第42話 モカが見ている夢の話
「私、小さい頃に一度死んでいるらしいんです」
「ちょっとマッチョ!(1回目) 一度死んでいるって……?」モカの言葉に、思わずマチョダも体をモカの方に向ける。
彼女は少し涙目になっていた。勇気を振り絞って、これまで誰にも言わず隠していたことを話そうとしているのだ。マチョダは自分からそれ以上何か尋ねたりすることはせず、モカの口から次の言葉が出てくるのを待った。
「たまにですけど、夢に見るんです。顔はわからないけど、両親が――きっとあの二人は両親なんです――私に何か魔法をかけてくれている夢を」
「……」
「たぶんそれが蘇生魔法。私の体には両親の魔力が流れ込んでいて、それが過去の記憶を……夢として見せてくれているんじゃないかと思うんです」
「つまり、モカの両親が……その……死んでしまったモカのために蘇生魔法を使ったと……?」
「はい。母の日記によると、蘇生魔法は古代の迷宮の最奥部に封印されていると書いてありました。つまり、両親は最奥部まで行って封印を解いているんです」
「ちょっとマッチョ!(2回目) でもナナ・スージーはこれまで迷宮の第5層にたどり着いたものはいないと言っていたぞ」
「それは国が迷宮を管理してからの話なんだと思います。その前に、私の両親は最下層にたどり着いていた……のかもしれません」
モカは大きく息を一つ吐いた。
「夢には続きがあるんです。魔法を唱え終わった両親はそのまま力尽き倒れます。そして、後ろにあった大きな石像が動き出し、二人を抱き抱えてさらに下の階段へと降りていくんです。そこでいつも目が覚めます」
「ちょっとマッチョ!(3回目) つまり第5層のまだ下もあるかもしれないってことか?」
「あくまでも私がみている夢の中では、です。もしかしたら、夢は昔実際に起こったことで、両親は石像に連れて行かれて第6層にいるのかもしれない……そう思うと、私はどうしても確かめてみたいんです。最下層に何があるのか。本当に夢と同じ石像がそこにあるのか……そして、私は……お父さんとお母さんに会ってみたい」
モカが冒険者となって迷宮の最下層を目指していた理由が、マチョダの想像の遥か斜め上をいくものだった。と同時に、どうしても彼女の願いを叶えてあげたいとも思った。マチョダは自分がなぜこの世界に召喚されたのかわかっていなかったが、まさに今、その理由が分かった気がした。
「俺も……モカのその願いを叶えるために力を貸そう。だって俺は……マッ(ここは冗談を言うところではないと自重した)……モカの召喚獣だからな!」
「……ありがとうございます、マチョダさん。私……召喚したのがマチョダさんで本当によかった」
ぐす、と鼻をすすってからいつもの笑顔を見せると、モカはゆっくりと目を閉じた。心の内を吐き出した安心感からか、すぐに寝息を立てて眠りについた。マチョダはそんなモカの様子を確認して、自分も天井を向いて目を閉じた。
――モカにはちゃんとした目標がある。俺は……俺はモカを助けるためにこの世界にやってきた。しかし……そのあとは? 俺は元の世界に帰ることができるのだろうか? うーん、ま、あんまり深く考えてもどうしようもないか!
筋トレのことを考えているといつの間にかマチョダも深い眠りについていた。
☆★☆
翌朝。
二人はすっきりとした気分で目を覚まし、朝食もそこそこにさっそく草原地帯を歩き回る。
目的もはっきりした。目指すは古代の迷宮最下層。そこで、モカの夢に出てきた石像が実際にあるのかや封印されし蘇生魔法の謎を調べる。そのためには第1層あたりで時間を食ってる場合ではなかった。
「さて、マチョダさん。第1層の階段の前にですね……」
「おう、できることならなんでもするぞ!」
歩きながらモカが話しかける。どことなく声も力強い。そしてまたマチョダも気合が入っていた。ポキポキと拳を握りしめて指を鳴らす。
「どうやら、私たちを狙っている魔法使いがいるんですよ」
モカは魔力探知で魔法使いの存在を感知していた。迷宮内にいる魔法使いということは冒険者。しかし明らかに敵意を向けられている。冒険者同士で戦うことは禁止されてはいないが基本、迷宮内には魔物が多く潜んでおり、冒険者は協力して魔物を倒していくものなのだが……。
「ほほう、俺の筋肉に嫉妬しているやつがいるってことだな。どれ、軽く筋肉を見せつけてやろうじゃないか」
「ふふふ、そうですね。私もちょっと今やる気満々ですから、準備運動がてら、戦ってみましょうか!」
モカとマチョダは戦う気満々だった。
ま、隠れている魔法使いは、先日冒険者ギルドで痛い目に合わされたEランク冒険者ヒョ・ロガリーなのであるが。
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