第10話(2)モチベアップ
♢
「というわけで修行なの!」
「ふむ……」
「はい……」
姫の言葉に秋と天が頷く。
「三日間一生懸命頑張っていこうなの!」
「ああ……」
「ええ……」
「えい! えい! おー!なの!」
「おー……」
「お、おー……」
姫が拳を高々と突き上げるが、秋と天はそれに対し、拳を弱々しく上げるだけである。
「なんなの⁉ 監督とアニメーターがそんなんじゃ困るの!」
姫が頬をぷうっと膨らませる。
「だってなあ……天さん?」
「は、はい……」
秋の目配せに天が一応遠慮気味に頷く。
「なによ、監督⁉」
「え?」
「言いたいことがあるのならはっきりと言うの!」
「良いのかい?」
「構わないの!」
姫が頷く。やや間を置いてから秋が話し出す。
「……姫ちゃんPも業界に数十年身を置いているから分かっていると思うけど……」
「そ、そんなにベテランじゃないの!」
「冗談だよ」
「な、何を言いたいの⁉」
「自分が何を言いたいかというと……」
「というと?」
「……後半に続く」
「もう! ふざけないでなの!」
姫が両手をジタバタとさせる。秋が後頭部を抑える。
「失礼、ついつい悪い癖が……」
「どんな癖なの⁉」
「ここでCMを跨いだ方が良いかなと思って……」
「そんなに引っ張るような話じゃないの!」
「それじゃあ言うけど……修行回って今一つ盛り上がりに欠けるんだよね」
「す、素でメタ発言はやめてなの⁉」
姫が困惑する。秋が片手を振る。
「いやいや、そういうことではなくてだね……」
「ど、どういうことなの?」
「言い換えれば……そうだね、モチベを保つのが難しいのだよ」
「モチベーションを?」
「なあ、天さん?」
「こ、ここでそれがしに振らないで下さいよ……」
天が戸惑う。
「でも天さんだってそう思うだろう?」
「ま、まあ、それは確かに……否定は出来ません……」
「ふ~ん……」
姫が腕を組む。秋が両手を広げて問う。
「その辺りどうにかならないかね、プロデューサー?」
「……」
「姫ちゃんP?」
「……の」
「はい?」
「監督を引き続き任せて上げるの!」
「ひ、引き続きとは?」
秋が首を傾げる。
「そんなの決まっているでしょ!」
「いや、さっぱり分からないのだが……」
「2期なの!」
「2期?」
「2期と言えば、アレなの! 『デーモンファミリーリベンジ』、『デモリベ』の2期監督を秋ちゃんに任せて上げるの!」
「ええっ⁉」
「あ、あれって、2期決まっていたのですか⁉」
秋と天が揃って驚く。姫が腰に両手を当てて頷く。
「あれだけの社会現象を巻き起こしたアニメなの! 決まってないわけがないの!」
「い、いや……だって、なあ?」
「ええ、なにか版権元と色々揉めているとか、良くない噂ばかりを耳にしましたが……」
秋の問いかけに天が応える。姫が叫ぶ。
「そんなのは全部ネット上の噂なの!」
「ネット上の噂……」
秋が呟く。
「そうなの! そんなものに業界人が振り回されてどうするの⁉」
「これはお恥ずかしい……」
秋が頭を掻く。
「今後は気をつけて欲しいの!」
「ああ、分かった」
「分かればよろしいの」
「しかし……」
「うん?」
「その話しぶりだと2期は本来なら別の監督になる予定だったのかな?」
「ま、まあ、そうなの……」
姫が目を逸らす。天が声を上げる。
「そんな! 監督交代だなんて! 不祥事だってまだなのに!」
「天さん……これから不祥事起こすみたいな言い方やめてくれないか……」
「あ、す、すみません……」
「……色々とお偉いさんたちの思惑が絡まって……まさかほぼ無名の原作があんなにヒットするとは誰も思わなかったから……業界としても久々の大ヒットだし」
「なるほど……2期がコケて、せっかくのブームに冷や水をぶっかけたくないと……その為には2期は実績のある信頼出来る監督に任せようという流れが出来上がっていたと……」
「そ、そうなの……」
「なんとも……ズルい大人たちの考えそうなことだね……」
秋が呆れ気味に呟く。
「で、でも、心配は要らないの!」
「!」
「この姫ちゃんがありとあらゆる手を尽くして、秋ちゃんに監督を継続させるの!」
「……その発言、信じて良いのだね?」
「任せてなの! 2期どころか、3期だってお願いするの! だから、なんとしても魔王を倒して、元の世界に戻ろうなの!」
「ふっふっふっ……! モチベが最高潮に上がってきたよ! さあさあ、二人とも! 各々のスキルを磨いて磨いて磨きまくろうじゃないか!」
「そ、その意気なの!」
「ふっふっふっ! さあ、スキル【演出】! お前をどう磨き上げてやろうか⁉」
「ちょっと悪役っぽいけど、良い感じのテンションなの、秋ちゃん!」
「……デモリベの3期辺りが、原作だとちょうど修行回だったような……」
天は秋に聞こえないように小声で呟く。
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