第26話 ドラゴンクッキングのお時間です(後編)
大理石でできたキッチンの上に、綺麗にカットされたブラックドラゴンの肉が並んでいる。今からそれをユーサンが焼き、スリムゥが急速冷凍をするという流れになっている。果たして魔法使いによるドラゴンクッキング、成功するのでしょうか。っていうか、成功しなければ困るのはモカたちなんだけど!
「はーい、それじゃあユーサン。焼いてちょうだい!」
「火加減気を付けろよ」
「うるせぇ!」
レンダとスリムゥに言われて、ユーサンが若干やけになりながらイフリートを召喚する。あ、適当に火を出して焦げたら困るなぁと、リーンが口を出す。
「ほらほらぁ、モカも応援してるよ。モカからも何か言ってあげなよぉ」
「えっ……私?」
突然話を振られて戸惑うモカに、ニヤニヤしながらスリムゥが近づいてきて、ごにょごにょと耳打ちする。そして、スリムゥのアドバイス通りにモカが言った。
「えっと、ユーサン。私の体も熱くさせてね」
「フオオオオオオ!」
ユーサンのイフリートが(変な意味ではない)いつも以上に魔力を放出させ、炎を撒き散らして、竜の肉を焼いていく。ユーサンの興奮状態により、ほぼ制御不能になっている炎でも焦げることなく、竜の肉にじわじわと火が通り、美味しそうな匂いが漂い始める。しかし、普段肉を食べる習慣がない魔法使いたちはこの匂いで食欲をそそられることはなかった。
ついでにいうと、この竜の肉を焼く匂いが、他の生物たちにとって「竜以上の強者が存在する」ことの証明にもなり、今この瞬間、彼女らを襲おうとするものはいないのである。
「やっぱ、あいつバカだろ。しかも極上の」
「モカにそんなことを言わせるスリムゥも大概よ」
「そして、素直にそのセリフを言うモカもおかしいわぁ」
「え、私の体を熱くするって、どういう意味なの? 私、炎属性の耐性魔法使えるけど……?」
「あーはいはい、ごめんモカ。私が悪かったわ」
ぽんぽんとスリムゥがモカの肩に手を置く。
「じゃ、料理の続きに戻りまーす! ユーサン、そろそろいい感じに焼けたかな?」
「ああ、もういいぞ。で、これ試食すんのか? 肉なんて滅多に食わないけどよ」
「試しにユーサン食べてみてよ。大丈夫だと思うけどさ、竜の肉なんて食べるのみんな初めてじゃん」
レンダがユーサンに試食を促す。「あ? なんで俺が……」と嫌そうな顔をするユーサンを、モカの真っ直ぐな瞳が見つめる。もう何度目になるかわからないが、彼の心のど真ん中に矢が刺さり、勝手に「……わかったよ、食えばいいんだろ。だけど、一つだけな!」と言って、ブラックドラゴン・サイコロステーキを一つつまんで、口の中に入れた。その様子を他のみんなが心配そうな様子で見守る。
「ふぉっ……おっ、おっ……フォオオオオオッ!」
ユーサンが変な声を出しながら飛び跳ねる。――やっぱ竜の肉って毒があんのかな? スリムゥがそんなことを思ったが、どうやら様子が違うようだ。
――な、なんだ……この体の奥底から湧き上がってくるエネルギーは? すごい、これは竜の肉を食べたから……竜の力をこの体に取り込んだからか! うおおおお、体が、体が大きくなる! ありとあらゆる筋肉が膨張し、マッチョになっていくゥ!
「うわああぁぁっ! ちょっと
「!?」
「どうしたのユーサン? おいしいのか、おいしくないのか、言ってくれなきゃわかんないでしょ」
女の子たちがユーサンのことをじっと見つめている。しかし「キャア!」とも「マッチョよぉ!」とも何も反応がない。彼が自分の体を確認すると、そこにはこれまでと全く変わっていない自分の姿があったのだった。
――あれ、俺は今確かにマッチョになったはずなのに……。幻覚を見せられていたのか? とユーサンは困惑した。
――いや、違う。マッチョになったと思えるくらい、魔力が充実しているんだ! 一時的なものなのかもしれないが、こいつは効果絶大だ!
そんなことを思いながらも、ユーサンは平静を装ったまま言った。
「いいから黙って食ってみろ……飛ぶぞ」
若干の怪しさを感じつつも、モカたちもブラックドラゴン・サイコロステーキを一つつまみ、口に入れる。そして――
「ふっ、ふおおおおおお!」スリムゥが叫び、
「こ、これが竜のお肉!」モカは自分の魔力の高まりを感じ、
「すげぇ! 魔力が溢れてくるぞ!」レンダは喜び、
「なんかお肌が綺麗になった気がするわぁ」リーンが体を震わせた。
五人がワイワイしている間に、クランチ校長もお肉を一口食べてみる。
「ほうほう……なかなかの美味!」
クランチ校長も、顔には出さなかったものの、ユーサンと同じマッチョ感を味わっていた。
試食も終わったところで、スリムゥが残りの肉――といっても相当な量があるのだが――を、魔法で急速冷凍させた。
さあ、いよいよマチョダの待つ魔法学園オリンピアへと帰るのみとなった。
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