第23話 勝利の代償
「アースロック!」
黒い竜が現れるや否や、モカが魔法を唱えた。すぐさま黒い竜の頭上に巨大な岩が作り出され、そのまま垂直に落下する。直撃かと思われたその瞬間、黒い竜はするするっと動き、岩を避けた。そしてそのまま空高く舞い上がった。
モカにとって予想外の動きだった。まさか竜があんなに器用に魔法を避けるなんて……。もっと簡単に倒せると思っていただけに、モカはちょっとムッとして唇をかみしめた。
「あいつ……避けやがった!」
スリムゥが悔しそうに呟く。そして、「あんなに高く飛ばれたら私の魔法も届かないし!」と地団駄を踏む。
「でもそれはこっちも同じ。相手の攻撃もこちらには届かな――」
リーンが言い終える前に、上空から雷が落ちてきた。幸い四人に当たることなく、近くの木に落ちた。そしてすぐに木が燃え上がる。スリムゥがそれを見て、慌てて氷の魔法を唱えて鎮火させた。
「やぱ。あいつあんな遠距離から魔法使ってくんの?」
「しかも……雷だって。陽属性だから厄介だわ」
スリムゥとレンダがそんなことを言う間にも、上空から雷が次々と落ちてくる。それらは木を燃やし、地面に穴を開け、岩を砕く。もしも直撃したらひとたまりもないだろう。四人は魔法の壁を作り、雷を防ごうとする。そして手負いのユーサンもまた、イフリートを使って炎の壁を作り出す。
「ちょっと! このままじゃ手も足も出ずに負けるじゃないの!」
スリムゥがイライラしながら空を見上げる。黒い竜ははるか空の上で動きを止めて、雷を連発してくる。そんなスリムゥをよそに、モカとリーンは顔を見合わせると「うん」とうなづいた。
先日のキャンプ中、夜遅くまで二人は竜を倒すための作戦会議をしていたのだった。今こそ、その作戦を使うとき! それはまさに、空高く舞う竜を倒すために考え出した方法だったのだ。
「レンダ! 協力して!」
「……! あいよ!」
リーンの言葉に振り向いたレンダは、全てを察してにこりと笑った。そして彼女の召喚獣であるウィンディの背に乗ると、強引にスリムゥまで連れて空高く駆け上がった。
「ちょいちょいちょい! いきなり何すんのよ!」
状況を把握できていないスリムゥをしっかりと捕まえたまま、レンダが叫ぶ。
「スリムゥ! フロスティを使って最高の氷結魔法見せてちょうだい! 空の空気を凍らせるわよ。モカがびっくりするぐらいなの、見せつけてやりな!」
「……まかせろ!」
ウィンディは二人を背中に乗せたまま、黒い竜と同じ高さにまで上昇した。黒い竜はそれに気づき、自身に近寄ってくる敵に対して雷を集中的に落としていく。しかしウィンディは周囲を高速に回転して、それらを
と同時にスリムゥが発動させた呪文で、空中に氷の壁が作られていく。それは竜を閉じ込める大きな氷の牢獄となった。
「どうよ! これで竜も逃げらんないでしょ!」
「さすがスリムゥ!」
「今よ、モカ!」
その状況を地上から見ていたリーンは、彼女の召喚獣であるシルフの風魔法を使って、モカと召喚獣ゴーレムを空高く舞い上がらせた。そしてモカが氷の牢獄と同じ高さまで飛び上がったタイミングで魔法を唱えた。
「アースロック!」
黒い竜は氷の牢獄を破壊しようと、それに向かって何度も体当たりを繰り返すが、そう簡単に破壊されることはなかった。逃げられないまま、竜の頭上に巨大な岩石が発生し、垂直に落下する。竜は逃げ場がないまま、岩石をまともに喰らい、絶命した。同時にスリムゥの作った氷の牢獄も粉々に砕け散り、破片がキラキラと輝きながら谷底へと落ちていった。
「っし!」
地上ではリーンが拳を握って喜んだ。モカたちと一緒に考えた作戦が見事にハマり、黒い竜を倒したことがたまらなく嬉しかった。
「おお! やるじゃんモカ!」
「ああ! 私の氷魔法がモカに負けた!」
レンダは悔しそうにしているスリムゥのことは放っておいて、空中にいるモカを回収するとゆっくりと地面に舞い戻った。
三人が戻ってくるのを待っていたリーンは、それぞれとハイタッチを交わし、作戦がうまくいったことを喜んだ。
「やるじゃないか、モカ・フローティン」
四人が黒い竜をやっつけて喜んでいる中、ユーサン・ソウンドが立ち上がり、拍手を送った。彼は先ほどかけてもらった回復魔法が効いたのか、折れていた足も元に戻り、血もすっかり止まっていた。
「ところで……お前たちは肉を求めにやってきたんじゃなかったのか? 竜を谷底へと叩き落としたのは、ちゃんと考えがあってのことだろうな?」
「……あ」
四人は竜を倒すことに頭がいっぱいで、本来の目的を忘れてしまっていた。
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