て言った。


「なぜって…それが、フィルにとって一番大切なことなんだから」


霍夜はフィルに微笑みながら、答えを出した。


霍夜の表情を見て、彼は心の底から微笑んだ。


自分のことを真摯に考えてくれる人がいたのに…

この時、爆丸の横の土が突然緩み、地面に穴が開き、鋭い爪のついた手が気絶した爆丸を引きずり込んだ…


「おい!」


騒ぎに気づいた霍夜はあわてて確認したが、地上は暗く、静まり返っていた。


振り向くと、倒れていた土川も消えていたので、あのネズミがやったのだとわかり、腹が立った。


「気にするな、俺たちは勝ったんだ。」


フィルは霍夜の肩を叩いて安心させると、2人で草津を家の中に運び込んで治療を行った。


「まあ…草津は結構重いなあ」


∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗


草津は目を覚まし、窓の外を見るともう夜になった。自分が包帯に巻かれ、これはどういう状況か。


まだ一階についていないところ、食べ物の匂いがした。レストランに入ると、左腕に包帯を巻いたフィルが料理を作っていた。


霍夜はもっと大げさで、頭以外の全身を包帯で覆い、食べ物をぐいぐいと食べていた。


口いっぱいに食べ物を噛みながら、霍夜は目を覚ました草津に「草津、起きたか、フィルの料理は本当に美味しいよ」と声をかけた。


草津は、霍夜の不明瞭な声をあまり理解できなかった。何を食べてもすごくおいしいと言うので、あまり信用できない。


「うっま!」


その甘さと滑らかさに草津の食欲をそそった。食べ物の片付けに参加することになった。


フィルが料理をもう一つ出して久しぶりにみんなで食事をすることになり、みんな喜んで食べてくれているのを見ってフィルも嬉しい。


∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗


食事の後、霍夜は手にした緑色の珠をじっと見つめ、何度も何度も見った。


「土川たちが奪おうとしているのは、これか?大したことないように見えるけど、草津は何か知ってる?」


どうしたらいいのかわからず、フオはビーズをフィルに返した。


草津も「わからない」と肩をすぼめた。


「何のためかは私にもわからないが、きっと何か不思議な能力があると手にしたくなる。」


フィルは珠を片付けると、その由来を話した。


しばらく沈黙のうちに話は終わった。


「フィル、俺の仲間になってくれ!俺たちと一緒に冒険して、一緒に強くなろう。」


霍夜が突然口を開いてフィルを誘った。


霍夜の企みを見抜いたらしい草津は、静かにフィルの答えを待っていた。


霍夜の真剣な眼差しを見て、フィルは黙っていた。


今日の出来事で、3人は友人以上の関係になった。


彼は立ち上がり、窓から見える花畑を眺めながら、「昔は自分の目標があって、幸せで安定した生活を送りたかったが、気力がなくなってしまって今は平凡な人生を送るつもり…」とため息をついた。


フィルはしばらく黙って、霍夜を真剣に見つめた。


「でも、貴方たちが、生死を恐れずに夢を追いかけることができたのを見てイヤナを思い出した。イヤナのためにも、俺も勇気を出して夢を追いかけ、もっと世界を見てみようかなと思っている。」


フィルは心の底から本音を言い出した。この時、霍夜たちを受け入れ、イナヤのために七色のスミレを探したいと思ったのである。


「ようこそ、仲間。これは例のものだ。」


フィルは仲間になることを同意したのを見、霍夜は満面の笑みを浮かべ、どこからか持ってきた桃をフィルに手渡した。


「さて、相棒!」


フィルはしばらく桃を見つめていたが、小さく笑ってそれを受け取った。


∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗


翌日、馬車はドアの前に停まっていた。


「霍夜、何してるんだ?もう時間だ」


草津は、花畑をこそこそとしている霍夜を見て尋ねた。


「木を植えている」


霍夜は手を使って土をわけ、種を土の穴に入れた。


「はあ?木を植える?」


霍夜が木を植えていると聞いた草津は、疑問と混乱に包まれた。


「フィルとイヤナの大好きなお花畑を守るために、桃の木を植えるんだ!」と。


霍夜は木を植えながら、草津に説明した。


「よし!」


霍夜は立ち上がり、泥だらけになった手で汗を拭いた。


「ああ!手に泥がついているのを忘れていた!顔が汚れている。草津、助けて!」


霍夜は両手を広げて草津の方へ走った。


「俺を汚すな!」


「おい、おい!こっちに来るな!」


草津は霍夜に触れられたくないので、二人は追いかけっこを始めた。


この後の旅は、思った以上に楽しめそうだと、フィルは二人のふざけに笑った

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