第45話 マチョダ・ワープ
古代の迷宮第3層は四角い部屋に扉がたくさんあって、その中から一つ選んで先に進むというものだった。正解の扉を見つける方法は、完全に運。
天才魔法使いモカ・フローティンもこれまで7回試したものの、何度も間違った扉を開いてスタート地点に戻されてばかりだった。
そして今回が8回目。
「やっと同じ部屋にたどり着きましたね、マチョダさん!」
「おお! だけど……」
モカとマチョダは偶然、同じ部屋にいた。四方の壁にはそれぞれ扉が4枚ずつ、計16枚。しかし、扉の多さは問題ではなかった。
その部屋の中心には、マチョダの身長を軽く超え、筋肉ムキムキの一つ目巨人、サイクロプスが立っていたのだった。右手にはこれまた大きな棍棒を手にしており、侵入者を許さないといった様子でこちらを見ている。二人は目の前にいる魔物に対して構えをとる。
「まずはこいつを片付けないといけないな!」
「はい!」
といっても、モカだけでは何もすることはできない。召喚獣を介して魔法を使うので、結局はマチョダ頼みになってしまうのだ。「マチョダさん、お願いします!」モカの一声で、マチョダが「まかせろ!」とパンチを一発。
サイクロプスの腹筋にマチョダの拳がめりこみ、一つしかないサイクロプスの目が苦痛に歪む。そして、パンチの際に発生した衝撃波がサイクロプスの後方の床と壁をボロボロにする。
「お前……強すぎ……」
サイクロプスはそう言って消滅した。魔物もまた、古代の迷宮を作った魔法使いが魔法で作り出したもの。死体は残らずに消え去るようになっている。そして、床にはサイクロプスの残した青く光る宝石が残された。これが冒険者たちの言う素材と呼ばれているものである。マチョダはその宝石を手に取ると、モカに渡した。
「ほら、これを売って生活費の足しにしよう」
「そうですね! ってか、マチョダさん……前よりもだいぶパワーアップしてませんか」
モカの言葉に、マチョダは大胸筋をピクピクさせながら「それはきっと、ドラゴンの肉のおかげかなぁ? あれを食べるとすごいんだよ、超回復が!」と嬉しそうだった。モカはまたしても理解できない言葉(超回復)が出てきたので、笑顔でそれ以上触れないことにした。
「さて。次はこの16枚の扉からまた一つ選ばないといけないんですね。マチョダさんとはしばらくお別れになりますが……私、マチョダさんがいない状態で魔物にあったらすぐに別の扉を開いて逃げますね」
「ちょっとマッチョ!」
モカがそう言って、適当に扉を選んで開けようとするのを、マチョダが止めた。
「え?」
突然腕を掴まれて、モカはびっくりした。しかし、マチョダは真剣な面持ちで信じられないことを口にしたのだ。
「俺は気付いてしまったんだ。第3層の真実に!」
「えぇ?」モカの目が大きく開く。
「第3層は扉を開いてはいけなかったんだ!」マチョダは腕を振り上げる。
「ま、まさか?」思わずモカは、マチョダの背後に移動する。
「第3層はこうやって……」
ビュン!
「壊す!」
なんとマチョダは腕を大きく振り上げると、床に目掛けてパンチを放った。ごつん! という鈍い音とともに、拳が床にぶつかる。
一瞬の静寂。
そして……ビシビシビシッ! という音とともに、床全体に大きく亀裂が入った。マチョダが「最後の仕上げだ!」と、その場で思いっきりジャンプをして地面に着地すると……。
「きゃああああっ!」
モカとマチョダのいた部屋の床が爆音とともに抜けて、二人は下へと落ちていった。
☆★☆
「いてててて……」
落ちる瞬間にマチョダがモカを抱きかかえていたので、彼女はほぼノーダメージで済んだ。マチョダはマッチョだから当然ダメージは受けないのだった。
「ちょっとマチョダさん! あんまりです。床を壊して下の層へ行こうとするだなんて!」
「はっはっは! だけどうまくいっただろう? ほら見てごらんよ!」
そう言って二人が上を見上げると、天井にはきれいに穴が開いていて、上の層を見ることができた。「ん? もしかして私たち2層分落ちていませんか?」と言うモカの言葉の通り、マチョダが開けた穴とその下の層の床にも穴が開いていることが確認できた。つまり一気に2層分落ちてしまったのだ。
「え……ってことはここは……第5層?」
「はっはっは、これこそ、マチョダ・ワープ!」
マチョダが笑っている間に、破壊された床はゆっくりと修復され始めていた。第1層でマチョダが草を抜いたが消滅し、元あった場所に再び草が生えたように、開いてしまった穴も、何事もなかったかのように元に戻ろうとしていた。そしてしばらくすると天井にできていた穴は完全に塞がってしまった。
「第5層……ついに……(だけど、こんなめちゃくちゃな方法でたどりついていいのかしら……?)」
モカはごくりと
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