第5話 自由な時間と格闘した

もう引き返すことは出来ない、やるしかないのだ。

そう思うと、寂しい自由な時間と格闘することにして、ある計画を立てた。

ずっと憧れていた書斎というものを持ってみることにしたのだ。

二階の小川が見える日当たりのよい部屋を書斎にして、本を読みふける事を思いついたのだ。


「ナイスアイデア!」そう思った。


しかしお金はかけられない、なぜなら落ちぶれている身分なのだから。

そこで近くの町まで出かけてみる、するとリサイクルショップが数件あることに気がついた。

のぞいてみると本棚がいくつもあった、見かけを気にしなければ、二千円程で買える。

早速いくつか買いこみ、本棚が確保できた。

そして近くの古本屋で、百円で販売されている本があることを知り、一週間分として10冊ほど買った。


面白い本に出会うと、時間はあっという間に経って楽しい。

もちろんはずれもあるので、結局ちょくちょく古本屋さんへ通うことになる。


本が増えると少しテンションが上がった、まるで頭が良くなったような気がした。

読んでからしか知識は増えない、しかし目の前に知識が有る、これは私の物だ、そんな錯覚を起こした。

私は、とてつもなくめでたいのかもしれない。


そんなある日、本を読んでいると何か物足りなさを感じた。

「そうだ!美味しい湧水が有るんだから、美味しいコーヒーを入れてみよう」そう思った。

さっそく町へ出かけ、コーヒーの豆や焙煎機、豆挽き、フィルター等を買い込む。

もちろん専門書も買ってきた。


昔若いころに、アルバイトで喫茶コーナーで働いたことがあった、なのでなんとなくはわかっているつもりだった。

しかし、実際にやってみると難しかった。

焙煎は難しく、炭になったり、半生だったりした。

買ってきたコーヒー豆は、飲めないまま直ぐに無くなった。

また豆を買ってきて、性懲りもなく焙煎した。

一週間程格闘し、妥協して自分なりのコーヒーを入れるようになった。


とても高価なコーヒーとなってしまったが、焙煎の香りの残る中で、湧水コーヒーを飲みながら本を読む、そんな楽しい時間が持てるようになったのだ。

それからもコーヒーの入れ方に様々な工夫をして、独自の味を楽しめるようになってきた。


書斎の本と湧水コーヒーでひと月程は充実した生活を送った。

しかし、なれというのは恐ろしい、すぐにそれだけでは満足できなくなった。

自由は素晴らしい、しかしリスクや責任が重くのしかかる事は分かっている。

この後確実にやってくるだろう不安と経済的困難を予感しながら、つかの間の自由と戯れた。


そしてまた暗中模索の日々が続くのだ。

先が思いやられる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る