第62話 新たなる敵、悪魔教

 雪の下には多くの村人と魔法使いたちの死体が眠っていた。モカが炎の魔法を使って雪を溶かしたことで、その姿を表したのだった。

 しばらくの間、恐怖のあまり膝をついていたモカだったが、ごくりと息を飲み込むと、マチョダの助けを借りてなんとか立ち上がって、大きく息を吸い込んだ。


 マチョダもこんなに大量の死体に対面するのは初めてのことだったが、そこはさすが46歳マッチョである。モカを不安にさせないよう、なんとか心を落ち着けようとがんばっていたのである。また、戦いの後すぐに雪が死体を覆い、冷凍状態にしていたからか、腐乱臭のようなものもなかったのも幸いした。


「マチョダさんこれって……」

「おそらくここで戦いがあった……そしてそのまま……」


 死体の近くには剣や弓などの武器の他に、農業用の鎌やくわなども落ちていて、そのどれもにべっとりと赤い血がついていた。さらに死体には燃えたようなあとや風に切り裂かれたような傷もあり、魔法を使った戦いも行われていたことがわかる。

 あまり積極的に見たくはない光景だったが、女性や子供の姿までもが目に入った。いったいどんな理由で戦いが起きたというのだろうか……。マチョダは目を閉じて手を合わせた。それを見て、モカも同じように手を合わせる。


 すると、「だれか……だれかそこにいるのか」不意にそんな声が聞こえてきた。


 モカもマチョダも目を開き、辺りを見る。しかし人影らしきものはない。代わりにどこからかキラキラと光る得体の知れないものがやってきて、二人の前で静止した。


「わしはヴァルクの村長キニーク。最後の魔力を使ってこのメッセージを残しておる……生体反応があれば自動的に再生されるように……」


 二人とも、キニークの言葉に耳を傾けた。


「悪魔教のやつらが、この地に眠る伝説の魔法使い、大賢者シュワルツの魔力に目をつけた。そして彼の封印を解いていったのだ……」


「悪魔教……? シュワルツ(ェネガーのことか)?」


 当然だが、マチョダの問いにキニークは答えない。彼の命はすでに絶え、今、目の前で聞こえているのは彼が残した魔力によるメッセージ。一方通行なのだ。さらにキニークのメッセージは続く。


「我々は悪魔教の魔法使いと戦い、みな殺されてしまった……わしの命も長くはない……これを聞いている方よ……どうかシュワルツの魔力を奪っていった悪魔教の暴走を……止め……てくれ」


 どうやらここでキニークは息絶えたらしい。メッセージはそこで終わっていた。キラキラ光るものはゆっくりと二人の目の前で消えてしまった。


「……モカ、悪魔教っていうのは?」

 しばらくしてから、先に口を開いたのはマチョダだった。それにモカが答える。


「その名の通り悪魔を信仰している人たちの集まりです。魔力を集めて悪魔を呼び出し、世界を浄化しようとしていると聞いたことがありますが……そんな人たちをこれまで見かけたことはありませんし、あまりにも非現実的すぎて、みんな特に気にしていないっていう感じだったんですけど……」


 そう言いながら、地面に倒れている黒い装束を着た魔法使いたちの亡骸なきがらを見て、モカは悪魔教の噂は本当なのではないかと少し怖くなった。特に、古代の魔法使いの魔力を求めてここ、ヴァルクの村に来たというのもなんだか気にかかる。


「とにかく、そのシュワルツという魔法使いの眠る場所っていうのを見つけなければいけないな」


 マチョダがそう言って歩き出そうとするのを、モカが引き留めた。


「その前に……この人たちを弔ってあげましょう……このままではあまりにも……可哀想です」

「すまん……モカの言う通りだ」


 モカとマチョダは村の外れの開けた場所に穴を掘り(さすがに今回はマチョダ・パンチで穴を開けるというわけにはいかなかった。さすがのマチョダもそこはわきまえていた)、モカの魔法をうまく使って遺体を埋葬した。

 

 ☆★☆


 遺体を全て埋葬し終わった後、モカは村の奥に強力な魔力の残骸があることを感知した。それが伝説の魔法使い、大賢者シュワルツのものに違いないと、二人は急いでそこへ向かった。


 村の一番奥に、石造りの墓があった。特別大きいわけでもなく、光り輝いているわけでもない。どこにでもありそうなごく普通の墓だった。


「これが……シュワルツの墓……なのでしょうか? 魔力はここから感じていましたが……」

「ちょっとこれは罰当たりにも程があるな」


 村の奥にひっそりと建っていたシュワルツの墓は、見るも無残に掘り返されていた。遠くから見た時に若干傾いて見えたのは、墓が荒らされたせいだったのだ。もちろんそれを行なったのは悪魔教の魔法使いに違いない、モカもマチョダも言葉にしなかったが、そう確信していた。そして、土の中には空っぽになった金色の箱が転がっていたのだった。


「ね、あなたもそう思うでしょう? これには流石の私も怒っちゃうよ!」


 またしても突然どこからともなく声がしてきた。今度は若い感じの女性の声だった。なんと、空から墓石の上に一人の女性が降り立ったのである。

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