第3話

1日の授業が終わり、んーと息を吐きながら、座りっぱなしで凝り固まった体を伸ばすように立ち上がった。

 隣の席に結がいる事に気が付いた事で余計に授業中突っ伏した体制でいる時間が増えた所為だろう、いつも以上に体が凝ってる様に感じる。


 また会えた事は驚いたし嬉しさもあったが、今の洸には彼女と以前の様に仲良くなるのは正直恐怖感の方が強い。それにあの時は幼かったから楽観的な行動が仲良くなるきっかけになったが、今ではそんな事は出来ないので、今まで通り極力関わらない様にしようと決めていた。


(さてと、さっさと帰るか)


 教室内では既に友達関係が構築された生徒同士で、これから遊びに行こうかどうしようかとの会話がされ、例に漏れず隣の席でも同様の会話をしていた。

 

 (昔より笑うようになったんだな) 


 結がいる事に気が付いてしまったが為に、楽しそうにクラスメイトと話す彼女に自然と視線が向いてしまった。

 流石に視線を送り過ぎると話し掛けて来そうなので、一瞥すると早々に帰宅準備を済ませ足早に教室をでる。


 一度トイレに向かい、用を足してから下駄箱に向かう。

 下駄箱でも教室内と同様に、仲の良い人同士で帰るのだろうと思われる複数の生徒達がいた。

 洸は無論帰宅は一人で、更には周りに巻き込まれない様にする為だけに、音楽を聞く訳では無いのにイヤホンを付けている。

 大抵の人は重要な用事がなければ、親しくも無い人にイヤホンを取らせて迄話し掛けて来ようとはしない。


 そのはずが、何故か今日に限って絡まれてしまった。

 校門を出た辺りで不意に誰かに上着の裾を引っ張られ、振り向くとそこには暁月結が立っていた。


それも何故か眉を顰め、少し怒った様な悲しそうな表情で問いかけてくる。


「ねぇ、なんで無視するの?」


「・・・・・・何が?」


一度記憶を辿り、今日の出来事を思い返すも彼女を無視した心当たりが無く、ただの飾りとなっているイヤホンを外す事なく無愛想に返事をしてしまう。


「さっき教室で声掛けてのに、そのまま行っちゃうから」


 どうやら教室で声を掛けられていたらしい。


「・・・・・・悪い、気がつかなかった。何か用?」


「やっと私の事気が付いたと思ったら何も話しかけてこないんだもん。」


「やっとって事は、暁月は前から気が付いてたんだな」


「さすがに近い席の人の名前くらいは名簿で見るでしょ?それに名簿見た時は凄く驚いたし、またお話し出来ると思って、・・・ちょっと嬉しかった。」


 多少恥じらいがあったのだろうか、少し俯き気味に発せられた言葉の後半は言い淀む様な感じになっていた。


 以前とは違って明るく表情も豊かに喋る彼女を見て、記憶の中の性格と齟齬が大きく驚いてしまうが表情には出さない。



「それなのに、入学してからもう2ヶ月も経つのに全然気が付いてないみたいだし、いつも突っ伏して寝てるし、全然話し掛けて来れないし・・・」


恥じらいの表情から少しずつ俯いていき、寂しそうな変化した彼女を見て、本当にこの数年に間に成長したのだろうと感慨深くもあり、今の自分と比較し忌避感を感じてしまった。

 

 洸も結の知らない時間で成長とは言い難い経験をして今を過ごしているのだから。



「確かに暁月の事は、今日初めて気が付いたけど話す必要が無かっただけなんだが。」


 

 まさかの素っ気ない発言に、先程迄再開を喜んでいた表情が驚きへと変わり、少しずつ陰を落とし始めた。

「久しぶりに会えて同じクラスにもなれたのに、なんでそんな言い方するの。小学生の時は仲良かったのに・・・」


「・・・数年経てば人なんて簡単に変わるよ。用ないならもう行くわ」


少し俯きながら哀愁を感じさせる結に、洸は罪悪感を抱きつつも、表情を変えずに会話を一方的打ち切り、一人で歩き出す。


「洸のバカー」と背後から叫び声が聞こえるも、一切振り返る事なく帰路についた。

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