第63話 大賢者シュワルツ
「まったくさ、墓を掘り返すにしても、もっとやり方があると思わない?」
墓石の上に足を置き、立っている女性がマチョダに向かって言った。黒い魔法使いのローブを身にまとい、黒いとんがり帽子。そして金色の長い髪が風になびく。モカはその女性から放たれる圧倒的な魔力に身構えてしまっていた。
「確かにさ、私の魔力を込めた腕輪を持っていっていいよとは言ったのよ。でも、乱暴に掘り返した挙句に元に戻しもしない! だから懲らしめてやろうと思って、こうして戻ってくるのを待ってるってわけ」
「あ、あなたは一体――」
マチョダが尋ねると、女性はニコッと笑って答えた。
「私は魔法使いシュワルツ。この墓で眠っていたのよ!」
――シュワルツ! やっぱりこの人がこの地に眠る伝説の魔法使い! でも、どうしてここに姿を表しているの?
――眠っていたのよ! と気軽に言うが、それはつまり死んでいるってことだよな……。っていうことは、今、目の前にいるのは幽霊?
モカとマチョダがそんなことを考えていると、二人の考えを見透かしたようにシュワルツが言った。
「そう! あなたたちが考えている通り、これは私の実体ではなくて、魔力を集めて作った分身のようなもの! 私はすでに100年以上前に死んじゃっているから、直接触れることはできないの! 残念!」
なんだか死んでいるのに元気な人だなぁ、マチョダがシュワルツを見て笑みを浮かべた。すると、シュワルツはすっと墓石から移動して、両手を広げてマチョダに抱きついた……と思ったら、彼女の体はマチョダをすっとすり抜ける。そして、また元の墓石の上へと戻った。
「ほら、ね、触れないでしょ! せっかく目の前にすっごいマッチョがいるってのに触れないなんて、拷問に近くない?」
「も、もしかしてあなたはマッチョがお好きで……?」
恐る恐るマチョダが尋ねると、今度はシュワルツが満面の笑みを浮かべた。
「うん! マッチョってかっこいいじゃん! 本当ならその上腕二頭筋や大胸筋を撫でくりまわしたいのに! 仕方ない、目で堪能させてね!」
自身の筋肉を褒められて、「でへへ、なんか恥ずかしいけど……どうぞどうぞ!」とマチョダの顔がトロンと溶け出した。
――なんか、こんなデレデレのマチョダさん……なんか嫌だ!
モカはぷくっと顔を膨らませて、マチョダの脇腹を肘でつつく。
「ちょっとマチョダさん! 目的を忘れちゃダメですよ!」
「おっと、そうだった」
ゴホン、と一つ咳払いをして、マチョダがシュワルツに向かって自己紹介をする。
「魔法使いシュワルツ殿、俺の名前はマチョダ。マチョダ・ゲンキだ。よろしく」
「あら丁寧にどうも。マチョダ……うん、なんか名前もマッチョでよろしい!」
続けてモカもシュワルツに話しかける。
「私も……初めまして。モカ・フローティンと申します。冒険者をしています」
「あら、あなたはものすごい魔力を持っているのね! こないだ腕輪を持っていった子よりも強いじゃない!」
モカは伝説の魔法使いから「ものすごい魔力」と言われて赤面した。腕輪を持っていった子というのが少し気になったが、それ以上に褒められたことが嬉しかった。
シュワルツは会話ができることが久しぶりで楽しいのだろうか、積極的に話しかけてくる。その会話の合間を縫って、マチョダが聞きたかったことをねじ込む。
「実は俺、別の世界から召喚されてやってきたんだ。どうにかして元の世界に戻る方法を探しているんだが……何か知っていることがあれば教えてくれないか?」
「なるほどね、別の世界から……。だからマチョダは魔力が0なんだ、納得納得。えーっとね、戻る方法はあるけど……教えるのはどうしよっかなぁ」
右手の人差し指を唇に当てて、シュワルツが目線を上に向けて考える仕草をする。
――なんかこの人、すごい魔力を持ってるけど、なんか……なんかいちいちうっとおしいなぁ! モカがちょっとだけイライラした。そんなモカの表情を察知して、シュワルツが意地悪く笑う。
「そうだ! ちょっと私にその体を貸してくれたら教えてあげるわ!」
「え?」
マチョダがぽかんと口を開けたその瞬間を見逃さず、シュワルツがニヤリと笑う。そして彼女の体が煙のように変化し、勢いよくマチョダの口の中へ入っていったのだ。
「!?」
あまりにも突然の出来事にモカもマチョダも反応できなかった。
「ううっ! うっ!」
マチョダが喉を押さえながら苦しそうにする。「マチョダさん!」モカが近寄るが、それをマチョダは左手を出して「来るな!」と制止する。そしてマチョダの体の中心が白く輝き出した。
「マチョダさん!」
一度強く輝いた後は、だんだんと光が収まっていった。すると、そこには……。
黒いとんがり帽子に金色の長い髪の毛。黒い魔法使いのローブの間から見えるムキムキの筋肉。そして顔はマチョダ……という、とんでもない化物が誕生していたのである。
(近況ノートに以前登場したモチョダちゃんをイメージしていただければ。そのままの姿でございます)
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