第30話 登録拒否
「すみません、モカ・フローティン。あなたを冒険者として登録することはできません」
「えっ、どういうことですか?」
冒険者ギルドの受付で、モカは自分の耳を疑った。――登録することはできない? まさか。召喚獣を従えた魔法使いなら誰でも冒険者になることはできるはずだ。改めて彼女は受付の女性――ラティスという名札が胸に刺さっている――に尋ねる。
「登録できないって、何か不備でもあるんですか?」
モカの問いに対して、ラティスはマチョダを指差して答えた。
「あなたの召喚獣は……人間です。そもそも召喚獣ですらありません」
「そんな! 私は確かに召喚魔法でマチョダさんを呼び出したんです。ちゃんと契約もしました!」
どれだけ説明をしても、受付の向こう側にいるラティスは首を縦には振らない。そんな中、マチョダはモカの後ろでただ立っていることしかできなかった。
モカとラティスのやりとりが激しくなるに連れて、ギルド内にいる冒険者たちが何事かと集まってきた。
「どうしたどうした、何を揉めてるんだ?」
「その嬢ちゃんが冒険者になろうとしてるんだが、登録できないんだってよ」
「登録できない? そりゃまたどうして?」
「嬢ちゃんの召喚獣、人間なんだとさ」
「人間? そりゃまたレアな種族を……でも人間って確か」
「魔法を使えないらしいよな」
「だったらダメだろ。魔法が使えないことにはこの世界で生きていけないぜ」
ラティスが聞く耳を持たないことに対して苛立っていたモカは、野次馬の冒険者たちが好き勝手言うのを許せなかった。
野次馬の方に向き直って、大声で言った。
「マチョダさんはすっごく強いんです! あなたたちの召喚獣なんかマチョダさんのパンチで一発なんですから!」
「なんだと、嬢ちゃんだからってあんまし生意気なこと言うとただじゃおかないぜ!」
「ちょっと、ギルド内で揉め事はダメですよ!」
モカと野次馬が睨み合う姿を見てラティスが言うが、当然それを素直に聞き入れるはずがない。新人冒険者にすらなっていない女の子に煽られて、野次馬たちもカチンときたようだった。
すると。
「フンフンフンフンフン!」
「マ、マチョダさん!?」
突然、モカの後ろに立っていたマチョダがスクワットを始めたのだ。しかもわざとらしく声を出しながら。
「フンフンフンフンフン!」
「な、なんだよこの人間?」
「お前、魔法使えないくせに何してんだよ!」
冒険者のうちの一人がスクワットをしているマチョダを止めようと手を伸ばした。しかし、圧倒的なパワーを前に止めることすらできない。逆にバチン! と弾かれてしまった。
「おいおいおい、情けねぇな! 相手はただの人間だぜ?」
その様子を見ていた別の冒険者がマチョダに手を伸ばす。今度は動きを止めようとするのではなく、マチョダを突き飛ばそうとする。
バチン!
当然、マチョダはびくともしない。むしろ冒険者の方が勢いよく弾き飛ばされてしまった。
「この野郎!」
弾き飛ばされた冒険者が声を荒げて、自分の召喚獣を呼び出す。赤色の小さな四足獣、フェンリル(属性:火B)だ。炎の魔法を使ってマチョダに仕返しをしようと呪文を唱えようとする……と。
「フンフンフンフンフン!」
スクワットを続けているマチョダから吹き出した汗が蒸気となり、彼の体を包み込む。それはまるで、水の魔法であるミストガード(霧の壁)のようだった。
「な、なんだよこいつ! 魔法使えるじゃねぇか!」
「人間は魔法を使えないって言うのは嘘だったのか?」
他の冒険者たちもマチョダの様子を見て慌てふためく。しかし実際は、マチョダは魔法など使っておらず、ただスクワットをして汗をかいているだけなのだった。
フェンリルを呼び出した冒険者は、一瞬たじろいだがゴクリと唾を飲み込むと大声で言った。
「水属性だかなんだか知らないが、そんなの知ったことか! さっきの仕返しだ、くらえファイアボール!」
フェンリルの口が大きく開き、そこから握り拳程度の炎の球がマチョダに向かって飛んでいく。
「そこまでだ!」
マチョダとフェンリルの間に、何者かが割って入った。そして右手を軽く広げると、フェンリルのファイアボールが消滅した。同時に左手を大きく振るとマチョダのミストガード(汗でできたただの水蒸気)を一瞬で消し去った。
――魔法を無効化した? 初めてみたわ!
モカは突然現れた人物の凄さを、一目見て感じ取った。
「で、冒険者ギルドの中で騒ぎを起こすとは……お前らこの私がいると知ってのことだろうな」
「ギ、ギルドマスター!」
そこには、ギルドマスターと呼ばれた魔女のような姿の黒髪の女性が立っていたのだった。
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