第44話 第2層すっ飛ばし事件
スリムゥ、レンダ、リーン。そしてユーサンの四人は、竜の谷でモカと別れたあとすぐにローインの冒険者ギルドで登録を済ませ、冒険者となった。女の子三人組はD級、ユーサンはB級からのスタートであった。
それからモカがローインにやってくるまで数週間。その間に、みんなかなりの経験を積んでいたようで。
「でさぁ、第2層までは楽勝なわけ。魔物も大したことないし」
「第3層にポータルもあるから、行こうと思えばすぐに行けるよ」
「でもねぇ、スリムゥがモカを一緒に連れて行きたいっていうの」
「あー! またリーンは余計なことを言う!」
ワイワイ言いながら女の子四人とマッチョは草原を歩いていく。
――なるほど、ポータルで移動するから、わざわざ毎回第1層から攻略していく必要はないのね。だからここに冒険者が少ないんだ。歩きながら、モカはそんなことを考えていた。
(注:ちなみに、ポータルは転移魔法のための目印のことで、一度ポータルのある場所に行き、登録しないと使うことはできない。なので、いきなり第4層や5層のポータルにはいくことはできないのである。ただ、術者にくっついて一緒に移動するのは可能となっている)
「で、第3層もいったんだけど、魔物とトラップと謎解きが面倒でさ……」
「私たちの頭脳じゃ謎解きが解けなくって」
「モカがいれば、なんとかなるんじゃないかなぁって!」
三人はモカとマチョダを早く第3層へと連れて行きたい様子だった。マチョダはそんな三人の雰囲気を感じ取りつつも、(モカのことだから律儀に自分で第1層から順に進んでいく! とか言いそうだなぁ)と思っていた。しかし、モカはあっけらかんとして答えた。
「ええ、私に任せて! 早速第3層へ移動しましょう!」
あ、そうか。モカは一刻でも早く最下層へ行きたいんだった。そのためにはなりふり構ってられないんだろうな、よし俺もがんばらないとな! マチョダも改めて気合を入れ直した。
「じゃ、みんなつかまってねー。えい!」
リーンが転移魔法を唱えると、第1層の草原地帯から、女の子四人とマッチョの姿が一瞬にして消えた。
☆★☆
「ここが第3層……」
「なんかこれまでと雰囲気が違うな……」
モカとマチョダがきょろきょろと周囲を見る。
そこは学園の教室と同じくらいの広さで、四方を壁に囲まれた部屋だった。部屋の中には何もなく、窓もないので外の様子もわからない。
ただ、前後左右それぞれの壁に一つずつ扉がついていた。モカは、「なるほど、この扉を開けると次の部屋へと繋がっているわけね」と瞬時に第3層の仕組みを理解した。その言葉を聞いてマチョダもなんとなく分かったような気がした。
「そ。私たち、何回かここにきたことあるんだけど、まあ面倒なわけ。どの扉を通ればどこにいくとかよくわかんなくてさ」
レンダが腕組みをして言う。そうそうとスリムゥとリーンも相槌を打つ。
「何か法則があるのかと考えてみたけど、私たちの頭じゃ限界。ここは一つ、大天才のモカ・フローティン様にお願いしようと思って!」
魔法学園に在学中はただの嫌味でしかなかったセリフが、仲良くなった今では彼女たちの本心となって表れていた。それをモカも感じ取り、少し嬉しくなったのだった。
「まかせて! こういうときは……えい!」
モカはおもむろに目の前にあった扉を押した。すると簡単に扉は開き、モカはその中に吸い込まれていった。
「あっ!」
マチョダが踏み出した時にはもう遅かった。扉はあっという間に閉まり、モカは部屋から姿を消してしまった。どこか他の場所へ飛ばされてしまったのだろうか? 慌ててマチョダが同じ扉を押すが、びくともしない。
「そうそう、最初はみんなこうなる」
「扉を通れるのは一回につき一人だけ。しかも一度開けるとしばらくの間は開かないのよ」
おろおろするマチョダを、女子三人組が落ち着かせる。
スリムゥ、レンダ、リーンの三人はモカがいなくなったことを特に心配することなく、マチョダに冷静にこの部屋の仕組みを解説している。マチョダが
「おかえりーモカ」
スリムゥがやっと戻ってきた、とモカを迎え入れた。モカはモカでモヤモヤした表情を浮かべて少し不満げだった。
「これ、選択を間違えるとこの部屋に戻されてしまうってことね! 悔しい!」
モカはそう言ってマチョダの方を向いた。
「マチョダさん、これ相当難しいですよ! 記憶力とかじゃなくて、完全なる運です、運」
モカの話を聞くと、扉の先にはまた同じような部屋があり、別の扉を開いてまた移動するのだという。正しい道を選ぶと扉の数がどんどん増えていくみたいだが、間違った扉を選んでしまったので、ここに強制的に戻されたらしい。
「なるほど、正解のルートを通ると扉が増えるのね。そんなことすら気づかなかったわ!」
レンダがモカの話を聞いて感心する。そして、これまで数回挑戦し、色々と調査した結果、当たりとハズレの扉の違いは全く分からないのだそうだ。どれも同じ色、同じ模様。魔力を探っても何も判別できないレベルで同じものらしい。
「一つの扉につき一人しか通れないってことは、私とマチョダさんは別行動になってしまうということですかね?」
「そんなことないはずだよぉ。召喚獣だから数にはカウントされないと思うよぉ」
リーンの言葉に、マチョダも「なるほど。ではモカ、一緒にいってみようか!」と手をつなぎ、モカと一緒に別の扉を開いてみた。すると、今度はマチョダだけが開いた扉の中に吸い込まれ、モカは弾かれてしまった。
「きゃっ!」
バチっと静電気が起こったような感じで、モカは扉から数歩後ずさる。そのあとすぐにマチョダが消えていった扉を開こうとするが、びくともしなかった。
「え、どういうこと? マチョダさん召喚獣なのにモカと別行動なわけ?」スリムゥが不思議がる。
「マチョダさん、マッチョだから別枠でカウントされちゃうんじゃね?」リンダは別に驚かず、そしてリーンは「マチョダさんをしまえればいいのだろうけど……マチョダさん出しっぱなしなんでしょぉ、モカ」と尋ねる。
「ええ、そうなの。召喚して以来、一度も姿を消せなくて……ずっと一緒にいるわ」
「もしかしたら、ただの人間だから一人とみなされているのかもね。……いいんじゃない、たまには別行動でも。別の扉開いても、同じ部屋にたどり着くことだってあるし!」
「そうそう、そういうこともあったね!」
スリムゥたちはそう言って、できるだけモカを心配させないようにした。友達ならではの気遣いとでもいうのだろうか、そういうのをモカは感じ取って嬉しかった。
「ほら、戻ってきた!」
レンダのその言葉とほぼ同時に天井に扉が現れ、そこからマチョダがずしん! と落ちてきた。彼はそのまま床に尻餅をつく。部屋の床は木でできているように見えるが、それは迷宮を作った魔法使いが使っている魔法による擬似映像。本当は石か硬い土なのだろう。お尻を強く打って痛そうなマチョダは、お尻をさすってしばらくすると立ち上がり、叫んだ。
「こりゃ、わからん! こマッチ
マッチョ・ジョークが盛大に滑った。
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