第17話 マチョダ覚醒
――あいつ、魔法をかき消しやがった!
――そんなの、学校で習わないぞ! さすが天才魔法使いモカ・フローティンの召喚獣!
――これにはユーサンも黙っちゃいないんじゃないか?
自慢の魔法が効かなかったことに対し、若干の苛立ちを覚えながらユーサンが叫ぶ。
「ならばこれでどうだ!」
ユーサンが続いて魔法を唱えると、イフリートが闘技場を埋め尽くすほどの巨大な炎の渦を作り出した。先ほどカロ・リーを倒した時と同じ技だ。しかもそこから、指を曲げて複雑なポーズをとると、炎の渦は中心に集まり始め、炎の竜巻に形を変えた。
「この技を見せることになるとは……くらえ、ファイアトルネード!」
石造りの舞台をえぐりとるようにしながら、炎の竜巻がマチョダを襲う。避けられるようなものではない。マチョダはそう判断して、またしてもポーズを取った。
「ダブルバイセップスッ!(*1)」
当然ながら何も起こらず、マチョダは炎の渦に飲み込まれた。
「マチョダさん!」
モカは何もできなかった。本来なら、召喚獣に指示を出し、魔法を使わせたいところだが、マチョダはちゃんと魔法が使えない。今はマチョダに全てを任せるしかないのだ。
「おおおおお!」
炎の渦の中からマチョダの声が聞こえる。全てを燃やし尽くさんとする炎の竜巻が消えると、そこには真っ黒になったマチョダの姿があったのだった。
「いやああぁぁぁ! マチョダさん!」
モカは涙を流して崩れ落ちた。マチョダはダブルバイセップスのポーズのまま、動かない。真っ黒な体に、ニコッと笑った口に見える白い歯が映えていた。
――これは勝負ありだろう!
――ユーサンのイフリートがやっぱり強かったか。
――モカの召喚獣も一発目の炎はかき消したから、なかなかだったぞ。
――ナイスファイト! もっと見たかったけど、いい試合だった!
観客の誰もが、ユーサンの勝利を確信した。
しかし、審判であるクワット先生はユーサンの勝利を告げることなく、静かに戦況を見守っている。
「先生! 俺の勝ちでしょう、早くコールを!」
ユーサンがクワット先生の方を向いてそう言うが、彼女の目は真っ直ぐにマチョダを見て動かない。なぜだ? なぜ消えないのだ――? とユーサンはマチョダの方を見る。現時点で、彼が使用できる唯一の上級魔法ファイアトルネードを受けて、マチョダは確かに先ほどのポージング姿のまま、消し炭のようになっている。――まさか!?
「ふおおおおお!」
マチョダが大声を出すと体が震え、全身を覆っていたすすが舞い、床に落ちた。
「!?」
モカもその声に驚いて、顔をくしゃくしゃにしながらマチョダの方を見る。
「ちょっと熱くてびっくりしたが……タンニングマシン(*2)のようだった!」
パンパン! と体を軽く叩いて、マチョダは黒くなった自分の体をまじまじと見つめてみる。
「ほう、こりゃいい具合に筋肉が黒光りしているぞ! さしずめ、ブラック・マチョダといったところかな」
――き……効いていない! ユーサンの炎が全く効いていないぞ!
――何者なんだあいつは!
――すげぇ、すげぇよ!
驚きと喜びと感動が入り混じった声が観客席から聞こえてくる。マチョダはそれに手を上げて笑顔で応える。そして、一つ名案が浮かんだのだった。
――なんとなく理解したんだが……俺は魔法じゃなくて物理で攻撃したほうがいいのかもしれないな。
「モカ! この試合は魔法を使わずに直接攻撃するのはありなのか?」
「ふぇっ? え、ええ。召喚獣の攻撃自体が魔力を伴ったものですから……しかし、そんなの見たことも聞いたこともありませんよ!」
「よしわかった。このブラック・マチョダ、ちょっとやってみよう」
ブラマチョ(ブラック・マチョダの略)は黒光りする両手でパン! と頬を叩き、気合を入れてから、「ふん!」とイフリートに向かって右手でパンチをした。
シュン!
風を切る音が聞こえたかと思うと、イフリートの右腕が一瞬でなくなった。さらに、その後方にある観客席――クランチ校長が魔法で作り出した防御壁にヒビが入った。
「……は?」
ユーサンが口をあんぐりと開けて、右腕を失ったイフリートと背後の観客席を交互に見やる。観客席の一番下――二人の戦いを一番近くで見ていたクランチ校長は、観客に気づかれないように、慌てて魔法を唱えて、防御壁を修復する。
「な……何をしやがった!」
ユーサンが声を震わせながら魔力を注ぎ込み、イフリートの右腕を元に戻す。
「何って……魔法さ!」
ブラマチョ(ブラック・マチョダの略)は白い歯を見せて、ポーズを取った。
(*1)両腕を上方向に曲げて力こぶをつくるポーズ。ザ・マッチョ! って感じのやつ。
(*2)日焼けマシンのこと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます