第14話
「折角テストも終わったんだし、打ち上げとかしようよ」
結の発言はいつも唐突だ。
三人での帰宅中に、ふと思い立ったかの様に言い出す。
「それは妙案だな」
その突発的な発言に二つ返事で賛同する誠。
二人に振り回される洸は、この構図が自分に面倒事を舞い込ませる原因と知っている。
「俺はパス」
洸はにべもなく断ると、和かに笑っているが眉一つ動かさない表情のまま、誠がゆっくりと耳元に近付き呟いた。
「天音君はそろそろ諦めるを学ぶべきだ」
分かっていた事だが、どんなに断ってもあれやこれやと理由を並べて、逃げ道を塞いだ挙句、無理を通そうとする奴がいる。
きっと今回もそのつもりなのだろう。
本当に厄介な奴と知り合ってしまったと、幾度目かの後悔をしつつ溜息混じりに承諾の返事を返した。
「そうかそうか、やはり天音君も参加してくれるか」
態とらしく少し離れた所にいる結に聞こえる様に声を上げる誠。
「本当に!?やったー!」
結は素直に喜んでいるが、こんな腹黒の奴が中学からの友達って、大丈夫なのだろうかと少し心配になる。
「それで、打ち上げって何するつもりだよ」
「どうしよっか?」
「言い出しっぺのくせに、何も考えてなかったのかよ」
「いやー、ノリと勢いで言ってみたから」
結はえへへ、と笑っているが、こちらとしてはそのノリに巻き込まれて迷惑しているので笑えない。更に言えば、そのノリと勢いの発言を最大限に活かそうとしてくる奴が特に問題だ。
「それなら、僕が提案してもいいかな?」
「はい!誠君!」
教師が生徒を指す勢いで、手を挙げている誠の勢い良く指さす結。
「たこ焼きパーティーなんか如何かな?」
「凄く良いね!それ採用!」
「それってもしかして・・・・・・」
「無論、天音君の家でさ」
当たり前の様に洸の家で開催するつもりらしい。
やっぱりこうなったか、と面倒事を家に迄持ち込んで来る誠に抗議の意味を込めて睨むも、笑顔とサムズアップを返してくる。
「でも、たこ焼きなら焼き台ないと作れないけど、洸持ってる?」
「あるわけねぇだろ」
一人暮らしの上に、二人以外で一緒に食事をする程の知人すらいない洸が持っているはずもなく、結も初めから期待していなかった素振りで「だよね」と頷いた。
「二人共、そこは心配不要。僕の家にある」
「さすが誠君。でもそれだと今日は出来ないね」
「言い忘れててすまない。元々僕はこの後予定があってね。そこで今週末に行うのはどうだろうか?」
「私は予定ないから大丈夫だよ。洸は?」
「一応空いてる」
「それでは週末にしよう。それと、一人知り合いを連れて来ても良いだろうか?」
「それって未来(みく)ちゃん?」
うむ、と誠が頷くと結が嬉しそうにはしゃぎ始めた。どうやら共通の知り合いを連れて来るつもりらしい。
「共通の友達か?」
「中学時代の友達だよ。それと誠君の彼女」
「はっ?」
誠の彼女と言われ正直驚きが隠せない。確かに見た目は爽やかなイケメンではあるが、言動がイケメンとは程遠い。寧ろ頭が可笑しいのではないかと思う事が多々あるくらいだ。そんな誠の彼女って・・・・・・。考えただけでも真面とは思えない。
「確かにそうなのだが、彼女の紹介というと流石の僕でも照れるな」
いつも堂々とアホなことを言っている誠とは思えない表情で、頬をほんのりと染め視線を逸らした。
そんな誠を茶化す様に、「照れなくても良いのに」と結が肘でつんつんと突いている。
「それなら、お前ら三人ですればいいじゃん」
「皆でしないと打ち上げの意味ないでしょ」
「天音君はきっと僕に彼女がいて、ショックを受けてしまったのだよ」
「んな訳あるか!」
元々洸は打ち上げ自体乗り気ではなかった上に、自身の知らない人も連れて来ると言い出した。それが誠の彼女で、この二人を相手にしているだけでも相当疲れるのに、その片方の彼女が来たら余計に疲れそうで嫌なだけだ。
洸はまだ見たこともない、誠の彼女にこの二人と親しくしているので、無意識に同類として認識していた。
「心配しなくても、未来は良い子だから、きっと洸も仲良くなれるよ」
「確かに未来は僕には勿体無い程素敵な女性だ。容姿もさる事ながら、頭脳明晰でお淑やかな性格と非の打ち所がない。だからといって惚れてはダメだぞ」
先程までの照れた表情は何処に。
自分の彼女を堂々と素敵と言い切れる事は美徳だろうが、きっと彼氏贔屓が過剰に入っているのだろう発言を鵜呑みにするはずがなく、好きになるなど以ての外だ。
「ならねぇよ。どうせ誠の贔屓目が入ってるだろうし」
「そんな事はないよ?性格も良いし、百合園通ってるくらい勉強も出来るんだよ」
「百合園?」
「偏差値70超えの女子校だよ。未来ちゃんそこに推薦入学したの」
「めちゃくちゃ頭良いじゃんか」
「そうだよ。私よりすっごく頭いいの」
因みに洸達が通っている高校も偏差値60超えとそこそこ勉学に力を入れている学校ではある。
けれど、そんな学校に通っている人が誠の彼女という事が尚更信じられない。
「お前、なんか弱みでも握ってるのか?」
「何をバカのこと言っているのだね」
「いや、そうでもしないと、話で聞く限りの人と釣り合わないだろ」
「そんな事ないよ。私は中学からだけど、二人は小学生の時から仲良しだったみたいで、中学の時もずっと仲良しでお似合いのカップルだったよ」
「照れるではないか」
人から褒められるのは照れくさいのか、誠は再び視線を逸らし頭をぽりぽりと掻いているが、普段堂々としている彼が照れている姿は、ギャップがあり過ぎて違和感を覚える。
「まぁ未来の事は実際に会ってみてば分かる事ではないか」
確かにそうなのだが、事前の心構えくらいはしておきたいだろう。
特に二人の友人となるとなれば尚更だ。
けれど二人の話からでは、具体的な情報と言えば頭脳明晰くらいしか得られず、どんな人物なのかが想像つかず、不安が膨れ上がる。
明から様に不安そうな表情をしていた洸に「そんなに心配しなくても大丈夫」と肩を叩いて声を掛けるが、その原因を作った内の一人が結自身とは気付いていない。
彼女の頭脳はこういう時には役に立っていないのが何故なのだろうか。
「まぁ元気を出したまえ。それに共通の友人が出来るのは嬉しいし楽しいぞ」
「俺は求めてない」
「そう言ってる割には、私達といる時は楽しそうにしてるくせに」
うりうり、と肘で突いて来る結を鬱陶しそうに払いのけると、「ほれほれ」と誠が同様に反対側から肘で突き始めた。
「あぁもう、鬱陶しい」
「唯の戯れ合いくらい良いではないか」
「そうだ、そうだ」
「お前らの戯れ合いは過剰なんだよ」
「このくらい普通だぞ。っと」
「普通と言いつつ肩を組むな」
誠に肩を組まれた腕をどうかしようにも、洸より体格が良い所為で簡単には振り解けな。
そこに「私も」と反対側から腕を掴まれる。
身長差があるので、誠の様に肩を組む事が出来ない為か片腕をがっしりとホールドされた。
「鬱陶しいから離れろ」
「良いではないか良いではないか」
その発言は女の子がしたらダメなやつだろと、引き攣った表情を向けるも結は全く気にした様子はない。
反対側では、結を真似して同様の発言を誠がしていた。
他人から見たら仲の良い友人に囲まれている様に映るだろうが、洸の内心は全く違い酔っ払いに絡まれた様な気分でいた。
そんな事を二人は全く気付いた様子もなく、誠が別れる迄洸の両脇は固められたままだった。
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