第32話 モカの疑問

 ――席を外せ……きっとギルドマスターとやらとモカで冒険者になるための話をするんだろうな。さっきも俺のせいで冒険者になれないとか言っていたし……俺にもマりょくはあるはずなんだけどなぁ。


 マチョダはマッチョではあるがそれなりの一般常識は持っているつもりだった。モカとナナの話が聞こえないくらいの少し離れた場所にテーブルと椅子があるのを見つけ、そこに座る。どうやらそこはギルド内の食堂だったようで、周りを見ると探索帰りの冒険者たちが数名、食事を摂っていた。


 ――そういえば、この街に来てまだタンパク質をとっていなかったな。


 ちょうどマチョダの前を銀のお盆を持ったウエイターが通りすぎようとする。それをマチョダは手を挙げて呼び止めた。


「すまない! プロテインをもらえないか?」

「へっ? プ、プロテイン? 何ですか、それ?」


 突然マッチョに呼び止められたウエイターは、この街では滅多に見ることのない巨体にビクッとしながらも返事をした。


「プロテインはプロテインだよ! みんなの飲み物、プロテイン! ないならステーキでもいいな。肉はあるかな?」

「プロテインというものはおそらくありませんが、肉なら若干……」

「おっ、じゃあ肉を一つ! これまで通ってきた街では食べられなかったんだよ! さすが、この国第二の都市は品揃えもいいね」


 肉が食べられるとのことでニコニコのマチョダに対して、ウエイターが恐る恐る尋ねる。


「あの……ちなみに冒険者タグを見せていただけますか? 初めて見るお顔なので……」

「タグ? ああ、さっきのやつが首にかけていたやつか。……ない!」


 マチョダが笑顔で返事をすると、ウエイターの動きが止まる。


「ない? じゃああなたは冒険者では……ない?」

「そうだ!」

「すみません、ここの食堂は冒険者タグがないと使えないきまりなんです……どなたか冒険者と一緒ならいいのですが……失礼しますね」


 そう言うと、ウエイターは食堂の奥へと消えてしまった。

「むむっ……これは失敬」

 マチョダの筋肉が少し寂しそうだった。


 ◇◆◇


「ところで」

 マチョダが遠くに離れたことを確認すると、ギルドマスターのナナがモカに話し始めた。


「あいつは一体何者なんだい? 魔力を持たない人間だというのに、ミストガードを使うじゃないか」

「マチョダさんのことですか? 先ほどから言っている通り、私の召喚獣です」


 モカが堂々と受け答えをするのを見て、ナナが信じられないという顔をする。


「召喚獣は召喚魔法を使って呼び出し、契約をするんだ。あの男はどっからどうみても召喚獣じゃないじゃないか。ただのマッチョだよ、あれは!」


「いえいえ、私オリンピアの卒業前の召喚魔法で確かにマチョダさんを呼び出したんです。それは間違いありません!」


「だとしても……だ。そもそも召喚獣は自分が呼び出した時だけ現れる存在。あの……マチョダとか言うやつはずっと姿を見せているんだろう? しかも私が召喚獣をしまってくれと言っても、あそこでメシを食おうとしているし……」


 ――そう言われると……マチョダさんって、一体何者なのかしら?(今さら)。

 モカもナナと話をしながら、だんだんとマチョダのことが不思議に思えてきた。


 まず、四六時中召喚していても魔力の消費が一切なかったこと。竜の谷に行ったときは、学園から借りたゴーレム(属性:土B)を召喚しただけで魔力を使っていたのだ。どうしてマチョダはずっと召喚していても平気なんだろうか?


(それはマチョダが召喚獣ではないから……ということをモカは知らない)



 次に、マチョダは召喚されてからしばらくは魔法が全く使えなかったのに、突然数種類の魔法を使えるようになったということ。しかもその際も魔力消費がゼロだったこと。学園での模擬戦でマチョダはいくつかの魔法を使ってみせた。だからマチョダは魔力があることは間違い無いといえる。しかし魔力消費ゼロの説明がつかない……。


(魔法と思っているものは、ただの筋肉パンチだったり汗による湯気だったりすることを……モカは知らない)



 さらに、他の召喚獣と違って召喚を解除することができないということ。召喚獣は呼び出しておくだけで魔力を消費し続けていく。だから魔法使いは必要な時以外は召喚獣を呼ぶことはない。しかしマチョダは他の召喚獣と同じように姿を消すことはできない。魔法学園オリンピアで過ごしていたときだって姿を消すことはなく、夜はベッドでいびきをかいて眠っていた。現に今もこうしてギルドの片隅で料理が食べたくて椅子に座ったままではないか。


 考えれば考えるほど、モカはマチョダの存在がわからなくなっていくのだった。

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