第五話『天使と機械音痴』

「やっぱり似合っていないかしら?」


「そ、そんなこと……とても似合っていて、可愛いよ!」


 降り立った天使に、仄音はタジタジになっていた。勿論、似合っているとは思う。ロトは元々美人であり、メイド服とマッチして本物のようだ。

 しかし、どうしてよりによってそれを着てしまったのか? メイド服を着込んだロトと買い物をしないといけないのか? まだ前の服装の方がマシだ。と仄音は仄暗いオーラを醸し出して、これから起こるであろう悲劇に困り果てていた。


「そ、それじゃあ帰ろっか! そんな格好じゃ買い物なんてできないしね!」


 ロトの手を取って、強引に帰路に就いた。仄音の独断だったが、ロトは抵抗すること無く、妙に大人しい。

 そんなロトの様子に、仄音は不思議に思ったが同時にチャンスとも思った。だから構わずにどんどん家へと引っ張っていく。


「アリアから何も言われなかったかしら? 彼女、物凄く嫌味ったらしいから……」


「え? ああ、あの天使のこと?」


 不意に質問され、その内容は仄音の身を心配しての事だった。


「うん。大丈夫だよ。殺されかけたけど……ロトちゃんが助けてくれたし……」


 表情を曇らせる仄音の不安を霧払いするように、彼女の手をロトは強く引っ張った。必然的に立場が入れ替わり、仄音がロトに”エスコート”される形になっている。


「それより、ロトちゃんはどうしてメイド服を着ているの?」


「これ? 仄音が私と買い物に行きたくない理由が服装だと思って変えてみたの。メイド服? って由緒正しい服装なんでしょう? そうミカエルが言っていたわ」


「そうだけど……普通は着ないよ」


 確かに人類の歴史上、由緒ある服装だ。しかし、今の時代では浮いてしまう服装であり、着込むのはコスプレイヤーかそう言った嗜好を持つ人のどちらかだ。普通に生活していたらまず見かけないだろう。

 つまり、メイド服というのは注目を集めるということだ。

 羞恥心からのぼせたように顔を赤く染めた仄音は空を仰ぎ、深く息を吐いた。


 そんな仄音の横顔を見たロトは胸が苦しくなった。

 体験したことがない。否、体験はしたことある。そんな気はするが一体どこで経験したのかは見当がつかない。急な病ではないことは確かで、原因は明らかに仄音だった。

 兎に角、その苦しみから解放されたかったロトは本能的に仄音から距離を取る。


「ロトちゃん? どうしたの?」


「あ、いや、何でもないわ。もう大丈夫だから……」


 怪訝に思う仄音に我に返ったロトは再び彼女と手を繋いだ。苦しさはすっかりと抜け落ちている。


「そういえばロトちゃん、アリアさんとはどう……いう……」


「ん? 何かしら?」


 急に立ち止まって呆然とする仄音に釣られてロトも動きを止めた。

 仄音は息継ぎをする魚のように口をパクパクとさせ、どんどん顔が青ざめていく。親に隠し事がバレた時のようだろう。


「ど、どうして? ショッピングモールに?」


 家に向かっていた筈なのに、なぜか目の前には活気に満ち溢れて陽の場所であるショッピングモールがある。理解不能で仄音は立ち眩みがした。

 実はロトがエスコートすると同時にさりげなくショッピングモール方面へと進行方向を変えていたのだが、引きこもり歴が長く、会話に集中し、極度の方向音痴。その三つの要素を含んでいた仄音は気がつかなった。


「あ、ああああ……」


 メイド服を着たロトと手を繋いで歩いている仄音は注目の的だ。ここが秋葉原といった場所なら大して目立たないだろうが、生憎にも大阪の端っこ。老若男女問わず、色んな人がこちらを見てヒソヒソとしている。子供に至っては「ママー! あんなところにメイドさんがいるよー!」と無邪気にはしゃぎ、保護者の母は「見ちゃだめよ。ああいう大人になっちゃダメだからね」と子供を躾けている。

 痛い。視線がとても痛く、まるで胸に釘を打たれているようだろう。羞恥心で顔から火が出そうになった。


「それじゃあ買い物をしましょう。先ずは昼食ね。約束通り奢ってあげるわ」


「え、え、え……」


 周りの視線に臆することなく毅然としているロトは仄音の手を引いた。

 仄音は頭の中が真っ白になり、何も考えることが出来なくなっていた。

 ショッピングモールの奥へ奥へと連れられる。エスカレーターへ飛び乗り、上昇するに連れて階下の人ごみが豆粒のように縮んでいく。

 デートを楽しんでいる若いカップル。友達と駄弁っている高校生。カフェで一息ついているサラリーマン。それらだけでなく殆どの人はロトのメイド服を見ては、驚いたように二度見していた。

 もはや取り返しがつかないだろう。


 二人はカフェで食事を摂り、色んな店を見て回った。雑貨屋から服屋まで、兎に角生活する上で必要な物を買い込んだ。

 楽しむロトとは裏腹に、仄音は相変わらず死んでいた。羞恥心を刺激され続けた結果、うんともすんとも言わない人形と化してしまったのだ。そんな仄音を経由して店員と話すロトはもはや腹話術師だろう。

 場所はがらりと変わってゲームセンター、

 正直、買い物とは関係ない場所だったが、これで仄音が調子を取り戻すならとロトは億劫とした足取りで入店する。


「ねぇ、あの子メイド服を着ているよ」


「うわ、こんなところでコスプレかよ……」


 ゲームをプレイしていた人々は手を止めて、それぞれの感想を述べている。口に出さなくても目が語っていた。


「初めて来たけど随分と煩いのね。目に悪そうだし……」


 そんな軽蔑の視線を気にすることなく、ロトは周りのネオンに光ったゲーム機をまじまじと観察する。角張った派手な箱に、人々を楽しませる技術が詰め込まれていると思うと感心した。

 一方で、少しだけ感情が戻っていた仄音は昏い双眸で俯いている。


「まだ無表情なの? 人見知りにも程があるわよ?」


「……ごめんね」


 ただ一言謝って仄音は項垂れる。本当に恥ずかしくて仕方なく、謝罪の言葉はほんの少しだけ正常だった思考の働きだ。


「いい加減慣れなさい。周りを気にするだけ無駄よ。だって他人だもの」


「そんなことを言われても……」


「はぁ……」


 渋りまくる仄音に呆れたロトは彼女の気を逸らして上げようと適当なゲーム機に手を付けた。

 それはUFOキャッチャーだった。お金を入れてアームを精密に動かし、景品をゲットする。運が良ければ一発で取れ、運が悪かったら大金を吸い取られる。博打に近いゲームだろう。


「ロトちゃん……大丈夫だよね?」


 大丈夫とはUFOキャッチャーのやり方を知っているのか? それを踏まえて、ちゃんとプレイ出来るのか? そういうことを心配していたのだが、体調を聞かれたと勘違いしたロトはコクッと頷いた。


「本当かな……って、えぇ……」


 不安を感じつつ肝心の台へと視線を移すと、ガラス越しに映るのは天使の輪。勿論、玩具であり、頭に付ければ電源を入れれば光るというアミューズメントの景品らしいだろう。

 しかし、天使が天使の輪を狙うとはどういうことなのだろう。天使だったら本物の神々しい輪っかを出せるのではないか。

 仄音はジトーっとロトを見つめてしまう。


「どうやって遊ぶのかしら? ……ふむ、これは壊れているわね。取り敢えず、叩けば直るのでしょう」


「ちょ、ちょっと待って! そこにお金を入れるんだよ!」


 まるで映らないブラウン管テレビを直すかの如く、ムラマサを創り出して台を叩こうとするロトを、仄音は咄嗟に止めた。

 そもそもムラマサだと叩くのではなく、刃物なので斬るになってしまい、台に傷が負ってしまえば最悪は弁償しないといけないのだ。


「ほら、此処に投入口があるでしょ!」


「そう、ここに百円を入れるのね」


 ムラマサが消え、ロトは言われた通りに百円玉を投入し、ピコンッという軽い電子音と共に気分を盛り上げるためのBGMが流れ始める。


「なるほど……これでアームを動かすのね」


 プレイし始めるロト。その瞳は好奇心の炎を灯している。

 いざアームを動かし始めた。しかし、左右上下に動くレバーを適当にぐりぐりと動かしてボタンを押し、アームはほぼ初期位置の場所で降下して空を掴んだ。


「ろ、ロトちゃん? アレを狙うんだよ?」


「分かっているわよ」


 もう百円を入れてロトは慎重に景品を狙う。が、何度やっても明後日の方向へアームが行き、景品に掠ることもない。ただ何もない空間に降下する。

 その異様な光景を前に仄音は苦笑いを浮かべるしかできない。


(UFOキャッチャー初プレイだろうけど、あまりにも下手過ぎるよ。もしかして、ロトちゃんって機械音痴?)


 プレイするほど上手くなっているが常人には程遠く、まるで幼児がプレイしているようだろう。

思い返してみれば一緒に家庭用ゲーム機で遊んだ時、何度もプレイしても初心者を脱却しなかった。スマホの設定について訊かれた事だってあった。


(うーん……でも最低限は出来ているし、ただ苦手なだけなのかな……)


 仄音が考え込んでいる時、既にロトは千円を使っていた。

 漸くアームが景品に触れるようになったが下手なのは相変わらずで、寧ろ景品が遠ざかってしまっている。


「仄音、両替してきてくれる? このままじゃ終われないわ」


「え? 別にいいけど……って一万円……」


 仄音は受け取った諭吉を見て、ロトを一瞥する。

 ロトは見るからに目をぎらつかせて、獲物を見る目で景品を睨んでいる。

 ああ、これは負けているギャンブラーの瞳だ。今、引いたら損。しかし、景品を取れば元は取れる。そういう期待を胸にプレイして、最終的に大損するアレだ。

 恐らく、止めたところでロトはレバーから手を離さない。それこそ全額を投入したとしても獲る気なのだろう。

 同じ経験があるからこそ仄音は何も言わなかった。ただ不憫に思い、大人しく両替機を探してゲームセンターを彷徨う。

 ショッピングモールに入って初めての単独行動だった。


「なんだかんだ言って慣れてきたなぁ……」


 完全に恥ずかしさが消えたと言ったら嘘になるが、それなりに平然としていられる。今なら一人でも外出が出来ると自負し、同時に人間の慣れは恐ろしいと思った。

 仄音は学生たちの横を颯爽と通り過ぎる。ガラスが割れたような大量のメダルを補充する店員を見て、ずらっと並んだゲーム機の角を曲がった。


「あ、これが両替機だね」


 大きく両替機と書かれた機械を前に、仄音はふとロトとの出来事を思い出した。


「そういえば素っ気ない態度を取っちゃったなぁ……ロトちゃんに謝らないと」


 レストランや服屋さんでのこと。仄音は羞恥心に打ちひしがれて感情が鈍っていたので、迷惑を掛けてしまっただろう。だからきちんと一言謝って、今度こそ楽しい買い物をしよう。

 そう決心し、近くにあった両替機で一万円を両替して、落とさないようにしっかりと握り締める。

 周りを気にして駆け足気味にロトの元へと戻ると――そこには火花をバチバチと散らした台と焦ったロトの姿があった。


「あっ……」


 果たして、どちらの声が漏れたのだろう。ただ分かるのはUFOキャッチャーのアームが落ち、台を貫通して火花を散らしていることだ。

 普通にプレイしていてそうはならない。

 なら、何故そうなったのか? 答えは簡単で仄音が両替に行っている隙を見て、ロトは台を通してアームに魔法を掛けたのだが、重力魔法が暴発して結果的に台を破壊してしまう始末。

 ズルをして景品をゲットしようとしたロトは仮面に手を当てて格好をつけているが、プルプルと震えている。動揺していることがまるわかりだ。


「ろ、ロトちゃん? なに、しているの?」


「ち、違うのよ? 決して魔法を使って楽にゲットしようとした訳じゃなくて――そ、そう! くしゃみをした所為で魔法が暴発したのよ!」


「こ、怖! くしゃみで魔法が暴発って何かのアニメ!? 下手すれば私の命も危ないよね!?」


 普通に考えればくしゃみで暴発するなんてあり得ないのだが、信じてしまった仄音は一歩後退った。


「だ、大丈夫よ! こうしてしまえば! ほら!」


 慌ててロトが台へと触れると修復魔法が発動し、台はみるみるうちに元へと戻った。勿論、景品も元の位置である。


「ごほんっ……さて、両替はしてくれた?」


 自分のミスを無かったことにしようと咳払いをして話題を変えるロトに、仄音は頭を殴られたかのような驚きを覚えた。


「ろ、ロトちゃ――はい、両替してきたよ」


「ありがとう」


 親の仇のように睨みつけられ、怯んだ仄音は大人しくお金を渡す。天使のミスを掘り返すという行為は、自らの墓穴を掘る行為と一緒なのだ。

 お金を受け取り、札を財布に仕舞ったロトはUFOキャッチャーの前で肩をクルクルと回して柔軟させ、いざレバーを掴んだ。

 仄音は親が子を見守るようにはらはらとしていた。

 そして、両替をして三回ほどプレイが終わり、一向に動かない景品にロトは憤りを覚えて台を叩く。


「くっ惜しい……往生際が悪いわね」


「いや、全く惜しくないよ。全然動いてないし……私がやってあげようか?」


「え? でも、それはなんだか負けたような気がするわ」


「UFOキャッチャーに勝ち負けはないよ! このままだと時間が掛かりそうだし……いいから代わってみて!」


 あと数時間はプレイするような鈍さで、埒が明かないだろう。

 痺れを切らした仄音はロトからレバーを奪い取って、さっさとアームを動かす。

 仄音自体、あまりUFOキャッチャーをプレイしたことがなかった。幼い頃に数回遊んだだけであり、それでもロトよりは格段に上手いと断言できる。

 アームはがっちりと景品を捕らえ、ゆっくりと持ち上げた。一秒一秒が長く感じられ、落ちるかもしれない不安で仄音の心拍数が上がる。

 そんな心境に追い打ちをかけるようにアームはぐらぐらと傾きながら動き、その度に景品は段々と下がっていく。


「あっ!」


 ついに落ちた。風に散らされた花のように呆気ないだろう。

 思いがけず声を上げた仄音は絶望に染まった。が、景品の落下先が穴であることを確認して胸を撫で下ろした。

 取り出し口から景品である天使の輪を取り出して、仄音はロトへと渡す。


「運が良かったのか一発で取れたよ……」


「凄いわ。あんなに的確にアームを操作するなんて」


「いや、あれは誰でもできるよ。ロトちゃんが下手過ぎるだけでしょ」


「そう……薄々思っていたけど私って下手なのね」


 ロトは景品を抱えて俯いてしょんぼりとしている。


「え、いや、やっぱり私が上手いだけかな。運も実力の内ってね!」


 元気づけようと前言を撤回して胸を張った仄音だったが、ロトに疑心を含んだ瞳を向けられて顔を逸らしてしまった。

 人の行動というのは時に言葉よりもダイレクトに伝わり、ロトは深く心に傷を負った。





 頭に景品である玩具の天使の輪を付け、メイドなのか天使なのかよくわからないコスプレをしているロトはご機嫌だった。人見知りで挙動不審気味になっている仄音は買い物を続け、食料や日用品を揃えていく。

 それは数時間に及び、大量の荷物で二人とも両手を封じられながら、仲良く並んで帰路に就いていた。勿論、通り過ぎる人に注目され、まるで見世物小屋だろう。


「はぁー疲れた。冬なのに少しだけ汗がでてきたよ」


 引きこもり故に体力がない仄音はふらふらと揺れていた。

 対して、普段から過酷な天使の仕事をこなしているロトは澄ました様子で歩いている。


「……ロトちゃん。遅くなったけど、今日はごめんね?」


「なんの話かしら?」


「ほら、最初の私、半分意識が無かったから……」


 UFOキャッチャーの時に謝るタイミングを逃し、仄音はずっとチャンスを窺っていた。

 そして、現在の時刻は五時過ぎ。冬なので太陽が隠れるのが早く、夕焼けになって黄昏ている今がそのチャンスだと判断したのだ。

 ロトは少しだけ沈黙し、きちんと仄音と目を合わせて想いを紡いだ。


「……私の方こそ悪かったわ。いきなりショッピングモールで買い物はヒキニートの仄音には辛かったわね。次はコンビニ……はゴミヒキニートの仄音には無理ね。一緒にゴミ捨てにでも行きましょう」


「ご、ゴミヒキニート……貶されているようにしか聞こえないよ……否定できないけど……」


 予想以上の罵倒に仄音は顔を引きずらせた。


「まあでも! 次は一人で行けるよ! ロトちゃんの所為で耐性がついたし!」


 お陰ではなく、所為である。

 今回の買い物はコスプレしたロトがいた所為でハードルが天高くまで上がり、必要以上に注目された。初心者が難易度ベリーハードでゲームを始めるようなもので、引きこもりの仄音には辛いことだ。

 しかし、しっかりと経験値として蓄積され、仄音は自信を得ていた。ただ一人で出かけるなんて、今日の苦行と比べれば霞んで見える。


「そう……期待しないで期待しておくわ」


「なにそれ。矛盾しているよ? ……ああ、お腹が空いてきちゃった」


「もうすぐ夕飯時だもの。今日からは食生活を正していくわよ」


「んー……ロトちゃんって料理できるの?」


 純粋な疑問だった。

 仄音自身、一人暮らし歴が長く、学生時代はきちんとした生活を送っていたため自炊をしていた。だから最低限の料理は出来た。


「得意ではないわ」


「そ、そうなんだ。因みに今日は何を作る予定なの?」


 嫌な予感を覚えた仄音は恐る恐る訊いた。

 するとロトは「そうねぇ……」と手に持ったエコバックを覗きながら考え込み――


「ライスオーブかしら……」


「なにその七つ集めたら何か起こりそうな料理は?」


「失礼ね。代々天使に伝わっている由緒正しいおにぎりよ」


「おにぎりなの!?」


 大層な名前の割に手軽な料理で仄音は思わず声を大きくした。


「ほ、本当に大丈夫? それにおにぎりだけなの? おかずは?」


「心配しなくていいわ。きちんと美味しいのを振舞ってあげるから」


 毅然とした態度で言うロトだが、その態度だからこそ仄音は不安に駆られた。今までの経験上、ロトが胸を張って語ることは碌でもないことが多いのだ。

 それに朝食なら兎も角、晩御飯がおにぎりだけなのは辛いだろう。何かしらおかずが欲しいと思い、一瞬仄音は自分が料理しようかと考えた。


「ふふふ、楽しみにしていてね」


「くっ……そんなに眩しい笑顔を向けられると……」


 仮面越しでも分かるほどの笑顔で張り切っているロトに苦言を呈すには勇気が必要で、それが足りなかった仄音はただ自身の弱さを歯痒く思った。


「それにしても今日は沢山買ったわね。でも、これでやっと最低限かしら?」


「そうだね。まだロトちゃんの布団とか買っていないし……あっ! あぁっ!? 弦を買い忘れたよ!?」


 衝撃の事実に仄音は愕然としてロトへと凭れ掛かる。

 そうだ。仄音の中の第一目標と言っても過言ではないギターの弦を買い忘れた。


「これは決定したわね」


「え?」


「明日もお出かけね?」


 にこりと笑みを浮かべて言うロトに、仄音は目の前が真っ暗になった。

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