第28話 時が経つと東京は離れていく

田舎にいる時間が増えてくると色んな変化が起こってくる。

まず、ファッションなる物を考えなくなる。

元々東京で暮らしていた時から、ファッションセンスなどと言う物はなかった。

それでもあまりひどい格好だと逆に目立ってしまうので、無難な格好をすることが日常だった。


事務所から打ち合わせで出かけようとすると、スタッフの女の子から待ったがかかった。

「今日はどこの打ち合わせですか?」相手の会社と場所を言うと「その服装じゃ駄目です、会社がセンス無いと思われるのでやめてください」自宅も同じマンションだったので着替えさせられていた。


しかし、山里の暮らしに慣れてくると何を着てもよいのだ、殆ど人には会わないし周りは高齢者ばかり。

裸じゃなければ大丈夫なのだ。


私は水を得た魚のように自由になり解放された。買い物に町へ下りる以外は何を着ても大丈夫なのだ。

多少破れていようが色合いがおかしかろうが、不潔でなければ良しとするのである。

山暮らしだと、靴はすぐに傷付いたり土埃にまみれる、これも仕方がないのである。

しかも服を買うのはリサイクルショップなのでたいがいのものは五百円で買える。

その結果見事な田舎者ファッションとなって行く。もちろん田舎にもセンスの高い人もたくさんいる

しかし、基本ジャージにサンダル的な人が多いのも事実だ。


その中でも私は際立ってダサい。

それでもなんとか生きてゆけるのだ。

しかし、時々東京の仕事に出かけると何を着て良いかが解らず、無難なスーツを着て行くことが増える。

そして東京に着くと色々と不都合が起こる。


まずエスカレーターに乗ると邪魔になってしまう、東京だと駅やビルの中に多くのエスカレーターがあり乗ると急がない人は左によける。暗黙のルールみたいな物だ。

しかし田舎暮らしが長くなると、エスカレーターに乗るのは大きなショッピングセンターくらいだ。あまり人は乗ってないし

前に立たないとエスカレーター自体が動き出さない。乗ってもどちらかによけるなんてことはほぼないのだ。


エレベーターになると健常者は乗ってはいけない雰囲気すらある。

そして、歩道を歩くのが下手になっている。

東京だと人が多いので、ぶつからないようにさっと人を交わす。邪魔になると怪訝な顔で見られる。


ヘッドフォンをしてても不思議とぶつからない人が多い。

しかし、田舎に慣れてきた私は歩道を歩くのが極端に下手になっている。

「えっ、こんな所にこんな店が出来たんだ」などと思いキョロキョロしてしまい、他の通行人の邪魔になっている。


そして、何よりも東京の人の多さとせわしなさにうんざりしてしまう。

私は田舎に染まるのは恐ろしく早かったようだ。

そして東京はどんどん遠くなってやがてテレビの中に入ってしまい、現実の事とは思わなくなっていくのだろう。

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