第2話 過去の邂逅ンゴ
両親達の許可を得て庭園を歩き。
「賢司様は鯉の餌付けお上手ですね」
「い、いや」
なぜか橘嬢と二人で歩くことになったワイは池と間違えそうな大きさの庭池にいた鯉達にパン屑を与えている。
パン屑はいつの間にか背後に立っていたお爺ちゃんこと柏さんがくれた。
「生き物がお好きなのですか?」
「そ、それは……」
でも、そうだな。
「……うん。好き、かな。心安らぐし」
気づいたら言葉を返し。
正直、生き物は好きだ。
自分を邪険にしないし単調なコミュニケーションで接することができるから。
それとは逆で……人間、人間関係はきらいだ。
「私も同じです」
「……」
パン屑に群れる鯉を見ていると隣に立つ橘嬢が一言。
「会話を交わせないのは寂しいですけど素の自分を出せると言いますか、無理して合わせなくていいのが、とても落ち着きます」
「あ」
その言葉を聞いて同感と感じた。
「それ、俺も同じ、だ。人と話すのは疲れる。けど、動物は楽しく、疲れない」
「そうですね。こうして話すのも楽しいですけどたまには会話ではなく触れ合いで安らぎたいものです。私と賢司様、似てますね?」
ワイと君は似ても似つかないよ。
そう思ったが余計なこと。そんな野暮なことはこの場には不必要。
二人はお互い、会話は少なかったが少ない会話のなか鯉を見て互いの意見が一致し、少し距離が縮まったように感じられた。
「賢司様は、どうして今回のお見合いをお受けになられたのですか? 本来、招待した側の私が聞くことではありませんが……」
唐突な質問。
横をチラリと見ると柔らかい表情の中に少しの真剣味が感じられる。
「……両親を、悲しませたくなかったから」
ぽつりと本心を口にしていた。
嘘をつくこともできたのに本心を語り、馬鹿にされてもいいと思えた。おかしいな。
「御両親を、ですか?」
「うん。橘、さんも俺の見た目から分かっていると思うけど。俺って、本当にダメな人間でさ。30歳にもなって無職でこの様。なのにいい歳にもなって親に迷惑をかけてるのに両親を悲しませたくないとか矛盾なこと言って本当、何やってんだろう」
それは橘嬢に答えるとともに庭池の水面に映る醜い見た目の自分に問いかけるように。
「……」
肯定も否定もしてこない橘嬢に続ける。
「はは。気持ち悪いよな。引いたよな。俺は、そんな卑屈な人間なんだ。君とは、違う。こんな俺なんかのためにお見合いの機会を作ってくれたのは嬉しい、けど。無理しなくていいから。だから終わりに――」
「ふざけないでください!」
「!」
庭園に響く大声にハッと我に帰る。
それが目の前の女性から発せられたことだと気づき動けなくなる。
「勝手に、決めつけないでください。それに賢司さんは気持ち悪くなんかない。とても素敵な男性です!」
「……」
ぽたりぽたりと涙を流し、訴えかける橘嬢に返す言葉もなく。
「御両親を悲しませたくないから、それはとてもいいことです。私は賢司さんの過去に何が起きたとか存じませんが、自分の弱さを知っている貴方が――人のことを誰よりも考え、自分の身を犠牲にしても助けられる心優しい貴方が気持ち悪いわけがない!!」
「き、君は……」
その言葉に唖然としてしまい、鯉のように口をぱくぱくと動かす。
「賢司さん。これは私の幼い頃のお話ですがどうか聞いてもらえますか?」
「……(コク)」
その意味が、内容は理解できない。
けど、聞けばこの女性が――自分の過去をなぜ知っているのか分かる気がした。
・
・
・
それは約15年前のある日。
当時五歳の私は幼稚園に通うのに自家用車を使っていました。
それがダメだと言う訳ではありませんが、周りと違う自分がイヤでその日、初めて皆と同じようにバスに乗り登校しました。
それはとても楽しいことでお友達と登下校できることがこれほど楽しいものだと初めて知りました。
ですが、そんな楽しい時間はすぐに過ぎ去り、自分の浅はかな考えに後悔をしました。
お友達が降りていく中、私はバスの中で早く両親と会って今日のことを話したいと思っていた頃、バスは発進することなく入り口付近で口論が起きていることが分かりました。
それもすぐに治ると思っていましたが、バスに乗り込んできた二人の男性は口論をしていた先生に持っていた刃物で脅し、運転手の方にももう一人が刃物を向けます。
その人達の行動と先生達の状況を見てそれが何かまだ判断できなかった私達ですが「怖い」という感情が芽生え私含めた乗っていたお友達が泣きました。
『うるせえぞガキども!!』
男性の一人が怒声で一喝。
その声で私達は泣き止んだもの怖くて身動きがとれません。
男性達は車内の様子を見て――私の目の前にズカズカとやってきます。
その時には自分のお家がお金持ちだから狙ったのかな?と幼い頭で考えてました。
『ビンゴ。橘家の御令嬢が居た。バスジャックをした甲斐があったぜ』
その話を聞き、悪い方向に考えが当たったと知り、皆とバスで通いたいという自分の浅はかな考えで皆を巻き込んでしまったことに涙が溢れました。
『チッ。また泣かれると周りにサツを呼ばれる恐れがある。おい、運転手にバスを発進させろ――おい?』
私に近寄っていた男性の一人がもう一人に声をかけますが返事はなく、そちらを見ると――
『残念。お仲間さんは伸びてるぜ?』
そこには高校生くらいの男性が立ってニヒルな笑みを作り笑っていました。
その男性は少し癖毛の茶髪にスラリとした体型、顔も整っており幼い私でもカッコいいと思えるほどの容姿をしていました。
男性がどうやって駆けつけたのか、運転手の方を脅していた男性をどう倒したのかは分かりませんが私達を助けにきてくれたことは分かります。
『……テメェ』
男性、ジャック犯は低く恐ろしい声をあげますが男性は肩を落とすだけ。
『警察は呼んでいる。あんた、もう逃げられないぜ?』
『それで、俺が素直に投降するとでも?』
『いや。ただ、どうせあんたのような身代金目当ての奴が一般人――それも子供に危害を加えることなどできない。そうだろ?』
『……』
男性の言葉にジャック犯は黙り。
『これ以上罪を重ねるな。今のあんたならまだ刑は軽いだろ。あんたも重い罪に科せられたくないだろ? 金が欲しいなら働けばいい。働き口がないなら俺――の父親を紹介してもいい。だからこんなことはやめよう』
男性は暴力に訴えることなく真摯にジャック犯に訴えかけます。
『……せぇ』
『ん?』
『うるせえって言ってんだよ!! ガキがごちゃごちゃとお説教かぁ? いいご身分だなぁ!!?!!?』
ジャック犯は何かの線が切れたように大声を発し、唾を飛ばし手に持つ刃物を近くにいる私達に向け始めます。
『俺がガキどもに手を出さない? 馬鹿かテメェ! なわけねぇだろ! どうせ逃げても逃げられなくても捕まる運命。臭い飯を食うのはもうコリゴリなんだヨォ!!』
『チッ』
男性はジャック犯の言葉に舌打ちを一つ、持っていたバックに手を掛け。
『俺はお前らとは違うんだ!! 俺は何もできない馬鹿で愚かな奴等とは違うんだ!!』
狂ったように唾を飛ばし目を血走らせ、私に目掛けて刃物を――
『ぐっ!?』
私の身に刃物が降り注ぐことはなく、ジャック犯はよろめく。
ジャック犯は右目付近に付着した蛍光色の液体に濡れた目を擦り、呻いていた。
『……しっ』
どうやらそれは男性が投球した何かのお陰。男性は呻くジャック犯に飛びつき、バスの車内という狭い空間を使い押さえ込む。
『あんたに何があったなんか知らねえ。でもなあ、罪もない子供達に手を掛けることはしちゃならねえ。未来を奪うことは何よりも』
『ぐっぅぅ……』
『諦めろ。危害を加えようとした時点で終わりだ。一度捕まって反省しな』
自分の体重を更にかけ――
『……死ねぇェェ!!!』
その時、完全にのしたと思っていた放置していたもう一人のジャック犯が刃物片手に男性に突っ込み――
『――ッァ!?』
ジャック犯の刃物は男性の右肩に刺さり。
男性は低い悲鳴をあげ、苦痛の顔を作り。
バスの床に血が滴り。
『は、ははは。やっちまった。刺しちまった……でも、なんだこの快感は……』
『『キャッーーー!?』』
私達はジャク犯の言葉を掻き消す勢いで悲鳴を上げる。
『は、は。馬鹿が。油断しやがって!!』
『うっ!』
肩を抑え倒れ込む男性の脇腹に解放されたジャック犯が立ち上がり蹴り上げる。
『おい。こいつはもういいから早くバスを発進――』
『待て、よ』
『『!!』』
ジャク犯が言葉を発する前に男性の声が聞こえ、そちらを見ると立ち上がっている。
その姿を見てジャック犯達は気味なものでも見るかのような視線を向ける。
その姿はフラフラで顔色も土気色をし汗もダラダラと垂らすもの目だけは死んでない。
『い、一体なんなんだよ。テメェはよぉ!』
『コ、コイツ。ナイフで刺されて血を流しているのに笑ってやがる。正気か?』
ジャック犯達が狼狽え怯える中、そのニヒルな笑みは変えずに。
『は。通りすがりの、お人好しだ……ッ!』
その一言とともにジャック犯に突っ込み――
『そこまでだ!』
その時、バスの入り口付近から他の男性の声が聞こえ、そちらを見るとジャック犯に拳銃を向ける数人の警察官の姿。
警察官が来た瞬間ジャック犯達は諦めたのか素直に投降し、すぐに御用に。
男性は「我々が来るまでなぜ待てなかった」と怒られながらも警察官の人達に「よく頑張った。すぐに救急車が来るからあと少しだけ頑張りなさい」と言われていました。
救急車に乗せられた男性に駆け寄りたかったのですが、泣きながら抱き寄せてくる両親から離れられず別れの挨拶も感謝の言葉も言えませんでした。
それが――松村賢司さんと私、橘千早の出会いで――
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「――数十年という月日をかけてようやく出会えることができた恩人――賢司さんとの念願の対面になります」
橘嬢はおもむろにこちらに歩み寄るとそっと右肩のスーツとシャツをずらし。
あの時、ジャック犯につけられた刃物の傷跡を見つけ悲しげな表情。それも一変。
「……やっぱり。松村賢司さん。私達を身を挺して助けてくださりありがとうございました。あの時から私は貴方をお慕いしており、賢司さんのことを愛しております」
花の蕾が咲いたような柔らかく綺麗な笑みを向けて。
「……」
その話、言葉、想いを聞いて絶句した。
それは今も記憶に懐かしく覚えていることであり、ある意味自分の転機となった出来事であるから。
※なんか、トッモからあの一話で終わらすな。せめてキリのいいところまで書け、タコ( ; ; )と言われたのでキリのいいところまで書きます。
執筆速度は遅いのでご了承の程を。
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