第5話
池に飛び込んだ翌日、スマホのアラームで目覚めるも体中が鉛のように重く頭の中では鈍痛が響いていた。
(あぁ・・・・・・最悪だ)
池に飛び込んでずぶ濡れの状態で帰宅し、冷えた体を風呂で温めずに寝てしまった所為だろうと、昨日の自分の行動に後悔しつつ現状の体調を嘆いた。
関節の節々が悲鳴をあげている所に鞭を打つように立ち上がるも、思っていた以上に足腰に力が入らず、ドンっと大きな音立てて倒れ込んでしまう。
(これ、ダメなやつだ)
床に大の字に転がった体を休息の挟みつつゆっくり立ち上がったタイミングで、部屋のベルが満身創痍の洸を呼びつけた。
こんな時に誰だよ、と悪態を吐きながら再び倒れないように玄関まで向かう。
普段なら訪問者を確認してからドアを開くも、熱を帯びた頭で余裕がなかったからだろう、確認する事もなく扉を開いてしまった。
ドアの前には、洸と同じ学校の制服を着た琥珀色の瞳の女子高生が、一人立っていた。
「・・・なんでお前がここにいるんだよ、暁月」
昨日の言動に思う所もあり、更には絶賛体調不良のもよういんではあるが、誰にも伝えていない自分の家の前にいることへの驚きもあり、表情が歪む。
「なんでって、・・・私も昨日気が付いたんだけど」
結は何かを気まずそうに、恥じらう様にもじもじしながら視線をそらして呟いた
「この部屋の真下・・・私の部屋なんだよね」
昨日といい、今日といい、立て続けに衝撃的な展開に頭を抱えそうだ。
現に熱の所為で朦朧としている事もあり、目の前で発せられた言葉に理解が追いつかない。
洸は授業が終わるといち早く帰宅し、朝はギリギリに登校していた。
元々周囲と関わらない様にしているし、誰かと一緒に帰った事もないく、無論同級生にも住所を教えた事も無い。
それが偶然にも彼女と同じアパートに住んでいると言われれば驚愕しても仕方がないと思う。
「昨日、帰る時に偶々この部屋に入っていくの見ちゃって、表札確認したら天音ってなってたから・・・・・・流石の私も驚いちゃった」
昨日は公園での一件もあり、普段より遅い時間に帰宅した所を、偶々結に目撃されていたらしい。
再び昨日の行動に後悔を巡らせていると、ふっと扉を支えている手から力が抜けふらついてしまう。
「上の部屋ですごい音したから来てみたら、って洸凄い熱じゃない!」
ふらついた拍子に結が支えてくれたお陰で倒れることはなかったが、覆い被さるようにもたれ掛かってしまった洸は慌てて距離をとった。
「・・・・・・悪い、だいじょう「そんな状態で何言ってんの。」」
「なんでそんなに捻くれた性格になったかは知らないけど、辛い時くらい頼りなさいよ」
明らかな痩せ我慢の言葉を聞き入れない様に言葉を遮り、眉を顰めた困った様な表情と少し怒った様な返答に、押し黙るしか出来なかった。
「とりあえず、ベットまで運んで上げるから肩に捕まって」
「おい、待て」と抗議の声をあげるも、当然の様に聞き入れられず、洸より頭一つ分程小さい体に左腕を肩を組むようにして掴むと、そのまま部屋の中に連れて行かれる。
掴まれている左側には、小学生の時より成長した綺麗な横顔が目の前にあり、仄かに漂う甘い香りに、久しぶりに感じる他人の温もりに熱を帯びた身体が更に暑くなった気がした。
「私の部屋にある薬とかスポーツドリンクとか持ってくるから、今日はそのまま寝てなさい」
洸に布団を被せると、結は返事も聞かずに忙しなく部屋から出ていった。
無理して動いてしまったからだろうか、先ほどにも増して身体に力が入らない。
「・・・・・・お節介な奴」
その小さな呟きは、誰の耳に入ることはなく静寂な部屋に溶けて消える。
少しずつ降りてくる瞼に抵抗出来ず、視界が全て覆われるとそのまま眠りについた。
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