第30話 ですよね外交
山里に来てしばらくたった。
私は相変わらず集落の中で一番下の身分だ。
そしてもう一人よそ者がいる、近くの別荘に住んでいらっしゃる方だ。
普通別荘族の人は集落の自治会には入らない事が多いらしい。
しかし、彼は近所つき合いが好きらしく、集落の一員となったようだ。
なので、私が来るまではその人が使い走り的存在だったようだ。
はじめは客人扱いだったらしいが、時間が経つと、やはりよそ者の新人となるらしい。
私が来てから、彼は下が出来てうれしそうだった。
私によくアドバイスをしてくれたし、方言の通訳もしてくれた。
そんなある日事件は起こった、田舎に東京から来るとよくある質問だ。
「東京にいると、芸能人を見かけるのかい」そう言われて「めったに見ないけど仕事で数人は会った事があります」
そう言うと、「えっ」ざわめきとともに質問攻めとなった。
以降私の身分は少し上がり、対応が良くなった。
その反動で、別荘の彼はまた一番下となった。
とても悲しそうな顔をしていた。
しばらくすると彼は別荘を売り、出て行ってしまった。
私はまた一番下の身分となった。しかも高齢者が多いので私の話はすぐに忘れられ
対応も、振り出しに戻った。
私は出来るだけ賛成も反対もしないスタンスをとるようにしている。
本気で私に意見は求められないし、下手に意見を言えば睨まれるのは学習済みだ。
だから、返事は「ですよね」が多くなる。「なるほど、ですよね」 「えっそうなんですか、ですよね」
私は様々なアクセントや言い方で「ですよね」を使い分けている。
普通なら、田舎の近所付き合いは結構大変だ、そこが嫌で出て行く人も多い。
しかし私は、落ちぶれて来ているのでたいして苦にならない。
そして私は知っている、よそ者はいくら時間が経ってもよそ者である事を。
しかし、世代交代は確実に起こるので、一生使い走りにはならないと思う。
「絶対なるものか!」
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