第29話 冒険者ギルドと古代の迷宮
マチョダ復活から数週間後。
ここは魔法学園オリンピアから北東にある交易都市ローイン。街は多くの人で賑わい、活気を帯びている。
「ここはすごく大きな街だな」
「ええ、この国で二番目に大きな都市ですから! って、私も初めて来たので驚いています!」
周囲の店や人々をきょろきょろと眺めながら、女の子とマッチョが歩いている。今年、魔法学校をダントツトップの成績で卒業したモカ・フローティンとその召喚獣マチョダである。召喚獣と言っても、マチョダは魔力を持たないただの人間。側から見れば親子のような二人組だった。
オリンピアからローインまで、ポータルを使って一瞬で移動することも可能だったのだが、マチョダのリハビリも兼ねてのんびりと歩き、途中いくつかの街を経由しながら、数週間かけてここまでやってきたのだった。そのおかげでマチョダは本来の筋肉を取り戻し、顔にも生気がもどっていた。
「しかし、人が多いな」
「この街は世界中から冒険者が集まるんですよ! マチョダさん、私たちも冒険者ギルドへ行って登録を済ませましょう!」
「冒険者ギルド……ねぇ」
マチョダは、ウキウキ気分で歩いているモカの後をついていきながら、改めて自分が異世界に召喚されたのだということを実感していた。
そしてこの交易都市ローイン。道ゆく人々は、見た目的に人間となんら変わりはない。しかし全員が、能力の差はあれど魔力を有しており、魔法使いとして生きている。普通の人間である自分が異質な存在であることが、なんだか変な感じだった。
「ところでマチョダさん、この国の……いえ世界中の人々がここに集まる理由、どうしてだかわかりますか?」
「……すっごく大きなジムがあるとか?」
「……ジム?」
きょとんとするモカに対して、マチョダが「いや、なんでもない。続けてくれ」と謝る。マチョダなりのマッチョ・ジョークのつもりだったのだが、モカには全く通じなかったのだった。
「なんとですね、十数年前、ローインの町外れに古代の迷宮が見つかったんです! その迷宮の一番奥深くには魔術師の秘宝が眠っているという噂が広まって……それを手に入れようとみんなが殺到したんです!」
「へぇ」
「ですが、せっかくの大発見、冒険者に好き勝手されても困る。ということで国が冒険者ギルドを作って、迷宮に入る人たちを管理するようになったんです」
「なるほどね。そのギルドに登録した人じゃないと、迷宮に入れないようにしたわけだ」
「そうなんです! そして、いまだに一番奥まで行ったことのある人はいなくって……。そして、迷宮の中にはたくさんの宝物が眠っているんですって!」
――モカもそんな宝物が欲しくて冒険者を目指しているのだろうか?
マチョダはこれまで、モカが冒険者になりたいという理由を聞いたことがなかった。聞く必要がなかった、というほうが正しいかもしれない。これまでの彼女の様子を見る限り、そんなお宝や金銀財宝の類に興味があるような感じではなかったのだが……。もしかしたらこういった迷宮の方が、普通の仕事に就くよりも自分の力を存分に発揮できると思っているのかもしれないな、とマチョダは思った。
「この迷宮で見つかった宝物は、結構高値で取引されることも多くて、ローインは冒険者だけでなく、世界中から商人も集まってくるんです!」
「じゃあ、俺たちもお宝をゲットしたら大金持ちになれるってわけだな」
マチョダは、モカがお宝に関心があるのかどうか、さりげなく探ってみる。
「ふふふ、お宝を見つけたらですけどね。でも私はあんまりお宝とかお金に興味はないんです。マチョダさんはお宝に興味がありますか?」
モカはマチョダが気にしていた内容をさらっと言った。――お宝やお金に興味がない……。だとすればやっぱりモカは自分の力を試したくて冒険者に? ま、いずれわかるだろう。「あ、いや……別に。まあ一目見てみたいなってのはあるかな」マチョダはそう返事をした。
「わたしもちょっと見るくらいで十分です。まあ、確かに古代から伝わる魔道具とかがあるとワクワクしちゃうかもしれません!」
しばらく歩くと目の前に大きな建物が現れた。入り口に掲げられた大きな看板には丁寧に「冒険者ギルド」と書かれていて、そこに多くの人が出入りしていた。
「着きましたよ、マチョダさん! ここが冒険者ギルドです!」
「おお、デカいな」
マチョダは横をすれ違った大きな体の男を見て言ったのだが、モカはそれを建物について行ったのだと勘違いした。
「ですよね、今では千人近い冒険者が登録していると聞きます。さ、私たちもいきましょう!」
モカはマチョダの手を引いて、自分の身長よりも高いギルドの扉を開けた。
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