第4話
草津と鉄ワニガメの戦いはまだ続いていた。
鉄ワニガメの足にはたくさんの傷跡がついているものの、それほどの重傷ではない。しかし草津はこの時すでに激しく息を切らしていた。明らかに、霊気を使うことは彼にとって大きな負担だった。
逃げるつもりか?
目の前の鉄ワニを見て草津の脳裏には憎い敵の姿が浮かび、彼の怒りは燃え上がった。
「お前を倒さずに、私はどうやって強くなる!どうやって彼に勝つことができる!?」
草津の気勢は怒りでより強くなった。彼はゆっくりと刀を片付け、もう一本の刀を両手で握った。
「一刀流 鬼斬!」
この瞬間、草津はかつてないほど強くなった。彼の霊気は突然増し、狂ったように刀に纏わりついた。刀はすべてのものを断ち切ることができる神刀のようになったが、鉄ワニがその場でぼんやり草津の攻撃を待っているはずはなかった。
それを見て、まだ十分に力を溜めていなかった草津には刀を振り回すことしかできなかった。ぶつかった衝撃と草津の攻撃は再びその硬い甲羅に斬り込まれた。
強力な攻撃は硬い甲羅にやっと亀裂を与えたが、打撃によって草津は手の刀を握り続けていることができず、威力で飛ばされて近くに落ちてしまった。そして草津自身も鉄ワニガメに突き飛ばされた。
衝撃を受けた草津の口から血が滴り、地面に落ちた。今、彼は無力さを感じていた。鉄ワニガメの強さを過小評価し、自分自身を過大評価していたことを知った。
諦めようとしていたとき、転がって行く桃が彼の目に入った。ホヤがくれたあの桃が、ちょうどぶつかって飛ばされた時に落ちたのだった。
その時、ホヤはもはや憎たらしい存在ではなかった。草津は少し騒がしいホヤの笑い声を思い出した。
「今回成功して戻れたら、お前の仲間になってやらないこともない」
草津はつぶやき、元気を振り絞って立ち上がった。そして別の刀を引き出して戦闘のポーズをとった。
「来い!鉄ワニガメ!」
草津は鉄ワニガメに向かって叫んだ。この瞬間、死さえ恐れないような眼差しを目に宿していた。彼は今、自分が強くなったことを感じていた!
「草津!」
草津が命を懸けて戦おうとしていたそのとき、遠くから叫び声が聞こえ、木の上から人影が飛び降りた。
それはホヤだった。彼は片手に鉄の棒を持ち、布でパロを背中にくくりつけていた。
「何をそんなに慌ててるの?」
ホヤは体勢を整えて草津を見下ろし、不思議そうに言った。
「……気をつけろ!」
ホヤの発言に、闘志が昂っていた草津は一瞬言葉を失くした。説明しようと思ったが、鉄ワニガメの巨大な尻尾がすでにホヤの後ろに迫っていたので、注意を与えざるを得なかった。
幸いにも、草津のおかげでホヤは攻撃をかわすことができた。しかし背中に括り付けられていたパロにその幸運は起きなかった。巨大な尾が彼の鼻の先をかすめて、恐怖のあまり失神してしまった。
「忘れてたよ」
攻撃をかわしたホヤはそこでやっと背中に生きた人間をくくりつけていたことを思い出した。背負っているのも邪魔だと感じ、彼を木の幹にくくり、振り向いて草津を見た。
「草津、僕決めたよ! これから、草津の敵は僕の敵だ! 同じ目標を持てば、仲間になれるよね!」
ホヤは、この理由なら草津が自分の仲間になってくれると信じ、自信をもって自分の考えを分かち合おうとした。
「こいつを倒してからだぞ!」
言っていることはめちゃくちゃだけど、ホヤの思いは草津を少し感動させた。
「よし、鉄ワニガメ、来い!お前を倒せば草津は僕の仲間になるんだ!」
「金霊眼!」
ホヤが筋骨を動かすと霊気が溢れ出して両目に変化が現れた。目にびっしりと金色の紋様が浮かび上がり、瞬時に黒い瞳孔が埋もれて金色の両目に変わった。
「お前は霊能者なのか!?」
ホヤの変化に草津はとても驚いた。一般的な超能力では攻撃や防御を単純に強化することしかできないが、霊能者は霊気を転化させ、攻撃を多様化させることができるのだ。それは素晴らしいことのように聞こえるものの、残念ながら非常にまれで、今日このうるさいやつにそれを見られるとは思っていなかったのだ。
ホヤは霊気を全身に巡らせ、棒を振り回して鉄ワニガメに一撃を加えた。
棒で打ったところから鈍い音がし、攻撃された鉄ワニガメは体を揺さぶって力を集中させた。
怒った鉄ワニガメは、体をひねって巨大な尻尾を振り回して反撃を始めたが、ホヤは不思議な瞳の力で軽く攻撃をかわし、空中で翻ってまた棒で一撃を与えた。
殴られて体を移動させた鉄ワニガメを、草津もぼんやりしながら見ていた。いつもあっけらかんとしているホヤが、戦ったらこんなに激しいとは思いもよらなかった。
「すごいでしょ!」
空中のホヤは草津に自分を見せびらかしながら着地した。この隙に、鉄ワニガメの巨大な尻尾が襲って来た。ホヤが気づいたときには目と鼻の先に迫り、避けるには間に合わず攻撃を受けるしかなかった。
「ホヤ!」
これを目の当たりにした草津は心配になったが、なんと殴り飛ばされたホヤの体が膨らみ、一かたまりの霊気になって散った。
(それは分身だよ! )
それを見て、草津は霊能者の不思議な能力について驚き、感嘆し、やっと理解し始めた。
「危ない危ない、殴り倒されるところだったよ。そろそろ終わりにしようか」
ホヤは反対側に現れ、どこからか出てきた棒を手に持って周りの霊気を取り込んだ。棒はだんだんと大きくなり、人間と同じくらいの大きさになった。
「大アラーム!」
棒はホヤも軽くは扱えないほど大きくなり、彼は大きな鉄の棒を苦労して振り上げ、前に突き出した。
ホヤが体勢を整えている間、鉄ワニガメも、大きくて強い口を開いて突進してきた。
お互いがぶつかった爆発のようなエネルギーは、両者をそれぞれ撃退させた。鉄ワニガメは棒で殴られ、目を眩ませ方向がわからなくなった。
「草津、今のうちに…」
ホヤの棒は攻撃の後元の大きさに戻り、ホヤ自身は横たわって息を切らしながら草津に声をかけた。
「言わなくても分かってる」
チャンスに直面した草津はすでに準備ができていた。体の霊気を再び刀に集めると、腰の六角形の鈴が狂ったように鳴り出した。この瞬間の草津は鬼神のようなものだった!
「一刀流 鬼斬!」
(リンリン!)
鈴が鳴り、草津の攻撃が振り出た。霊気を含んだ刀が甲羅の一箇所を粉々に砕き、その衝撃が鉄ワニガメの左足に深い傷を作った。
完全な四肢の支えを失くした鉄ワニガメはひざまずいた。しばらく必死にもがいていたが、足の怪我があまりにも深く、立ち上がれずに叫び声を出すことしかできなかった。
攻撃を終えた草津はため息をついた。今回はホヤの助けがあってこその勝利とは言え、やはり自分自身の成長という意味でこの戦いには意味があった。
そして鉄ワニガメの前に出て、最後の一撃を与えようと刀を振り上げた。
「待って!」
ホヤは声をあげて草津を止め、そばに行ってさっき持ってきた布を開き、三つの灰色の卵を見せた。
「これは鉄ワニガメの卵。パロっていう悪党がこれを盗んだから、鉄ワニガメを怒らせたんだ。逃がしてあげようよ!」
ホヤはそう説明し、草津を説得しようとした。
しかし草津は、この鉄ワニガメがたくさんの村人を傷つけてもいることを知っていた。今斬らなければ、罪のない人に害が及ぶ可能性がある。この卵のために母親を死なせたくないという思いをからか、ホヤの頼みからか、彼はしばらく考えていたが、ため息をついて刀を収めた。
草津が自分の望みを受け入れたのを見てホヤは喜び、鉄ワニガメに簡単に包帯をし、三つの鉄の卵をワニガメの前に置いた。
「行こう!」
後始末をしたホヤは立ち去ろうとして草津に声をかけた。
目の前でホヤが自分に向かって手を振っている姿を見て、草津は少しぼうっとしていた。これからの旅路はもう一人ではないと知ったのだった。
「ホヤ、これが美味しいっていうのか!?」
出発の前に、草津はホヤがくれた桃を拾った。本当においしいのか?一口齧ると、想像していた酸っぱさはなかったものの、海水の塩味が口に流れ込み、草津はそのまま吐き出した。
「ああ、草津、捨てないで!食べないなら僕が食べるよ!」
「うん…本当にまずいね!」
「何か忘れているような?まあいっか!」
∗ ∗ ∗ ∗ ∗ ∗
夜、二人は小さな村で旅館を見つけて休んだ。
しかし、森のどこかで目を覚ましたパロは、周りから聞こえてくる獣の鳴き声を聞き、泣き出したくて気が気でなかった…
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