第3話 田舎に移り住んだ
元々荷物が少なかった私の引っ越しは、レンタカー1台であっという間に終わった。
そして誰もいない広い家に、ぽつんと一人となった。
夜ともなると、動物の鳴き声や木々のざわめきしか聞こえない。
あとは、近くの小川のせせらぎの音がするだけ。
なんとも言えない孤独感が迫ってきて、落ちぶれた感がぐっと出てきた。
とりあえず、数日はこの地域を把握するようにと思い、散歩して少し離れたご近所さんに取材した。すると、よい事も色々と解った。
なんとこの地域は湧水が豊富で、水道は地域独自の水道だ、月に千円の維持費を払うと使い放題らしい。
つまり、使用量を計るメーターもなく、水道代金は無料なのだ、しかも美味しい、そのまま蛇口からごくごく飲めるのだ。
借りた家は、田舎独特の家でなく、普通のオール電化の家だった。
お風呂は灯油のボイラー方式で、すぐにたっぷりのお湯が出て来る、しかも湧水なのでとても気持ちが良い。
近くに日帰り温泉等もあり、お風呂には不自由はしなさそうだ。
ご近所の方々もとても優しくて、「なんか困ったことがあったらいつでも相談してくれ」と頼もしい限りだ。
とりあえず良い所に引っ越したかもしれない。
そんなある日、駐車場の水道が漏れていた。
さっそく近所のおじいちゃんに相談する。
すると、「水が出ているなら心配ない」と言われた。
私は水がもったいないと思ったのだが、おじいちゃんが言うには、「水が出なくなったらそりゃ大変だ、
しかし漏っていても、出ているんならメーターも無いし何も困らない。」
「すぐそばの小川に流れるのだから何も問題ない」そう言われた。
確かに湧きだした水が、川に流れて行くだけなのだ、お金もかからない。
そう言われると、何も反論が出来なかった。
他にも色々と説明されたが、方言がきついので、話が半分ほどしかわからなかった。
しばらくして、この地区の区長さんに相談したところ、間もなく水漏れは止まった。
場所が変われば価値観は全く変わる、台所のシンクに、水がポタポタ落ちても気になる生活をしてきたので、
一晩、お風呂に三杯も杯漏る程漏っている水を、問題ないとは思えなかった。
私は改めて、自分が小さな人間なんだと実感した。
家の窓は、普通にアルミサッシの窓だった。
しかし、田舎の洗礼とも言われるカメムシは、普通に侵入してきた。
何も知らず触ったら、恐ろしい臭いをまき散らした。
なぜ、網戸もあるのに入ってくるのだろう?
また、ご近所さんに話を聞いてみる。
どうやら、窓の上の部分の小さな隙間から入ってくるらしい。
おじいちゃんが言うには、茶筒を用意してさっと中に入れ蓋をすると良いらしい。
そうすると、自分のまき散らした匂いでしんでしまうらしい。
「ほんとかなあ………」
他にも色々と説明されたが、やはり方言がきついので、意味は解からなかった。
早速、茶筒を買って挑戦したみた。
なかなか難しい、何度も失敗して臭い思いをする。
そこで私なりに考え、布製のガムテープでカメムシの背中をくっ付け、取れたらぐるっと包囲して密閉して捨てる。
これは思ったより上手くいった。
ちょっとだけ、田舎暮らしを克服したような気になりほほ笑んだ。
そしてそのあと、また私は自分が小さな人間なんだとまた実感した。
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