第24話 ただ者ではない
「あーもう、バカバカバカモカ! あんたがメテオストライクなんか使うから、竜の肉ゲットし損ねたじゃないの!」
「うっ……ご、ごめんなさい」
「っていうか、スリムゥだって今の今まで肉のこと、忘れていたくせに」
「うっさい、レンダ!」
「……えっとぉ、みんなで谷底に降りて取りに行こうか?」
「でもみんな、さっきの大技で魔力があんまり残ってないのよ!」
四人の魔法使いの女の子たちがわちゃわちゃしている中、ユーサン・ソウンドは頭を抱えながら言った。
「谷底に降りれば、まだ竜もいる可能性はあるが……お前らの魔力はスリムゥが言うようにあまり残っていない。日を改めるのがいいだろうな」
そんな、1日でも早くマチョダさんのために竜の肉をゲットして戻るはずだったのに、どうしよう――モカが途方に暮れていると、谷底から「ほっほっほっほっ」という声が聞こえてきた。
「!?」
五人は再び身構えた。――また新しい竜が姿を現すというの? 黒い竜一匹でもかなり大変な思いをして、みんな魔力があまり残っていない状況で……。
「よいしょ!」
そんな声と同時に、谷底から何かの影が飛び上がってきたが、竜ではなかった。そして五人の前にドン! と降り立った。
その姿に五人は目を疑った。目の前には、
「こ……」
「校長先生?」
そう、魔法学園オリンピア校長のクランチ先生が立っていたのである。しかも肩に大きな竜の尻尾を携えて。
「黒い竜まで倒すなんて、みんななかなかやるじゃないか。さすが、今年度上位で卒業しただけあるなぁ」
よっこらしょ、とクランチ校長が担いでいた竜の尻尾を地面に下ろす。それは、ドン! というものすごい音とともに地面にめりこんだ。それだけで、いかに竜の尻尾が重いのかが五人には伝わった。
――この校長、ただ者ではないと思っていたが……こんだけ重そうな竜の……竜のだよな? 尻尾をかついで、谷底から走って来たっていうのか? まるでバケモノじゃないか!
ユーサンはニコニコとしているクランチ校長を見て、少し震えた。この人の持っている力は俺たちの比ではない。そう思った。
「え、校長先生、それ、竜の尻尾?」
スリムゥが馴れ馴れしく尋ねると、クランチ校長は「そ。ちょっと取って来た」と軽く答えた。
「えー、校長先生マジ最強じゃん!」レンダもまるで友達のように話しかける。
「だったら最初から校長先生に全てお任せすれば良かったなぁ」とリーンは冷静だった。
「いやいや、君たちが撃ち落とした黒い竜の尻尾を運良く手に入れただけだよ。私一人では到底竜とは戦えない。これは君たちが協力して勝ち取ったものだよ」
クランチ校長は四人を見ながら言った。校長先生から直接褒めてもらえる機会など、学園生活の中ではほとんどなかったため、四人は本当に嬉しそうに微笑んだ。それは歴代最高の天才魔法使いと言われたモカ・フローティンも同じだった。彼女にとっては「四人で」褒められたことが特に嬉しかったのだ。これまで一人でなんでもこなして来た彼女に取って、チームプレイの素晴らしさを感じるいい機会となったのだった。
「で、その大きくて重い肉をどうやって持ち帰るんだ? しかもそれ、そのまま食えるのか?」
ユーサンが腕組みをして少し顔をしかめた。校長だから軽々と抱えられたが、地面にめり込むほどの重さだ。どうするつもりだとモカに尋ねた。
「えっと……」
モカが答えに困っていると、スリムゥが割り込んできた。
「ユーサン。焼いて」
「はぁ? なんで俺が」
「だってユーサンしかいないじゃん。火属性なの」
その話にレンダとリーンも加わった。
「まず、私とレンダの風魔法でカットして、ユーサンが焼いてぇ、最後にスリムゥが冷凍保存! 完璧じゃない!」
「ちょっと待て、何を勝手に話を進めているんだ!」
「あ、じゃあ私はユーサンが焼くのを応援するね」
モカが何の邪念もなく、ただただ素直な気持ちでそう言った。するとユーサンは自分の顔が赤くなっていくのがバレないように、目の前にイフリートを召喚した。
「レンダ、リーン! 肉どんどん切り刻め! 俺がガンガン焼いてやる!」
「うわー、スリムゥが言ったら渋ったくせに、モカが言ったら進んで焼くんだぁ」
リーンがニヤリと笑って、ユーサンをいじめる。
「ちっ、違う! 俺はそんなつもりじゃ……」
「ユーサン、あんたどういうつもりよ! 私よりモカの方がいいっていうの?」スリムゥもユーサンに難癖をつける。
「え、ユーサンってモカのことが好きだったりするの?」とレンダもニヤニヤしながら話に入ってくる。
「ちがーう! いや、モカ・フローティン! 誤解しないでくれ! 違うっていうのは違うんだ」
「……?」
きょとんとしているモカを見て、「この子は魔法の才能は突出しているけど、恋愛の才能はからっきしみたいね」とリーンは笑った。
「うーん、青春だ」クランチ校長は五人の漫才のような、コントのようなやりとりを温かい目で見つめていた。
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