第12話
自称親友が二人出来てから数日が経った。
誠の作戦が功を奏したのかは分からないが周りからの異様な視線が向けられる事は減っていた。
しかし、代わりに同情な様な視線を感じる事がある。
「やあ、親友」
一日の授業が終わり放課後になると毎日来る様になった自称親友。
「俺の名前は親友じゃない」
「今日も捻くれているね、天音君」
「洸はいつも捻くれているよ」
「それもそうだね」
隣の席にいる自称親友の二人目が会話に混ざって来る。
近頃はこの二人と会話する機会が強制的に増えたこともあってか、周りからは友人関係と思われる様にはなっていた。しかし、洸から積極的に関わりに行くことがないのは変わっていないので友人という敬称が正しいかは疑問だが天然で人垂らしな結と、爽やかでマイペースな誠の二人に巻き込まれている状況が周囲からは友人同士のじゃれ合いに映っているのだろう。
「黙れ。お前ら」
「そう睨まないでくれたまえ」
「今日は何だよ」
「そうだった、そろそろ期末テストだろう。だから三人で一緒に勉強しようと思ってね」
「いいね!勉強会だね!」
「俺は一人でするからいい」
勉強する事自体は否定的ではないが、この二人に囲まれた状態で真面に勉強出来るとは思えない。
「そんな事言わないで一緒にしよーよー」
ねーねーと駄々を捏ね始めた結を見て、眉を顰めてしまう。
「心配しなくても勉強の時は真面目にするから大丈夫だよ。それに暁月君はこう見えて成績トップだから色々と教えて貰えるよ」
「こんなのがか?」
授業は真面目に受けているだろうが、普段の会話から結が勉強出来そうには到底思えない。
隣の席で駄々を捏ねて芋虫みたいに、うねうねしている結を指差しながら確認する。
「そうだよ。中間テストの時に上位者が貼り出された時に名前見なかったかい?」
「興味なくて見てないな」
この学校ではテストの結果が上位30名迄は貼り出されることになっている。
貼り出しは総合得点だけではなく、国語・数学・社会・理科・英語の科目毎の合計6枚貼り出されており、その上位30名の全てに結の名前が載っているらしい。
「僕も一応国語だけなら得意だから天音君が分からない所があったら力になれるよ」
「別にそこまで困ってないからいい」
「洸はいつも授業真面目に受けてないのに本当に大丈夫なの?」
「予習と復習くらいはしてるから多少授業で寝てても問題ない」
自分の都合で一人暮らしをさせてもらってるのに、成績不良で退学になっては両親に申し訳ないし、元々勉強が嫌いではないので普段から適度に勉強はしている。それに授業中に突っ伏してる事は多いが、要点だけはノートに纏めているので全く聞いていない訳ではない。実際に成績上位を目指さなければ現状でも十分な点数は取れている。
「天音君は真面目なのか不真面目なのか分からないね」
誠は困ったものを見るかのように肩を竦めて苦笑し、隣では近頃口癖になっているのだろうか「捻くれてるだけだよ」と結が茶化すように微笑んでいた。
「そういう事で勉強それぞれでしてくれ。それじゃあ」
「まぁ待ちたまえ」
帰ろうとする洸の肩を掴んで引き止める誠がスッと耳元に近づいて囁く。
「天音君の家は暁月君と同じそうだね」
「お前っ!」
「折角先の噂が落ち着いてきたのに、この情報が流れたら皆はどう思うだろうか」
周りに聞こえない声量で囁く誠は、意地悪をするような黒い雰囲気の纏った笑顔を向けてきた。
「・・・・・・脅す気か?」
「僕が親友を脅す訳ないではないか」
誤魔化しているつもりなのか、わざとらしくハハッと笑って視線を逸らしているが、肩を握った誠の手には絶対に逃がさないぞと言わんばかりに力が込められていた。
「二人だけで何話してるの?」
「天音君が勉強会に参加してくれるようだよ」
誠に主導権を握られた洸に逃げ道はなく、諦めたように渋々頷いた。
「本当に!?じゃあ早く行こう!」
「行くって何処に?」
「天音君の家に」「洸の家に」
元々打ち合わせでもしていたのかと疑いたくなる程に、ピッタリ声を合わせて答える二人。
「何で俺ん家なんだよ」
「天音君は一人暮らしなのだろう」
「その理屈なら暁月だって一緒だろ」
「それはそうだが、流石に女子の一人暮らしの部屋に行くのはデリカシーがないのではないかな?」
誠の言う通りだが此奴に正論を言われると何だか腹たつ。次いでに隣で聞いてた結は冗談混じりに「洸のえっちー」とニヤついた表情をしており、イラッとしたので無視している。
「じゃあ、誠の家でも良いじゃんか」
「僕の家は距離があるから二人共帰りが大変になるし、移動時間が勿体無い」
「じゃあファミレスとかでも」
「一人暮らしの二人に、態々勉強会の為に無駄遣いをするのは良くないだろう」
「じゃあ図書室」
「天音君は遅くなった帰り道に、また暁月君と二人で帰ってる姿を誰かに見られてもいいのかい?」
「それは・・・・・・」
尽く洸の選択肢を言い切る前に潰していく誠に、事前に切り返しの文言を用意していたのではないかと疑ってしまう。
このままでは本当に自分の家で勉強会をする事になってしまいそうで、何か他に案がないか考えるもなかなか思い浮かばない。
「もう諦めて洸の家行こう。時間も勿体無いし」
「そうだね。ほら天音君行こうか」
結局他に良い案が浮かばず、強制的二人を連れて洸の家で勉強会をする事になった。
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