第18話 決着、そして……【第1章最終話】
「くらえっ!」
イフリートが火球を投げつける。
「ふん!」
ブラック・マチョダがその場でパンチをすると、衝撃波で火球がかき消される。逆にB・M(ブラックマチョダの略)がパンチを放つと、イフリートが炎の防御壁を出して攻撃を防ぐ。
二人の召喚獣の戦いは熾烈を極めていた。
観衆も二人のド派手な戦いに大興奮だった。
――これ、模擬戦だよな? こんなすごい戦い、見たことないぞ!
――モカの召喚獣は風属性ってことなのか? でも最初は水を使ったよな?
――どっちもがんばれ! できればずっと見続けていたいぜ!
そんな中、モカの心の中はモヤモヤした状態だった。
――ユーサンはイフリートを召喚し、炎の魔法を使い続けている。彼の魔力もそろそろ底を着くはずよ……。なのに、どうして? どうして私の魔力は全く減っていないの? マチョダさんも相当な数の魔法を使っているはずよ!
ブラマチョ(ブラック・マチョダの略)は何発ものパンチを撃ち続け、イフリートの魔法に対抗している。むしろこちらが優勢とも見て取れる。そんな状況なのに、モカはなぜか不安を感じてしまうのだった。
「余裕だな……モカ・フローティン! ほとんど魔力が減っていないじゃ……ないか……」
ユーサンが肩で息をしながら、モカに言う。
「さすが……歴代最高の……天才魔法使い……だな」
魔力を使いすぎたのか、イフリートの炎も試合直後の勢いは見られなかった。ユーサンは片膝をつき、苦しそうな表情を浮かべる。
――ユーサンの魔力が尽きた!
――モカは余裕じゃねぇか、ほとんど魔力が減っていないぞ!
――やっぱり優勝はモカ・フローティンだ!
観客も試合が終わりに近づいていることを薄々感じていた。そのときだった。
モカはマチョダの様子がおかしいことに気がついた。声をかけようとしたその前に、マチョダの両膝がゆっくりと床についた。そしてそのまま前のめりに倒れ込んだ。
「マ……マチョダさん!」
モカがマチョダのもとに駆け寄る。クマチョ(ブラック・マチョダの略)は笑顔を――白い歯を見せたまま、目を閉じて気を失っていた。
ユーサンも顔をしかめながら、目の前でブッチョ(ブラック・マチョダの略)が崩れ落ちたのを見ていた。イフリートは何もしていない。というか、もうイフリートも何もできない。何が起きたのかわからずに、ただ目の前の状況を理解できずにいた。
「し……試合終了! 勝者、ユーサン・ソウンド!」
モカはまったくもってピンピンしている。しかし、マチョダの様子がおかしいことに気づいた審判であるクワット先生が、慌てて試合を止めたのであった。
会場は歓声が上がるわけでなく、ただただ不測の事態にざわついていたのであった。
☆★☆
魔法使いは召喚獣を介してのみ、魔法を使うことができる。火の魔法を使うには、火属性を持った召喚獣の力を借りる必要があるのだ。そして魔力が尽きれば召喚獣は消えてしまうし、術者が気絶したり、召喚獣自体が一定量のダメージを受けてしまうと同じく消えてしまう。魔力が残っていれば再召喚すればよいのだが……。
――あいつは……マチョダはモカの魔力を消費せずに魔法を使っていた……。
(解説:マチョダはそもそも魔法なんて使っていない。)これは一体何を意味するのだ。モカがマチョダを召喚したことは間違いない。しかし、モカは四六時中マチョダを召喚し、共に行動をしていた。「マチョダさんは召喚し続けていても魔力は消費しないから大丈夫なの!」あの言葉に嘘はないのだろう。とすれば……。
試合後、ユーサンは勝利の喜びに浸ることはなく、ただ先ほどの戦いのことを――マチョダのことを考えていた。イフリートの魔法を打ち消すほどの魔法を使い、挙げ句の果てには校長の作った魔法障壁にヒビを入れた。上級魔法よりも強力な魔法を連発するあいつは一体何者なのか。
学園の救護室のベッドに横たわるマチョダに、先生たちが数名がかりで回復魔法をかけ続けている。マチョダの横には心配そうに見守るモカの姿もあった。モカもはじめは一緒に回復魔法を使うと申し出たのだが、その不安定な精神状態では回復魔法の効果が発揮されないと断られたのであった。
ユーサンは救護室に入らず、入り口の壁にもたれかかり、モカに気づかれないように中の様子を伺っていた。
「う……うぅ」
回復魔法をかけ続けていると、マチョダが意識を取り戻した。
「マチョダさん!」
モカが涙目で話しかけると、マチョダがゆっくりと目を開けてモカを見つめた。初めは焦点があっていなかったが、彼女の姿を確認すると口角が上がる。
そして、最後の力を振り絞って……言ったのだ。
「に……肉が食べたい……」
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