第8話

 学校に登校出来る様になったのは体調を崩してから2日後の事。


 結に看病?された翌日はまだ熱が下がらず病院に行き、その翌日も休んだ。


 3日振りの登校だが、仲の良い友達がいる訳でも無いので自分がいてもいなくても周りには何の影響もなく、いつも通り、ボッチの日常を送るだけの予定だった。



 なのに何故、此奴は毎日此処にいるんだ。



 結は看病?した日から毎日洸の家を訪ねていた。


 流石にずっと付きっきりという訳にもいかず、毎朝登校前と夕飯頃にやって来る。


 そして今日も登校前に洸の家のチャイムを何度も鳴らし、洸が出てくるのを待っている。


 鬱陶しさと煩わしさで、頭を抱えつつもドアをを開き彼女を出迎える、ドアチェーンを掛けたまま。


「おはようって何でドアチェーン付けたままなの?」


「お前が勝手に押し入って来るからだろうが」


 最初こそは倒れる程に悪かった体調も、次の日には病院に行ける程には回復しているので正直看病は不要なのだが、彼女は看病という名目で昨日、一昨日と押し入って来たのだ。


「押し入るって人聞きの悪い言い方しないでよ〜。看病でしょ看病!」


「何が看病だ!差し入れ持ってくるだけを看病とは言わねぇし、家に上がる必要もない」


 ぶーぶー、と抗議の声をあげているがそれを受け入れるつもりはない。


「けちー。それよりもう体調は大丈夫?学校行けそう?」


「あぁ、今日から行くつもりだ」


「良かった。じゃあこれから一緒に行こっか」


「は?嫌だけど」


「何で!昨日まで看病してあげてたのに・・・・・・」


「看病じゃなくて差し入れな。・・・・・・ただ、差し入れに関してはあんがと」


 照れくさそうに頬をぽりぽりと指で掻きながらお礼を伝えると、素直にお礼を言われると思っていなかったのか、結は驚きの表情を見せる。


 一時驚きで固まるもすぐに表情は軟化し優しい笑顔に変わった。


「どういたしまして。じゃあ一緒に学校行こ!」


「それは嫌だ。お前といると目立つ」


「別に目立たないよー。だから一緒に行こうよー」


 子供の様に駄々を捏ねる結に、面倒くささを感じ眉を顰めてしまう。


「だから嫌だって。それと学校では下の名前で呼んだり馴れ馴れしくすんなよ」


「何でそんな事言うのー」


「今まで話てなかった奴が急に下の名前で呼んでたら可笑しいだろうが」


「私達元々友達だったんだから可笑しくは無いよ?」


「それは昔の話だろ。高校入学以来一度も話して無いだろうが」


「そうだけど・・・・・・」


 寂しそうに俯いてしまう彼女には申し訳ないが、ここで折れてしまっては更に面倒な事待ち受けてるのは必至。


 そういう事だから、とドアを閉めて会話を打ち切ると、ドアの向こうからは「洸のバカー」と直近にも似た様な事があったなと思いながら、遅刻にならないギリギリの時間まで部屋でゆっくりするのだった。



ーーーーーーーーー


 ホームルーム開始のギリギリの時間に教室に着く。


 3日振りの登校でも誰一人として洸へ話しかける人はいない。


 休み前と変わらない状況で、洸が居ようが居まいが関係ないと言われている様な空間。


(ま、当たり前か)


 別に誰かから休んだ事への心配の声が掛かるとは全く思っていないし、寧ろ声を掛けられたら洸自身が驚いていただろう。


 一つ懸念があるとしたら、隣の席の結だ。


 今朝の調子で話しかけられるのではないか、話しかけられれば周囲からの視線が来そうで、それが正直煩わしい。


 けれど、彼女が座っているであろう席の周りにはクラスメイトがいて、丁度洸の席を遮る様に複数人立って話をしていた。


 少し結に対し気にし過ぎている感じは否めないが、面倒事は極力避けたい。


 彼女に声を掛けられないように、静かに自分の席に着くと普段通りの突っ伏した体制なり直ぐにホームルーム開始のチャイムがなった。



 結の存在に注意を払っていた際に気が付いた事がある。


 彼女はクラスの中でかなりカーストの高い位置にいると言う事。


 休み時間の度に彼女の周りには多数の生徒が集まり、雑談をしている。


 移動教室の際や他クラス合同での授業の際も同様で、クラスや性別問わず誰とでも分け隔てなく接していた。


 過去とは比べ物にならない程に彼女は人との関わり方が上手くなっており、元気で明るい印象で親しみやす雰囲気を纏っている。


 更には女性らしく成長した体型に綺麗な顔立ちと、見た目も整っているお陰か男子生徒にも人気が高いようだ。




 普段は周りの状況に一切興味を示していなかったが、結がいる事で変に周りへ意識が向いてしまう。


 全く知らない人なら此処まで意識しなかっただろう。


 しかし洸の中では彼女との想い出がある為に、自然と今の彼女の事が気になってしまっていた。


 だからだろう、先日の会話を振り返りより実感する。


 彼女は本当に努力をしたのだろうと。


 人の努力は必ずしも報われるとは言えないが、彼女の頑張りは目に見えて大成していて、そんな彼女が眩しく見えた。




 そんな事を思いながらも一日の授業も終わり、各々帰宅や部活に向かい始める中、洸はいつも通りに直ぐさま教室を出た。


 一日中いつ結に絡まれるかと変に意識してしまっていた所為だろうか、病み上がりの所為だろうか、いつも以上の疲労を感じていた。



(買い物行ってから帰らないと)



 普段から食事は自炊の為ある程度の食材は買い置きしていたが体調不良の所為で、冷蔵庫の中身が殆ど空になっていたので、帰宅前にスーパーに向かった。


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