第5話 なん○民とのやりとり 後編



 家族以外に話したことはあっても他には話せなかった――約十年前に起きた悲劇。


 それはワイがまだ高校三年生の頃の話。「彼女」も「親友」もいて「友人」も沢山いた順風満帆な青春時代。


 ある日、とある「少女たち」を助けた。

 それは「正義感」からなのか「偽善」からなのか今になっては分からない。

 昔から少し鈍臭かったワイは「少女たち」を救えたもの、最後の最後でしくじり怪我を負い病院へ運ばれたけど。


 嬉しいことに当時は通っていた高校でワイの人気はそれなりにあり人望もあり。

 だからかワイの怪我を知った親、同級生や先生達が毎日見舞いに来てくれる。

 怪我の具合から最低一月は入院生活を余儀なくされ、それでも目指していた「大学推薦」が貰えていたことで心から安心した。



592 無知の極地 2023.7.6(金)01:51


〔待って待って、なんかこの先怖いんだけど。聞きたいけど聞きたくない……〕


593 無知の極地 2023.7.6(金)01:51


〔まだ何も始まってないやろ。今のところはイッチのいい話だろうが。早いんよ〕


594 無知の極地 2023.7.6(金)01:52


〔黙って聞いとれ〕



 その書き込みの後、賢司のカキコは続く。


 ただ一つ、気になったことがある。

 それは自分の「彼女」兼「幼馴染」でもある――「H子」の様子と態度。


 普段よりもどこかよそよそしく、話していても目を合わせてくれない。気にはなったものそれは自分のせいだともその時は思った。

 なぜならその日、自分が「少女」を助けた時本来なら「H子」の家に集まりお家デートをする約束をしていたから。

 だから自分が悪いと思い謝りはしたものあまり気にしないように心がけたんだ。


 かわって中学からの「友人」であり一番の「親友」である――「A」は普段通りに接してくれて嬉しかった。

 でも、「A」のワイを見る目がやけにニヤニヤとしていたことを見逃さなかった。



602 下僕一号 2023.7.6(金)02:06


〔――それでも普段通りに過ごした。「H子」とエッチができないことは悲しかったけど。ちなみにおまいらは理解できず一生縁のない単語だと思うから教えると。エッチとは好きあった男女が行う性行為であり……おまいらには関係なかったな、すまそ〕


603 無知の極地 2023.7.6(金)02:06


〔マウントはいらんからやく進めろ〕


604 無知の極地 2023.7.6(金)02:07


〔ワイはイッチの話、理解できるで。「エッチ」もしたことあるし「もてる」からな。おまいらはまず身だしなみからや。清潔が一番。少しでも清潔感を出すためにファ○リーズで部屋でも綺麗にしてろww〕


605 無知の極地 2023.7.6(金)02:07


〔>>604 黙れボケ。おまいがしたことがあるのは「エッチ」じゃなくて「アンチ」の間違いだろ。「もてる」のもせいぜい母ちゃんの荷物くらいだろ帰れ〕


606 無知の極地 2023.7.6(金)02:07


〔>>604 「菌」と共に消えろ〕


607 無知の極地 2023.7.6(金)02:07


〔>>604 自分語りカッコいいねキショいからどっかいけ〕


 いつも通り余計な書き込みをした>>604に集中砲火。


 そんな中、賢司の話は淡々と続く。


 宣告された一月が経ち、ワイの怪我も順調に回復したことで無事に退院。

 ただ、学校の雰囲気、友達や先生達の雰囲気は前とは明らかに変わった。

 前まではあんなにも優しかったのに退院後はワイを蔑む目、ゴミでも見る目に。

 それが何か分からなかったもの次第に自分の物が無くなることが増えて陰で暴言を吐かれるようになり。


 ワイが原因で「A」と「H子」が付き合い始めたという話を風の噂で聞いた。

 なんでも「H子」に常日頃から「暴力」を振るっており「束縛」をしていたようだ。

 もちろん、そんな事実はないし「H子」と付き合っていたのはワイでいつの間にか「A」がワイと話をつけて別れさせたという話に。


 そこでようやく理解した。


 「A」と「H子」はワイを嵌めたのだと。

 言い方は悪いが「NTR」たのだと。


 ワイはそんな事実はないと周りに話しすも誰も理解者はいない。それどころか仲が良かった「親友」の「A」と「幼馴染」兼「彼女」である「H子」に裏切られたことが信じられず途方に暮れた。


 それでもワイはなんとか学校に登校していた。誰も信じられないけど前までの生活を取り戻せると希望を求めて。

 そんなある日、「A」が顔を腫らして登校をした。自分も「H子」も「A」と同じクラスだったので気にはなった。

 気にはなったもの、その「A」の頰を腫らした相手が……ワイだとは思わなかった。


 もちろん自分はやってない。

 なのに誰も信じてくれず、暴力沙汰は許し難いことと先生方で話し合い、話し合いの結果……ワイの「大学推薦」は取り消しに。


 最愛の「彼女」。

 周りからの「信頼」。

 頑張って手にした「大学の推薦」。

 これからも笑い合える楽しい「人生」。

 

 それら全てを一気に失ったワイはこの世の全てに絶望し……不登校になった。


 もう、その時には訴えるとか自分で嘘を暴くとかの次元ではなかった。ただただ頭がおかしくなり、物事を正常に捉えられない。

 あれが精神崩壊だと感じた。本当に誰一人として「人」を信じることができない体に。


 幸いにも「家族」だけはワイの話を聞いてくれて「そんな高校に通わなくていい」「調べず推薦を取り消すような大学など進学などしなくていい」と励まされた。


 今でも思う。あの時、「家族」がいなかったらワイは……。


 「家族」の助けもあり、ある程度身内とは意思疎通ができるように。それも五年という長い時を経てだけど。

 その五年も過酷な毎日だった。拒食、過食と続き、嘔吐下痢、蕁麻疹、あの日の出来事を思い出すたびに発狂と……ほんと「最悪」という言葉が正しいほどのオンパレード。


 ストレスから髪が抜けなかったのが救い。


 無職引き篭もりになったのも必然的に。


 あぁ、その後の「A」と「H子」?


 ワイの親は少しだけ偉い立場の人でね。ワイのためだけに事実の証拠を集めて高校側と大学側に重要書類を送ってくれた。

 その事実が表に晒され、高校側と大学側から謝罪を受けたがワイの精神的状態が酷いということで大学側にはそれ相応の処置を。高校側には両親が裁判を起こし、勝利を。


 これは探せば見つかる可能性があるから何高校か大学かは書かないけど詮索はやめて。


 馬鹿なのが「A」だ。

 「A」は残念ながら大学が決まっておらずワイの大学に進学したいという理由もありワイが「大学推薦」を取り消されれば自分が入れるとなぜか思ったようで。

 元々恋心を抱いていた「H子」を脅し、体の関係を持ち掛けてワイが高校に居られられないように高校への根回し。

 結局、大学には入れないしワイの両親に高校と同じように訴えられたことで多額な賠償金に加えて高校からも賠償金&自習退学を。


 ワイはそんな未来を望んでいたわけではないのにその後「A」の家族もろもろ首が回らなくなり……この話はやめよう。

 

 悪いことはダメだとわからされた。


 「H子」については正直どうでもいい。

 冷たいかと思うかもしれんけどワイを裏切ったことは事実だし。

 「A」が地獄のドン底への片道切符を言い渡された時突然嘔吐を繰り返し倒れて病院へ。

 その後、ワイへの謝罪はあったもの。なんでも……「A」の「子供」を体に身籠ったとかでワイとはもう「会わない」という約束をして「H子」は自主退学をしてそれっきり。


 今思い返しても、吐き気を催す。


 「A」の浅慮な考え、判断が色々な人に迷惑をかけたということで幕を閉じた。



896 下僕一号 2023.7.6(金)02:56

 

〔――ってことがあって。なんとか「無職」として生きてる。昔よりはマシになったもの30歳になった今でも「他人」とは目を合わせて話せられないし「女性」との恋愛なんて……画面越しでも当時は書き込むこともできなかった、と。ワイなんかの長く暗い話を聞いてくれてありがとな〕


 時間を確認し、感謝の念を伝える。


 そんな賢司のカキコが途絶えた瞬間、沢山のレスが押し寄せる。そのほとんど全てが賢司へ送られた優しい言葉の数々で。


897 無知の極地 2023.7.6(金)02:57


〔う、うぅ( ; ; ) いい話と言ってはいけないがイッチが今も生きてくれて良かった〕


898 無知の極地 2023.7.6(金)02:57


〔イッチよく頑張った。人並みのことしか言えんが、お前は悪くない〕


899 無知の極地 2023.7.6(金)02:58


〔辛すぎんだろ。ふざけんなよ。「A」は話を聞いた限りでは○○した感じだがそれで許して貰えると思うなよクソが!〕


 自分自身のことのように悲しみ、怒ってくれる心優しいなん○民。


900 無知の極地 2023.7.6(金)02:58


〔本当に。それにイッチは違う。俺たちのようなただただ夢もなくやる気もなく無情に過ごす俺たち「無職」とは。俺なんて新卒で入った会社で緊張から初日に早々うんこを漏らして自主退職しただけだし……〕


901 無知の極地 2023.7.6(金)02:58


〔ワイなんて高校で昼に○き家のチーズ牛丼を食べていただけなのに「チー牛」と呼ばれて耐えられなくなっただけやし……〕


902 無知の極地 2023.7.6(金)02:58


〔>>901 ワイも同じや〕


903 無知の極地 2023.7.6(金)02:58


〔>>901 仲間が、いたよ……っ!!〕


904 無知の極地 2023.7.6(金)02:59


〔このスレに「本物」伊すぎだろ。ちなワイはチーズ牛丼大盛りに温玉派や〕


905 無知の極地 2023.7.6(金)02:59


〔うっ。なんかこのスレ、チーズ臭くね?〕


 「チー牛」が現れる中。


906 無知の極地 2023.7.6(金)02:59


〔イッチ、見てみろよ。「本物」の「無職」はこうしてくだらないことで「無職」となりそれでもそれなりに楽しく生きている。俺だって他人と目を合わせられないしすぐにどもる。女性と付き合ったことなんてないしイッチが羨ましいくらいだww〕


907 無知の極地 2023.7.6(金)02:59


〔ワイらは肯定も否定もせん。でもな、無理だけはしちゃダメや。イッチはまだ「過去」を克服できてないんだろ? 克服することが全てちゃうが。でも、それでも「過去」を克服して「日常」に戻りたいならワイらはそれを応援する。こんな掃き溜めから出られないクズみたいなワイらでええならだけどな?〕


 それはスレ民達の賢司イッチへ少しでも笑ってもらうための悪ノリ。


910 下僕一号 2023.7.6(金)03:02


〔……こんな、こんなワイでも日常へと復帰できるんかな……?〕


911 無知の極地 2023.7.6(金)03:02


〔当たり前や。ゆっくりでええ。自分のペースでええ。何年、何十年経ってもええんや。変わろうと足掻くその過程に意味がある〕


912 無知の極地 2023.7.6(金)03:03


〔愚痴くらい聞いてやるで?〕


913 無知の極地 2023.7.6(金)03:03


〔ネル様の写真と共にイッチの進展を聞かせてくれや〕


914 無知の極地 2023.7.6(金)03:03


〔今度建つスレは【イッチの成長】やな〕


 スレ民からの遠回しのエール。


 こんな自分を肯定してくれて、応援してくれる皆。それは加速するかのように皆からの書き込みが続き、あと少しで1000へ。


 正直、涙が溢れてタイピングが……。


975 下僕一号 2023.7.6(金)03:25


〔でも、でもさ。何から変えれば、頑張ればいいか分からないんだ〕


976 無知の極地 2023.7.6(金)03:26


〔そんなんなんでもええんよ。小さなことでも。間違っても間違えてもイッチが笑える未来になれるなら、なんでも〕


977 無知の極地 2023.7.6(金)03:26


〔身近なことで自分の周りからとか、どうや?〕


978 無知の極地 2023.7.6(金)03:26


〔せや。イッチが変わったら家族も喜んでくれるで〕


979 無知の極地 2023.7.6(金)03:27


〔これはイッチが落ち着いて成長してからでいいけど。今まで支えてくれた家族に何か恩返しでもできたら泣かれるだろうな〕


980 無知の極地 2023.7.6(金)03:27


〔俺も、親孝行したくなってきた。今から親に……〕


981 無知の極地 2023.7.6(金)03:27


〔>>981 アフォか。今の時間帯皆寝てるわ。起きてるのはワイらくらいやww〕


 そんななん○民たちの言葉をもらいついでに勇気ももらった。


993 下僕一号 2023.7.6(金)03:38


〔……うん、頑張ってみる。ワイ、いや、俺。身近なことでも少しでもいいから、成長してみるよ。皆、本当に付き合ってくれて聞いてくれてありがとう。大好きだ〕


994 無知の極地 2023.7.6(金)03:39


〔ケッ。男に言われても嬉しくねぇ。そういう言葉はこれから好きになる女性に向けて幸せになりやがれ〕


995 無知の極地 2023.7.6(金)03:39


〔お、1000レス到達するね。記念パピコってことで。俺たちみたいな奴のことを周りはあんま気にしてないんよ。俺たちみたいに自分のことしか気にしていないから。だから、イッチも周りに流されることなく自分自身の幸せな未来のために進めよ!〕


996 無知の極地 2023.7.6(金)03:40


〔辛かったら吐き出したかったらいつでもここに寄れ。近くにはいないがこうして俺たちはネットを通して繋がってるんだから〕


997 無知の極地 2023.7.6(金)03:40


〔イッチの〕


998 無知の極地 2023.7.6(金)03:40


〔これからの人生に〕


999 無知の極地 2023.7.6(金)03:41


〔幸あれ〕


1000 無知の極地 2023.7.6(金)03:43


〔って、やるなら1000レス丁度にしろやww あぁ、もう最後までぐだぐだやな! これだから○ちゃんねるはやめれんけどな。イッチ。ワイらなん○民はおまいの「味方」や!〕


 最後はぐだぐだながらも皆自分の幸せに寄り添い願ってくれる。



「……くそ。本当に、ありがとう。俺、頑張るから。こんな俺の背中を押してくれた皆が馬鹿にされないくらい頑張るから……っ!」


 1000レスを超えた掲示板。

 液晶の光に照らされて涙でグチャグチャになった顔をこれでもかと笑顔にし。


「……なぁ〜」


 起きていたネルが流れ落ちる涙を舐めてくれる。


 子供のように嗚咽を漏らしネルに慰められるようにその日は気づいたら泣き疲れデスクにうつ伏せになり寝ていた。



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