第5話

「はあ~」霍夜は軽くあくびをして、隣にいる草津を見た。


「おい草津、見つけたのか?もうここは三回目だよ」


草津は今二道の前で悩んでいる。地図を上下とひっくり返して、正しい道を見つけようとしていた。


「もうちょい待ってって、もう少しで見つかるから……」


草津の方向感のみを頼りにして旅立ったら、生涯をかけてもモゴラへはいけないだろう。


「もういいや、ここにしよう!」


直感で、霍夜は右の道へ向かった。草津を無視してまっすぐ前へ進んだ。


霍夜が行ったのを見て、草津も地図なんかを置いて彼の後ろにつけた。


暫くして、霍夜らはまた例のところへ戻った……。


懐かしい風景を見渡して、霍夜も気まずそうにカラカラと笑った。


「あははは……大丈夫さ、まだ手はある」


霍夜は自分のはち巻きから銀の針のようなものを取り出して、針が普通の棒ぐらいの

大きさになるまで霊気を注いた。


「なんか特殊な棒だなぁ」


霍夜のパフォーマンスを見て、草津は思った。性格だけでなく、持った武器も特別であることを。


「こいつは玄天棍というんだ、師匠からもらったもの」


霍夜は得意そうな笑顔で自分の武器を見せびらかした。そして、その地面に棍を挿して手放した。


(ドカンーー!)


玄天棍は大きな音を立てて倒れて、その片端は右の入口を指した。


「よっしゃー!右だ」


棍が指した方向を見て、霍夜は自信そうに叫んだ。そのまま右の道へと進んだ。


霍夜が言った方法はこんなもんだけだと思う草津は、自信満々な彼の歩調を見て頭を横に振った。仕方なくイヤイヤそうに同じ右へ向かった。


しかし前もまた二道であった。


「今はどうすればいいの?」


草津は戸惑う目で霍夜の行動を待っていた。


「大丈夫だって、見どけよ」


霍夜はまた玄天棍を地面に挿した。


(ドカンーー!)


「左だ!」


「右だ!」


「左だ!」


「右だ!」


「やっぱ右だ!おい草津、右だぞ左じゃねぇよ!」


こうして元々静寂な小道に、棍がドカンドカンとした音が続けた。


∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗


徐々に目の前に建物が現れ、少し近づけば人群れの声も聞こえてきた。


「ほーら、着いただろう。草津見たのか、俺の方法結構いけるだろう」


霍夜はまた得意そうな顔で村へ進んだ。


まさか本当にこんな運だけの方法で村を見つけるとは。まあそれでもいい、せめて今夜は野外で泊めなくて済んだし。草津もほっとした。


村の道に、一人帽子をかぶった白髪の老人がゆったりと散歩をしている。


「おいおじいさん、ここの宿ってどこか知らない?」


霍夜は声を上げて老人の方へ走っていった。


「え?何だと?」


しかし老人は霍夜の言うことを聞き取れなかったように、手を耳元にして枯れた声で返した。


「あの~おじいさん!宿への道は知らないか?」


霍夜は老人のところへまた声を上げて聞いた。


「はぁ?何の道?」


またしてもゆったりと答えた。


「あのう!宿への道を教えてもいいんですか!?」


まさかここで永遠に循環するのかと。霍夜は息を吸って、腹から声を出すように高らかな声で聞いた。


今回はようやく老人の耳元へ届いたようだ。


「あ~揚屋ね!うちの村じゃいないわ。隣のデッカイ町に行ったほうがいいよ。まあでも今の時間じゃどこも開いてないわ。若いっていいよなあ。わしも若い頃結構行ってるのよね……」


こうして老人は自分勝手な話をし始めた。


その言葉を聞いて霍夜も怒るのをやめて、諦めそうにため息をした……。


「はあ……」


道を聞くくらいでこんなに難しい?もうっ回鉄鰐亀を相手にしたほうがましだわ……っと。


「さっき村人に宿への道を聞いたよ。ていうか、お前何してるの?」


ちょうど草津が帰るところだった。しょぼんとしている霍夜を見てつい何があったと気になった。


「何でもないわ……ほら行こうっか……」


元気なさそうに霍夜は応答した。疲れた体を引きずって宿へ向かった。


∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗


宿への道を歩いて、周りの建物も減りづつ、目に入るのは高い建築と広い花畑のみだった。

しかし、これはまた壮麗な景色であった。


すでに元気に戻った霍夜は草津の手を引っ張ってワイワイと盛り上がっている。


「おい草津見ろよ!花がいっぱいだぞ!」


草津はあまり驚かなかった。ただ花たちも見ていた。


「あー、バイオレットの花だ。昔実家にもたくさんあった、まあでもこんなにいっぱいとは見たことはないな」


草津によればどこにでもある花だったが、霍夜の故郷にはなかった。彼は自分の興奮を抑える気もなく花畑へ飛び込んだ。


「すげぇいい匂い~」


綺麗なお花の匂いを嗅いだら、向かってきた花粉で大きなくしゃみをした。


霍夜が花畑ではしゃいでいる頃、赤毛ロング―の男性が通り抜けた。美貌と称してもよい顔の持ち主なのに、なぜかやや窶れている。彼が着たタキシードもこの村には合わない感じが漂って、村の人とは思えないくらいだ。


「そこを離れろ!花畑に近づくな!」


霍夜のことを発見して男は怒鳴った。


隣にいった草津はその怒鳴りでびっくりしたが、目の前にいた男は恐らくここの主と思え、急いで霍夜を連れて花畑から離れた。


「すみません、本当にすみません」


「こいつら……」


二人が離れたのを確認して、男の怒りは少々静めた。しゃがんで花たちの様子をチェックし始めた。


男の視線が二人から離れる前に、霍夜と草津がまた帰ってきた。


「帰ってきて何をするつもり?」


二人を見て、静めそうな怒りも戻ってきて、赤毛の男がまたむかついた。顔色も悪くなった。


「先ほどは失礼しました。今仲間と一泊できる宿を探しているんです。でもここってこの建物以外何もないみたいですね。すいませんが、宿の居場所を教えてもらってもいいんですか?」


霍夜はにこにこしながら、少し照れそうに男に訊ねた。


霍夜のことは気に入らないが、大して悪そうなこともしていないと考え、男は丁寧に答えた。


「結構だ。ここがお前らが探した宿だ。しかし、今日はもう閉店だ。別のところを探せ」


そう言って、男は建物の中に入り、ドアを締めた。


閉めたままのドアを見て、霍夜は隣にいる草津と顔を合わせた。やはりどう考えてもまだ怒っているからそう言ったに違いない。でも相手が住んでくれないのならどうしようもなかった。


「どうする?」


草津も手を上げた。


「まずは村に帰ろう」


二人がまだ離れていない時に、一人の白髪の老人が宿前に現れた。先ほど霍夜に道を聞かれた村長だった。


(コンコン)


「フェルいる?」


老人がドアを叩く音を聞いて、フェルという名の男が再び現れ、宿の扉を開いた。


老人が訪れたのを見て、元々嫌そうなフェルの顔にも笑顔ができた。


「村長さんなんだ。何かご用事でも?」


村長はフェルの顔を見て、


「いえ、別に何もないよ。ついで見に来ただけさ。調子いいみたいだし、安心した」


また話をかけろうとしている霍夜を止めて、草津もを村長たちを邪魔する気がない。いつも面倒を起こす霍夜を連れて離れた。


「おい、草津、引きずるなって!」


∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗


レストラン、二人は腹を満たしている。


食べ物で口がいっぱいとなった霍夜は、ムニャムニャの声で草津に話をかけた。


「なんだあいつ、フェルっていうのか!なんでそんなに怒るのは分からないし」


「もう迷惑を起こすなよ。早く食べろ。後で一泊できるところを探すんだから」


一枚のお肉を口に入り、草津はあまり霍夜のことを相手にしてくれなかった。また霍夜のやつ、何かやらかしたら面倒だっと放っておくつもりだった。


この時レストランに顧客が入ってきた。フェルと話しを終えた村長だった。


「あれ、あの人村長だった?なら直接泊める場所はないかと聞いとけばいいんだろう?」


と入って来た村長に気づき、霍夜は言った。


彼は村長の隣に歩いて、注意を喚起しようとした。


「おや、早朝の時揚屋に行きたいと言った若者ではないか?また何かしたいでも?」


今度こそ、霍夜も村長の扱い方を覚えた。息を深く吸って、口の隣に手を当てて、限界まで大きくした声で訊ねた。


「ほかに、泊めるところは、ありませんか???」


その大袈裟な声で、レストラン全体を静めた。


「こいつまた……」


食べ物を手放して、草津は仕方なさそうな顔で霍夜を見た。ご飯を食べるくらいでこのさまとは思わなかった。


村長はまたゆったりとした口調で答えた。


「フェルのことかい?実は昔そんなに憔悴ではなかったよ。その成り行きと言ったら、彼がこの村に来た一年前のことだ……」


その言葉を聞いて、霍夜はハッとした。村長がまた彼の質問を間違えた……。

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