第14話 模擬戦第2試合 ユーサン対カロ
序盤はカロが優勢だった。
アースドラゴンがその巨体を生かして、次々と攻撃をしかける。対するイフリートは炎の壁を作って攻撃を防ぐので手一杯だった。
――ランク差を感じないアースドラゴンの強さよ!
――何よりでかい! 竜の召喚獣も非常に魅力的だな!
観衆も予想外の展開に、手に汗を握って二人に声援を送っていた。
しばらくして攻撃が一段落し、ユーサンとカロが向かい合う。そこで、ユーサンが話しかけた。
「一つ尋ねるが、お前は昨日演習場に行ったか?」
「演習場? いいや。それがどうした」
「いや……ならいい」
――昨日の巨岩にできた拳の痕は、やはりモカ・フローティンの召喚獣がつけたものなのだろう。あいつが陰属性だというのもハッタリか……。もしかしたら複数属性持ちなのかもしれないな。
ユーサンは戦いの最中にもかかわらず、次の試合のこと――モカの召喚獣であるマチョダのことを考えていた。
「おいおい、よそ見していると試合が終わっちまうぞ!」
カロが魔法を唱えると、巨大な岩石が空中に現れた。そしてアースドラゴンの咆哮とともに、岩石がすさまじいスピードでユーサンに襲いかかる。
「!」
ユーサンは避ける暇もなく、それをまともに受けてしまった。
ドゴォン! という音が響き、土煙が舞台上にたちこめる。
――これは決まった!
観客のほぼ全員がそう思った。が、ユーサンに直撃したはずの岩石が、突然真っ赤に色を変え、どろりと溶けた。カロも何が起こったのか分からずにそちらを見つめている。
岩石が完全に溶けきると、そこにはユーサンがイフリートを従え、自分の周りに熱の結界を張っていたことがわかったのだった。
「なん……だと」
勝負を決めに行ったカロだったが、その魔法が破られたことに対して、少なからずショックを受けていた。そんなカロを見て、ユーサンはふっと笑う。
「カロよ、一つ教えておいてやろう。俺のイフリートとお前のアースドラゴン……強さ的にはほぼ変わらん。ランクなんてものも、鑑定魔法で付けられたただの指標にすぎん」
観衆の中にいたクワット先生が、ユーサンの今の言葉にピクリと反応する。
「では、俺とお前の強さの差がなんなのか……わかるか?」
ユーサンの体から赤く激しい魔力が放出される。その後ろではイフリートがさらに大きく燃え上がり、力を蓄えていた。
「術者の魔力量の差だよ。俺とお前じゃ、そもそもの魔力量が違うんだ」
ユーサンとイフリートを中心にして、炎の柱がごうごうと唸りを上げる。それは竜巻のように周囲の空気を巻き込みながらだんだんと大きくなる。そして30メートル四方の舞台を全て飲み込まんとしていた。
「くっ! ならばこの攻撃を防いでみせるッ!」
カロがアースドラゴンとともに、自身の目の前に大きな岩の壁をつくり、炎を防ごうとする。しかし魔法で生成したばかりの岩壁が一瞬にして赤くなり、どろどろに溶けていく。そしてあっという間に、炎の渦に飲み込まれた。
「勝者、ユーサン・ソウンド!」
会場全体に大きくアナウンスが鳴り響き、ユーサンの炎の魔法が一瞬にして消えてしまった。「戦う卒業生同士が命を落とすことがないように、一定のダメージを受けると全ての魔法が無効化されて試合が終了するようにもなっている」というルールが発動し、試合は強制的に終了したのだった。
ユーサンの圧倒的な強さに、会場は一度しんと静まりかえり、それから「わあっ!」と大歓声に変わった。
――ユーサン強すぎるだろ! 俺も炎の召喚獣がいい!
――次はモカ対ユーサン! 熱い、熱すぎるぞ!
――学年一位と二位の対戦……とんでもないことになりそうだ!
試合が終わり、二人が退場してからしばらく経っても、会場の興奮は覚めなかった。
そんなユーサン対カロの試合を、モカとマチョダは選手入場口で途中から見ていた。あまりの迫力に声を失っていたが、
「今わかったぞ……」
と、マチョダが目を大きく開いて、ポツリとつぶやいた。
「何をですか、マチョダさん?」
もしかして、魔法の出し方がわかったとか? モカが嬉しそうに尋ねると、想定外の答えがマチョダから返ってきた。
「模擬戦って、魔法を使った戦いだったんだな」
モカは盛大にズッコケた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます