第7話

フィルの話を聞いて、草津と霍夜は黙っていたが、突然霍夜が立ち上がり、あわてて店を出て行った。


「どこへ行くか?」


草津は戸惑いながらも店の外に出たが、霍夜の姿はもう見えない。


「こいつはいつも厄介なことをするなあ…」


草津は頭を掻いたが、霍夜は見当たらず、うろうろした。


∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗


その時、霍夜はスミレの入ったカゴを持ち、ホテルの玄関にやってきた。


(ノック、ノック!)


窓から花の海を眺め、思い出に浸っていたフィルは、突然のドアのノックで現実に引き戻された。


「これは…?」


玄関に出ると、花を背負った霍夜の姿があり、フィルは戸惑った。


「ごめん、あの花がそんなに大事なものだとは知らなくて、花屋さんでスミレを買ってきて、これを賠償として」


と霍夜は深く身をかがめ、ベルトを外し、スミレの入った籠をフィルに手渡した。


謝罪している霍夜とスミレを見てフィルは思わずに笑った。

彼は、目の前の男がそれほど嫌な人でなく、スミレの籠を受け取るべきかどうかを戸惑う。


「ここに来たのか」


その時、うろうろしていた草津がようやく霍夜を見つけ、フィルとスミレの籠を見、今、どういう状況かと。


「ああ…」

フィルはようやく花を受け取り、脇に置いた。「まだ宿をお探しているか。」


霍夜と草津は頷いた。


「ついて来い。」フィルは部屋に戻ろうとすると、付いてくるように二人を催促した。


2階のドアを開けると、ベーシックなダブルスイートがあり、しばらくそのまま放置されていたようで、家具は埃をかぶっていた。


「ゲストルームなんだけど、閉店しているからしばらく掃除してない。後で掃除しておくから、今夜はここに泊まりなさい」とフィルは言った。


「いやいや、掃除は自分でやる。二人は一晩泊まるところができたと大喜びで、まず手伝いをしようと思った。


2人の加わりで、ホテルにぎやかになった…


∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗


朝、フィルがじょうろを持ってやってき、花に水をやるのを手伝った。


その時、一人がゆっくりと近づいてき、村長である。


村長を見たフィルは、手を止めて挨拶したが、村長だけでなく、その後ろに3人もついていることが分かった。


その後ろには、メガネをかけて少し歯が開いた口をした赤い服の男、帽子をかぶって土色の布を着た男、背中に巨大な鈍器ハンマーを背負った長身の灰色の服を着たヘラクレスの3人がいた。


フィルを見た3人は、村長に向かって「村長さん、ありがとうございます。この方は確かに私たちの友人のフィルです。お帰りなさい」とお礼を言った。


村長はうなずきながら、「君は若く、訪れる友がいるのはいいことだ。わしのような人は土になったのだろう。わしはそろそろ帰る」と言った。


村長が去るのを見送ると、3人は並んでフィルを見た。先のいい態度はたちまち変わってしまった。


「こんな辺鄙な村に隠れてるとは思わなかった。まだ持っているんでしょう。それを渡したら見過ごしてやるってのはどうだ。」


土色の服をかぶった男はフィルを見、先に口を開いた。


フィルの顔も、男の挑発に怒ったような顔をし、「私が先に見つけ、先に手に入れたのに、なんで君にあげなきゃいけないか」


「なんでって?人数が多いから仕方ないよ!」


土川という男は、さも当然のように傲慢にフィルを怒鳴りつけた。


彼は、これ以上のいじめには耐えられないと、目に力を込めてこう言った。


「さあ、3人で俺の手から奪うことができるかを試してみ」


フィルの手から霊が湧いできたが、霊は透明から黒に変わり、手には血まみれの槍が出現した。


「お前はすごいが、俺たち3人に勝てるわけがない」と。


数の上で優位に立つ男は、恐れることなく、その態度はやはり傲慢であった。


しかし、フィルは手にした槍を恐れていたよう3人は近づくことができなく、両者の間に緊張が走った。


(ガーン)


「フィルは今日、朝食がないか?」


ドアが開き、寝ぼけ眼の霍夜が出てきた。両者の対決に戸惑う。


「なぜ止めたか?」


背後から草津の声がし、霍夜をどかして外のことを見た。


「探してるのは私、彼らには関係ない」


フィルは2人の姿を見て緊張した。他の人を巻き込むつもりがないからである。

土川は、この2人がフィルの助っ人だと思っていたが、フィルの言葉の中にある答えを聞き、少し気が緩んだ。


「俺たちはフィルに用があるんだ知ってるならさっさと出て行け!」


これ以上問題は起こさないから、気を利かせて逃げたら無視すると3人が思う。


「ダメだ!フィルは友達だから、困っていたら助けてあげるよ!」と。


逃げると言われた霍夜が不愉快であった。


「霍夜…君…」


霍夜の力強い応援を見、フィルは動揺した。


来る者はみなしたたか者とわかっていた草津は、それ以上何もせず、ホテルの壁に寄りかかって観戦の構えをした。


そのため、霍夜は草津のほうを向き、「草津!」とその非情さを不思議に思った。


草津は、「あいつは関わるなというから、面倒なことにならないように、たいしたこととは思っていなかった。もし倒せなかったら、私が救ってあげる」と。


「大丈夫だフィル、草津が助けてくれなくても俺は味方だ、一人でも二人でも全部倒してやる!」。


霍夜は草津の無関心に不満だったが、無理せず、玄天棒で戦う構えをした。


爆丸、石岡、二人はフィルを抑えて来い、この小僧を片付けたら俺も手伝う」と、まだ優勢であることに安堵し、土川は傍らの二人に命令を下した。


「わかった」


相手を確認すると、赤い男の爆丸の袖から突然丸い物体が飛び出し、フィルに向かって発射された。


(ドキッ!)


球体はまだ空中にあったが、燃え上がり、煙と砂が舞い上がった。


「フィル!」


突然の襲撃に霍夜は驚き、フィルを心配した。


煙が消えてフィルの姿が見えなくなると、爆丸は驚いて辺りを見回し、空中にフィルの姿を発見した。


背中から黒い羽が一対生え、そのまま見下ろしながら、爆丸に「爆丸、それだけなら攻撃は俺を倒せないぞ」と軽蔑したように言った。


これまでの戦いで爆丸のわざを見てきているので、それを回避する準備さえしておけば、簡単にできる。


フィルが無事なのを見、霍夜も相手の意表を突く作戦に出た。


突然、玄天棒を土川に振り下ろしたのだ。


「穿甲変!」


意外なことに土川が退けもしない。体が変形し始め、手に爪が生えて一撃を食らった。


戦いの嵐で笠が吹き飛ばされ、その手はものすごい力で玄天棒を握り、霍夜をはね返した。


霍夜は後ろに倒されたが、反応が早く、すぐに立ち直った。


目の前の土川を見ると、鋭い爪の他に、彼の皮膚には隠れた鱗が浮き出ていた。


最初に頭に浮かんだのは、「霊能者」である。


先ほどの戦いで、厳しい戦いになることは分かっていた霍夜は、強者との対決に怖気づくどころか、興奮していたのである。


一方、戦いが始まったのを見て、石岡は爆丸を助けようとするが、草津の姿が立ちはだかる。


目の前の男を見、石岡は不愉快そうにこう尋ねた。「何?関わるつもりがないじゃないか?」


草津は「戦わせろと言ったんだから、見ていろ。どちらかが負けたら、お前の番になる」と無関心な顔で言った。。


それを聞いた石岡は、騙されたことに気づき、怒って背中の鈍器ハンマーを抜いて草津に怒鳴りつけた。


草津は石岡の攻撃を見て怪しい笑みを浮かべ、両刀を抜いて前に出た…


∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗


場面は霍夜のところに戻る。


「長!」


霍夜の目にはすでに霊紋が現れており、手にした玄天棒はすぐに長くなり、土川に襲いかかった。


不意をつかれた土川は、霍夜が同じ霊能者であり、特殊な武器を持っているのを見、警戒心を抱くようになった。


鋭い爪で地面にトンネルを作って身を隠し、その後の霍夜の攻撃はそのまま空振りになった。


消えていく土川を見、霍夜は土川からの攻撃を警戒していた。


突然、彼の後ろの地面の瓦礫が爆発し、土川が霍夜の後ろから攻撃してきたのである!


視界の死角に直面し、動体視力を大幅に強化できる黄金の瞳を使っても、かわすのが遅れた。


(さあー)


霍夜を倒そうとしたとき、霍夜は体をひねって攻撃を避けたが、かわす距離がないために服が引き裂かれた。


「ちくしょう、もうちょっとだ。」


土川は攻撃をかわした霍夜を見、攻撃の失敗を悔やんだ。


「私の服は…」


霍夜は、攻撃の危さを心配するよりも、自分の服装を気にしていた。


長年連れ添った服に、今度は穴が開いてしまったのである。


これに怒った霍夜は、怒りにまかせて玄天棒を手に取り、攻撃を仕掛けてきた。


怒って玄天棒をとって攻撃したが、霍夜の考えていることがわからないので、また同じことをして地面に潜り込んだ。


「また逃げられた」


再びの空振りに、霍夜は怒りで冷静さを失ってしまった。


土川は隙間を見、背後からではなく、霍夜の足元から攻撃し、霍夜を宙に舞い上がらせた。


この時、宙に浮いている霍夜はかわすことができず、鋭い爪が彼の顔面を直撃した。


「…」

鋭い爪が霍夜の目に突き刺さり、胸から血が流れ続ける中、彼は声を出すことができなかった…


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る