第3話

「うわあああああああああああ! ……あ?」


 ハルアキは悲鳴を上げながら勢いよく起き上がった。


「……あれ? ここ、は」


 起き上がったハルアキは辺りを見渡す。


 そこは自宅だった。よく見知った自分の家の居間だった。


「夢、だったの、かな?」


 ハルアキは自分の体を確かめる。どこにも傷らしいものは見当たらないし、痛いところはどこにもない。


 夢、だったのだろうか。


 ボーン、ボーン、と時計が時を告げる音が聞こえてくる。ハルアキは居間の柱に掛かっている振り子時計を確認する。


 時刻は十二時。窓の外を見ると外は真っ暗で今が夜であることを告げていた。帰ってきたのは夕方ごろだったからだいぶ時間が経っている。


「夢、だよね」


 夢。それにしては妙にリアルな夢だった。手に伝わる洞窟の固く湿った岩の感触を思い出し、ハルアキは自分の手のひらを眺める。


 思い出す。あの謎の大きな狐。牢屋に入れられていたところを見ると、どうやら閉じ込められていたようにも思える。


「ゆ、夢だよね。うん」


 何か大変なことをしてしまった気がする。そんな不安を誤魔化すように、ハルアキは全て夢なのだ、とそう考えた。


 考えたのだが。


「お、お風呂入って、寝よ」


 もう遅い時間だ。明日も学校に行かなければならない。そう考えたハルアキは座卓に手をついて立ち上がった。


 そこで、気が付いた。


「……ない」


 ない。座卓の上にあったはずのタッパーが見当たらない。


 ハルアキは慌てて今を確かめる。座卓の下やテレビの裏、物が隠れていそうなところを隅々まで確認する。


 しかし、ない。ハルアキは冷や汗を流しながら台所に向かい冷蔵庫を開けた。


「ない、どこにも、ない……」


 サーッと血の気が引いていく。


 あれは、夢ではなかったのか。


 もしかしたら、と家じゅうを探してみるがお稲荷さんの入ったタッパーはどこにもなかった。


「も、もしかしたら、おじさんが持っていったの、かも」


 そんなわけがないだろう、とハルアキにもわかっている。だが、そう思わずにはいられない。


 あれは一体何だったのか。正体不明の怪奇現象に襲われたハルアキは落ち着かない気持ちを誤魔化して、結論を先送りにすることにした。


 明日、おじさんに聞いてみよう。もしかしたら、黙って持っていったのかもしれない。そんなことをする人じゃないけれど、もしかしたら、万が一。


 家のあちこちを探していたハルアキは居間に戻って時計を見る。時刻は午後二時を回っていた。

 

 もう、寝よう。お風呂には入らずシャワーで済ませて、学校もあるのだから。


「お、お休み、なさい」


 とにかく寝よう、とシャワーを浴びて着替えたハルアキは布団の中に潜り込んでを閉じた。しかし、眠れなかった。


 結局、ハルアキは一睡もできないまま朝を迎えた。


 もちろん、おじさんは知らなかった。一睡もできないまま朝を迎えたハルアキは、それとなくおじさんにお稲荷さんの入ったタッパーのことをたずねたが、知っているわけがなかった。


 では、どこに行ったのか。


「なにも、ないといいな……」


 一抹の不安を抱きながらもハルアキは日常へと戻っていくのだった。

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