第15話 入場前の昂ぶり

 しばらくして。


 第3試合は、スリムゥ・ディエット(召喚獣:フロスティ 属性:水A+)対カロ・リー(召喚獣:アースドラゴン 属性:土AA+)。前の試合で負けてしまった者同士の戦いだったが、ランク差はもちろんのこと属性の相性から、カロが圧倒した。

 これには観客席からも同情の声が多く上がった。

 

 ――今回は、流石に水属性はかわいそうだった。相性が悪すぎる。

 ――仮に風属性だったとしても、勝てたかどうかわからないぞ。それくらい実力もあった。

 ――スリムゥは二連敗。プライドの高い彼女のことだから、この後荒れるぞ。


「ねぇねぇお母さん、相性って何?」

 観客席にいる小さい子供が、他の観客の言葉を聞き取って、母親に尋ねた。


「この世には、火、水、土、風、陰、陽の6つの属性があるのは知ってるでしょ。そして、火は風に強い。風は土に強い。土は水に強い。水は火に強い。こんなふうにして、得意な属性や苦手とする属性があるの。それが相性って言うのよ」

「へぇ、じゃあ陰と陽にも相性はあるの?」

「陰と陽はお互いに相性が悪いの。だけど残り4つの属性とは得意不得意がないのよ」


「……じゃあ僕は火がいいなぁ、だってかっこいいんだもん。ユーサンのお兄ちゃん」

「そうね、あんなに強い魔力をもっているんですもんね。あなたもたくさん勉強してユーサンみたいになれるといいわね」

「うん!」



 さあ、いよいよ最終戦。まもなく第4試合が始まる。


 それに向けて会場の雰囲気も再び熱気を取り戻してきた。なにせ、今年の卒業生の中で、成績第一位と第二位の模擬戦なのだ。最高の戦いを見せてくれるに違いないと、否応なしに期待は高まっていく。

 

 選手入場口。

 

 そこに、モカとマチョダ、そして隣にはユーサンが立ち、名前を呼ばれるのを待っていた。


「どうしてお前が隣にいるんだ!」


 ユーサンはモカと横並びになれると内心喜んでいたのに、隣にいるのはまさかのマッチョ。暑苦しい46歳のおじさんの隣を、誰が喜ぼうか。苛立ちながらユーサンがモカに言う。


「モカ・フローティン! 試合前から召喚獣を出すんじゃない! 魔力を無駄に消費して、俺にわざと負けるつもりか!」

 それに対して、モカも言い返す。

「マチョダさんは召喚し続けていても魔力は消費しないから大丈夫なの! それにわざと負けるつもりなんてないから! っていうか、マチョダさんが隣にいて私をユーサンから守ってくれるから逆に召喚し続けていた方がいいわ!」


 ――マチョダさんが隣にいて私を守ってくれる……?


 ガン! と頭を強く殴られたような衝撃を受けて、ユーサンはガックリと肩を落とした。――まさかこの人間……46歳のおじさんのくせにモカをたぶらかしやがったのか? 許さん、許さんぞ!


 勝手な妄想が暴走して、キッ! とユーサンはマチョダを睨みつけた。睨まれたマチョダは、「おっ、俺の筋肉に嫉妬しているのか?」とニコッと笑い、胸を張って胸筋をアピールしてみる。


「俺は! 絶対にお前を倒す!」

 ユーサンはマチョダを指さした。

「俺の太ももは太いぜ、ユーサン君! はたして倒せるかな?」

 と大人の余裕を見せるマチョダだったが、さすがに今回は彼も魔法を使った戦いが始まると言うことを理解していた。 


 ――さっきの試合で俺が魔法を使ったというが……実感がないんだよなぁ。次の試合、大丈夫かな……。

 スリムゥとの模擬戦の際はボディビル勝負とばかり思っていたから緊張していなかったマチョダだったが、今回は魔法勝負ということでかなり力が入っていた。



「選手、入場!」



 闘技場全体にアナウンスが響く。ワアアアアァッ! と会場の盛り上がりも最高潮を迎えていた。


「絶対に勝つ!」

 ユーサンは大声で自分自身に気合を入れてから、闘技場の中心へと歩みを進めた。そして、誰にも聞こえないような声で、自分に言い聞かせるように言った。

「そしてモカ・フローティンに……好きだと言わせる!」

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