第10話(3)初心を取り戻す

                  ♢


「というわけで修行だね!」


「ああ……」


「ええ……」


 ロビンの明るさに対し、瑠璃と鶯は暗い声色で答える。


「ちょっと、ちょっと! 二人とも、テンション低くない~?」


「だってそれは……」


「無理もないわよ……」


「なにが無理もないの?」


 ロビンの問いに鶯が首を傾げる。


「修行と言われても一体何をすれば良いのか……」


「そう、それよ」


 瑠璃がうんうんと頷く。


「そりゃあ決まっているでしょう!」


「ロビン、分かるの?」


「修行って言ったら、山よ!」


「……」


「………」


「え? 分からない? 山よ?」


「えっと……」


「や・ま」


「いや、一文字ずつ言わなくても分かるから……」


 瑠璃が手をゆっくりと左右に振る。


「ああそう」


「ええ」


「それならば話は早いわ」


「話がまず見えないのよ」


「なによ?」


「山でどうするの?」


「山ごもりよ」


「山ごもり?」


「そうよ」


「……何をするのよ?」


「ひたすら滝に打たれて……」


「ひたすら?」


「そう、ひたすら」


「……アンタ、そういうの一番苦手じゃないの」


 瑠璃が冷ややかな視線を向ける。


「む……」


「……まあ、いいわ、他には何をするつもりなの?」


「他に?」


「ええ、まさかずっと滝に打たれていたら風邪をひいちゃうだけだし」


「ふふっ、よくぞ聞いてくれました!」


「あんまり聞きたくはないけど……」


「それはあれだよ、薪割り!」


「薪割り?」


「うん、斧でこうやって……」


 ロビンが振りかぶってみせる。


「……アンタ、今まで生きてて斧なんかまともに使ったことないでしょ? それで薪割りなんか出来るわけがないじゃないの」


「むう……コ、コツさえ掴めば!」


「三日間しかないのよ? コツを掴む前に三日間が終わってしまうわ」


「そんなのやってみなくちゃ分かんないじゃん!」


「……仮に出来たとしてなにをするの?」


「薪を使って火起こしだよ!」


「アンタ火起こしのやり方分かるの?」


「むう……」


「大体火を起こして何をするの?」


「りょ、料理を作ったりするのに必要じゃん!」


「アンタ料理出来ないでしょ」


「むぐ……」


「そもそもとして……」


 瑠璃が周囲を見回す。


「な、なに?」


「この辺に目ぼしい山が見当たらないじゃない」


「あ、あれとか!」


 ロビンが指を差す。瑠璃がため息交じりで答える。


「あれは山じゃなくて丘でしょ」


「む、むう……」


「アンタの修行ごっこは出来そうにないわね……」


「う、うわーん! 鶯姉、瑠璃姉がいじめるよー!」


 ロビンが鶯に抱き着く。鶯がロビンの頭を撫でる。


「あらあら、よしよし……」


「鶯姉、甘やかさないで」


「いや、そういうつもりではなかったのだけど……」


 鶯がロビンを離す。瑠璃が尋ねる。


「鶯姉はなにか思い付かない? 修行の方法……」


「う、う~ん……瑠璃は何か思いついた?」


「あの丘の坂道……」


「ええ、あるわね……」


「あそこをダッシュするっていうのはどう?」


「わ、わりとシンプルね……」


 鶯が戸惑う。瑠璃が腕を組む。


「こういうのはシンプルイズベストよ」


「確かにそれはそうかもしれないわね」


「え~しんどいのは嫌だよ」


 ロビンがうんざりしたような顔になる。瑠璃が呆れた視線を向ける。


「滝に打たれたいとかなんとか言ってなかった?」


「それとこれとは話が別だよ~」


「アンタねえ……」


「……まあ、どうせなら楽しみながらのが良いかなと思うわ」


 鶯が口を開く。瑠璃が首を捻る。


「楽しみながら? 例えば?」


「アタシたちのスキルはそれぞれ、【演奏】、【歌唱】、【舞踊】でしょう?」


「ええ、そうね」


「これは音に関係するスキルと言っても良いわ」


「ああ、そうとも言えるわね……」


「気兼ねなく音を出せる丘の上は修行場所になかなか良いんじゃないかしら?」


「ふむ、そういう考え方もあるわね……」


 瑠璃がふむふむと頷く。ロビンが再び鶯に抱き着く。


「さすが鶯姉! 話が分かる~!」


「……瑠璃はどうかしら?」


「……なにがスキルアップに繋がるか分からないから……とにかくひたすら、歌ってみて、演奏してみて、踊ってみて……音を出してみるしかないわね。こうして考えてみると、何のことはないわ。ただ初心に帰るだけのことね」


「おおっ、確かに……」


「ふふっ、まさか異世界で初心を取り戻すとはね……」


 瑠璃の言葉にロビンは頷き、鶯が微笑む。

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