第10話(1)それから一週間
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「はっ⁉」
「ようやくお目覚めだっぺか……」
「うわあっ⁉」
目を開けた俺をティッペが覗き込んでくる。俺は再び目を閉じる。
「な、なんで目を閉じるっぺ?」
「お、起き抜けにお前を至近距離で見ると心臓に悪い……」
「失礼なやつだっぺねえ!」
ティッペが怒る。俺はゆっくりと目を開き、尋ねる。
「……ここは?」
「前にいた街の隣街の宿屋だっぺ……」
「隣街か……」
「スグルはこの一週間ずっと寝ていたっぺ」
「⁉ い、一週間も寝ていたのか……」
「そうだっぺ……」
「桜は?」
俺は半身をベッドから起こしながら問う。
「魔王に体を乗っ取られたっぺ……」
「それは分かっている。その後だ」
「北の城……」
「北の城?」
「かつて魔王が居城としていた城の一つがこの北方にあるっぺ」
「何故追わなかった⁉」
「スグルがその状態だったっぺ。それに奴隷商人が奴隷を解放したことに怒って、街中のゴロツキを総動員したっぺ。オラたちとしてはとりあえず逃げるしかなかったっぺよ……」
「そうか、それもそうだな……怒鳴って悪かった」
俺は頭を下げる。
「この一週間の内に状況も随分と変わったっぺ……」
「え?」
「まず魔王の軍勢が復活、各地で暴れ始めているっぺ」
「そ、そうなのか……」
「まあ、まだ本格的な復活というわけではないので、各地の一般兵士や、自警団でもなんとか対応することが出来ているっぺ……」
「本格的? どういうことだ?」
「魔王と連動しているというか……魔王の力が弱まれば沈静化するし、強くなれば、その軍勢――モンスターが中心だっぺが――も強大化するっぺ」
「つまりまだまだ覚醒したばかりだということか?」
「要はそういうことだっぺ……」
「そうか……」
「更にもう一つ良くない知らせだっぺ……」
「なんだ?」
「魔王はチートスキルの転移者たちをことごとくその配下に加えたようだっぺ」
「な、なんだって⁉」
「まあ、実際戦闘があったのか、何らかの取り引きがあったかどうかまでは分からないっぺが、伝え聞く話によると、この一週間で転移者たち――『プライドのシルバ姉妹』、『グリードのリュカと三幹部』、『エンヴィーのディオン』、『ラースのモーグ』、『スロースのトーマ』、『グラトニーのパウル』、『ラストのABC』――が魔王の軍勢に合流したようだっぺ……」
「素直に誰かの下につくような連中だとも思えないのだが……」
俺はこれまで戦ってきた奴らの顔を思い出しながら呟く。
「繰り返しのようになるべが、魔王の強さに圧倒されたのか、とりあえすはその下で様子を見てみようというような思惑があるのか……そこまでは分からないっぺ」
「ふむ、そうか……」
「大体状況はこんなもんだっべ……」
「ちょっと待て。聞きたいことがもう一つある」
「ん?」
「魔王は完全に覚醒はしていないということだな?」
「ああ、そうだっぺ」
「完全に覚醒するまでどれくらいかかる?」
「推測でしかないっぺが……」
「構わない」
「恐らくは後五日ほどだっぺ」
「五日か……」
「それまで魔王自身は北の城にこもって力を着々と蓄えているっぺ」
「……ここから北の城まではどれくらいだ?」
「馬車を走らせて一日はかかるっぺ」
「それでは、これ以上のんびりもしていられないな……」
俺はベッドから降りようとする。ティッペが慌てる。
「ちょ、ちょっと待つっぺ! このまま挑んでも勝てないっぺ!」
「だからと言って、桜の体は返してもらわなくては困る……」
「オラに考えがあるっぺ……」
「考えだと?」
俺は首を傾げる。
「……こうして皆に集まってもらったのは他でもないっぺ!」
「分かっています。皆まで言わないで下さい、チャンカパーナさん」
「ティッペだべ! 字数が増えているのに、一文字も被らないとはなんという奇跡!」
ティッペが青輪さんに対して声を上げる。
「栄光さんお目覚めの記念パーティー?」
「ロビン、そんなわけがないでしょう……」
「分かっているよ、鶯姉。場を少しばかり和ませようとしたんだってば……」
自らをたしなめる鶯さんに対し、ロビンさんはペロっと舌を出す。
「……それでどういうことだい?」
監督がティッペに問う。ティッペは俺に目配せしてくる。俺は頷いてから口を開く。
「俺は御桃田を……桜を取り戻すため、魔王と戦います!」
「ふむ、まあ、それはそうなるだろうなとはなんとなくだが思っていたよ……」
監督は腕を組んで自らの顎をさする。
「ですが、厄介なチートスキル持ちの転移者たちが魔王に与しているらしいです」
「ああ、どうやらそうらしいね」
「姫ちゃんも独自の情報網でその情報は掴んだの!」
首をすくめる監督の横で姫ちゃんが頷く。
「その情報網を共有させて欲しいものだぜ……」
「静ちゃん、それは出来ないの! 何故ならば先方との信頼関係が大事だから!」
「はいはい……」
静が両手を広げる。
「話がやや逸れたな……それで?」
監督が俺に尋ねる。
「はい……俺は魔王との戦いまで出来れば力を温存しておきたいのです」
「ふむ。それはそうだろうね」
監督が頷く。海が口を開く。
「……そうなると、チートスキル持ちの転移者たちとの戦闘は極力回避していかないといけないということですね?」
「ああ、そうなる」
俺は海の言葉に頷く。海が腕を組む。
「なるほど、つまり……」
「そうだ。チートスキル持ちの転移者たち七組との戦闘を皆さん九人にお願いしたいと思っている……!」
「!」
その場にいた皆が俺の話に驚く――もっとも監督を始め、何人かはこうなることをある程度予想していたようだが――俺は話を続ける。
「……女性に対してこんなお願いするのは男としては恥ずかしい限りですが……皆さんもチートスキル持ちの転移者たちです。連中に対抗出来る可能性を持っているのは、この世界で俺の他には皆さんしかいません。どうかその力を貸して下さい! お願いします!」
俺は頭を下げる。青輪さんが再び声を上げる。
「栄光さま! 顔を上げて下さい! 拙者にどうぞお任せ下さい!」
「青輪さん、あんまり調子のいいことを言わないの……」
「む……どういうことですか、瑠璃さん?」
「ウチらのスキルが奴らに通用するの? どうにかこうにか撃退した感じじゃないの」
「むう……そう言われるとそうですが……」
瑠璃さんの言葉に青輪さんが露骨にトーンダウンする。ロビンさんが苦笑する。
「瑠璃姉、テンション下げるね~ちょっと空気読もうよ~」
「何よ、ウチは事実を言っているだけよ!」
「瑠璃、落ち着いて……ロビンも茶化さないの」
鶯さんが瑠璃さんを落ち着かせ、ロビンさんを注意する。天が不安そうに呟く。
「お、お力になりたいのはやまやまなのですが……」
「どうする? 皆の不安の方が大きいようだぜ?」
静が俺に問うてくる。俺はティッペに目配せする。
「……これから三日間、皆にはそれぞれのスキルを徹底的に磨いてもらうっぺ」
「水を差すようなことばかり言うけど、三日間じゃ付け焼き刃にしかならなくない?」
「ところがそうでもないっぺ……」
「え? どういうことよ?」
瑠璃さんが首を傾げる。ティッペが話を続ける。
「この街は伝説に残る街……」
「ど、どんな伝説ですか?」
天が尋ねる。
「かつてこの世界の危機を救った伝説の『虹の英雄たち』がこの街に滞在し、わずか三日間の修練で飛躍的にその能力を向上させたという伝説だっぺ……」
「ほう、それはまた……」
ティッペの説明に監督が目を丸くする。海が尋ねる。
「……この街自体になんらかのバフ効果があると?」
「確証はないっぺ。しかし、オラたちに残された猶予は三日間ほど……これも偶然にしては出来過ぎているっぺ」
「なんだかイケそうな気がしてきたの! 皆、桜ちゃんを助けるためにスキルを磨くの!」
「……!」
姫ちゃんの言葉に皆が揃って前向きな反応を示す。俺は礼を言う。
「……皆さん、ありがとうございます!」
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