【中編】その1
プールカラと出会って半年後。
あ、因みにプールカラと一線は超えてない。
俺に幼女趣味はない。
最初の頃は既成事実を作ろうとあの手この手を使ってくるプールカラから逃れるのに苦労した。たまにナイフ片手に夜這いをかけてくるから困ったもんだ。
まあ、慣れたから今は上手くかわしている。
そして俺はいま、建設現場の監督をしていた。
うん、何言ってるかわからないよな。俺もどうしてこうなったって思ってるから安心してくれ。
俺が現場監督をしているのは前領主と戦った館で俺が住む事になった建物だ。この半年の間、俺と前領主の戦いを見ていなかった者からは幾度となく命を狙われた。
それでもいま俺がこうして現場監督をしていられるという事はその全てに勝ってきたからなんだけど、異色だったのは飲み比べとサキュバスとの戦いだった。特にサキュバスとの一戦では変なスキル(主にベッドの上で異性にしか効果のないヤツ)も発現したしな…… 決着がつく前にプールカラが乱入してきて『サキュバスを抱く前に私を抱け〜!!』なんて叫んだからドローという事になっているが乱入がなかったらと思うと…… 惜しかった。
でも、まあ普通に戦う方が何倍も楽だ。
それに、一通りこの領地の有力者と戦ったお陰でいまじゃあ(表向きは)受け入れてもらえている(裏でどう思われているかは分からん)。
この辺りは人間と違ってサバサバしていると言えばいいのか。あと、文官系の奴らはプールカラの母親、つまり前の領主夫人のマニュスフロスさんが俺を認めたので領地運営もまあまあ順調にいっているらしい。らしいというのは俺が領地経営について知らなすぎてマニュスフロスさんとプールカラに任せっきりで報告だけ受けているからだ。
それで、そろそろ収穫期も終盤に差し掛かっているいま。
いまだに復旧作業の終わってない領主舘の工事を手伝いに多くの領民が来てくれてその人員の割り振りから作業の進捗なんかを監督しているわけだ。
「おっ! 領主様、作業が終わったら呑み比べしようぜ!」
「あ〜マニュスフロスさんに訊いてみるわ」
「ありゃ、領主様はマニュスフロス様の尻に敷かれてるんだな」
「そういやあ、前の領主様もマニュスフロス様には逆らえなかったなあ」
とかなんとかイジられてるけど、俺とマニュスフロスさんは男女の関係じゃない。いやまあ、正直に言うとプールカラと比べるまでもなく容姿もスタイルも良いし、見た感じは人間と変わらないからなあ。一度『私を抱きますか?』と尋ねられたときは理性を総動員して誘惑に耐えた。サキュバスなんて目じゃない程の魅力的なお誘いだった。
あの人の種族ってなんなんだろうな。
壊した本人が言うのもなんなんだけどさ、この館、大き過ぎるんだよなあ。
「領主様、領民とはすっかり馴染んだみたいですねっ!」
「なあ、その領主様っていうのやめてくれよ。俺にはボニートって名前があるんだからな」
「じゃあ、ボニート。今日は私も一緒に行くからね!」
「なんで?」
「ボニートの隣に立つのはお母様じゃなくて私だって言う事を周知させるために!」
「いやいや、あんなのは単なる冗談だろ。俺が揶揄われてるだけだってば」
「そ〜れ〜で〜も〜ぉ、そんな揶揄い出てこないくらいにするのぉ!」
「はいはい、分かった分かった。あと十年もしたらな」
「十年って、ボニート、おじさんになってるじゃない」
「それがなにか? プールカラよりマニュスフロスさんの方が歳近いんだよなあ(外見的には)、それに俺好みだしな」
「お母様に手を出したらちょん切るからね!!」
「ナニをっ!?」
「ナニよ」
「ひゅっ!?」
心の声が漏れていたみたいでプールカラのご機嫌は急降下した。思わず股間を両手で覆ってプールカラの視線から隠す。その目やめろ〜!?
なんか別の話題、話題っと。
「そういやあ、どうして魔族は人間の街を襲うんだ?」
「はぁ!? ボニートなに言ってるの、攻めてきたのは人間じゃない!!」
「んん!? どう言うことだ。俺が知ってる話と随分違うんだが!?」
俺が、というより人間の間での共通認識では数百年前に魔族が攻めてきて、それからずっと人間と魔族が戦争を続けている。そこに俺というイレギュラーが選ばれた事であの国は魔族の侵攻から一時の平安を得た。得たんだけどさ、その後の対応がねぇ…… 脅威扱いされたらたまったもんじゃないよなぁ。
「結局…… 俺は争いのための道具扱いだったんだよなぁ……」
「なにか言った?」
「いや、なんでもない。ちょっとここに来る前の事を思い出しただけだ。それより、
「ふ〜ん、人間はそんなふうに伝えてるのね。
「えっ!? あっ、そうか、人間より長生きだったな」
「そうよ。じゃあ話、聞きに行く?」
「あ、ああ、そうだな。頼りない領主かもしれないけど、自分のとこの歴史くらいちゃんと知っとかないとな」
「頼りないって自分で言うんだ。それに、魔族の私の言う事、簡単に信じていいの?」
「ん? ああ、良いんじゃねぇの。俺、いまはここの領主だし、それに人間の国からは追われてるしな」
「そうだった。ボニートの帰るとこ、ここしかないんだった」
「そう、そ。ここしか居場所がないんだよなあ。だから、魔族の事もっと教えてくれよな」
「じゃあ、酒場で良いお酒買って行くわよ。それと、今晩一緒に呑めないって伝言ね」
「ああ、そうだな」
で、俺に魔族の歴史について教えてくれたのは前領主と俺の戦いの際に立会人を務めた男。
がっしりとした体躯に四本の腕を持つ頭に立派なツノが生えた青年。信じられない事にこのマグヌスコルヌは四百年以上(それより昔の事は覚えてないそうで正確な年齢は不詳)生きているらしい。
「マグヌスコルヌ。ボニートに人間と魔族の戦いについて教えてあげて」
「やあ、プールカラ。それにボニート」
「ああ、久しぶりだな」
「それでボニートは俺の言う事が真実と信じられるのか?」
「まあな。こんな俺でも、いまはここの領主になったしな」
「そうだな。お前があの戦いに勝利した時からな。どうだった、人間の王は? 一人、魔族を凌駕する能力を持った人間を見る人間たちの反応は?」
「分かってるんだろ? あの時からずっと俺を憐れむような目で見てきたお前なら」
「ああ、分かっていた。あの時からな。人間は自分たちの理解できないものや自分より大きな力を持つものを受け入れはしないからな」
「そうだな…… その通りだったよ」
苦虫を噛み潰したような、そんな思いを抱いている俺をマグヌスコルヌはその表情に憐れみを浮かべて見ていた。
『ドン!』
「それより! マグヌスコルヌも呑みなさい!」
「頂こう」
「ほらっ、ボニートも!」
「お、おう」
車座に座った俺たちの前に酒が並々と注がれた大きな(一リットルは入りそうな)木製のジョッキが置かれた。ジョッキは乱暴に置かれた拍子に酒が跳ねたがこぼれる事なくジョッキに戻った。なにそれ、凄いな!
「乾杯!」
「「乾杯!」」
ゴッと鈍い音を立ててジョッキを打ち合わせる。ゴッ、ゴッ、ゴッと喉の奥に酒を流し込むと喉を焼くような熱とそのあとを強烈な清涼感が抜けていく。
「ぷはぁっ」
「旨いな……」
「ボニートもなかなか強いな」
「そうか? マグヌスコルヌの方が強いんじゃないか? あっ、おいプールカラは呑んじゃ駄目だろ!」
「ボニート、魔族に飲酒の年齢制限はないぞ」
「なにそれ! 人間てお酒呑むのに年齢制限があるの!?」
「あるぞ。俺の故郷だと十五歳からだな」
「それなら大丈夫。十五は超えてるから」
「な、んだと……」
驚きの事実を突きつけられて俺が声を溢したら凄いジト目で睨んでくるのだが。いやぁ、その外見で十五歳超えてるって言われてもなあ…… チラリとマグヌスコルヌに視線を送ると彼は頷いた。なんだと…… ホントなのか?
「ああ、プールカラは十五を超えている」
「このなりで!?」
「うっさい! 失礼な事を言うなぁ!!」
「おゴッ!?」
驚愕のあまり反応の遅れた俺の頭にプールカラのジョッキが飛んできた。それはゴッと鈍い音を立てたあと中身を俺の頭にぶちまけた。
「このっ! いてぇなぁ! それにびしょ濡れにしやがって!!」
「きゃぁ〜! 襲われるぅ〜♡」
びしょ濡れのままプールカラを抱き抑えると何故か嬉しそうに叫ぶのだが、別に襲ってないからな! マグヌスコルヌもそんな生暖かい目で見るなっ!
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