第11話 Mランクの精霊
卒業式はつつがなく終わった。そして本日の大注目イベント、卒業生による模擬戦は大広間で行われることになった。
大広間は、先日モカ・フローティンが召喚魔法を行った広い場所であるが、今回は模擬戦用に、古代の闘技場を模した観客席が作られていた。作られた、といっても実際に工事が行われたわけではなく、クランチ校長の魔法によって作り出されたものである。闘技場の中心には30メートル四方の石造りの舞台があり、そこで卒業生たちが自身の召喚獣とともに戦うのだ。
「後輩たちのモチベーションアップにつながる」と以前クワット先生が言っていた通り、この模擬戦は魔法学園オリンピアに通う全生徒と全職員が観戦する。卒業生が従える召喚獣を見て、後輩たちは「僕もあんなかっこいい召喚獣を召喚したい!」とか、「もっと努力して卒業生みたいな魔法が使えるようになりたい!」とやる気を高めるのだ。なので、卒業生としても召喚獣を用いて本気でぶつかり合う。
当然だが、観客席には攻撃が飛んでこないように、クランチ校長による防御魔法が貼られているし、戦う卒業生同士も命を落とすことがないように、一定のダメージを受けると全ての魔法が無効化されて試合が終了するようにもなっている。
今年度の卒業生で模擬戦に参加を表明したものは4名。観客は参加する卒業生のデータを見ながら、試合開始を待っていた。
◇◆◇
第1試合
モカ・フローティン(召喚獣:マチョダ・ゲンキ 属性:筋肉M)
スリムゥ・ディエット(召喚獣:フロスティ 属性:水A+)
第2試合
ユーサン・ソウンド(召喚獣:イフリート 属性:火AAA)
カロ・リー(召喚獣:アースドラゴン 属性:土AA+)
第3試合
第1、第2試合の敗者
第4試合
第1、第2試合の勝者
◇◆◇
――今年は天才魔法使い、モカの優勝間違いなしだろう。
――でも召喚獣がハズレだって噂だぜ。魔力ゼロの人間だと。っていうか、属性筋肉ってなんだよ、コレ?
――ユーサンは火のAAAランクを召喚したのか、こっちが優勝候補じゃね?
――むしろ第2試合が事実上の決勝戦だろ……
――ユーサンのAAAもすごいが、カロもAA+もなかなかだな!
あちこちから下馬評が聞こえてくる。
基本的に、魔法学園でしっかり学んだ学生であれば、Bランクの精霊を召喚するのが、まあ普通である。Aランクの精霊を召喚できたら万々歳なのだ。それなのに今年はユーサン・ソウンドのAAAランクをはじめとして、カロのAA+やスリムゥのA+と優秀な魔法使いが揃っている。今年は卒業生の成績上位者がランクの高い召喚獣を従えたことから、多くの卒業生が模擬戦等への参加を辞退してしまったのだった。
観衆は、これまでにない素晴らしい模擬戦になるだろうと、試合開始前から興奮を隠しきれない様子だった。
「そりゃ火AAAのイフリートがいたら、普通参加したくないよなぁ。並大抵の召喚獣じゃ手も足も出ないもん」
「っていうか、第2試合に比べたら、第1試合は見劣りしちゃうな。A+と……M? Mランクってなんだよ、下の下もいいところじゃねぇの?」
女子生徒三人組のうちの一人、リーン・ビルダも観客席から友人を応援していた。彼女の召喚獣はシルフ(属性:風AA)だが、回復魔法や補助魔法に特化しているため、模擬戦には参加しなかったのだ。
360度囲まれた闘技場は、超満員だった。生徒たちはもちろん、一般客に加えて、王宮からスカウトを兼ねた来賓まで。準備が整い、卒業生4人が中央に設置されている石畳の上へ集まった。
「いよいよ始まりますね」
モカが隣に立っているマチョダに話しかける。その声が若干震えているのを、マチョダは聞き逃さなかった。
「モカ、心配するな。俺はこのような大舞台にこれまでも何度か立ったことがある」
「え、マチョダさん本当に?」
「ああ、隣には俺と同じような、いや俺以上のマッチョがたくさんいてな……緊張したのを覚えているよ。そのときに比べたら、今は気持ちに余裕があるね」
「さすがマチョダさん! 私は……まだまだです」
「はっはっは! モカも一緒にスクワットをするか? 筋肉がつくぞ!」
「……遠慮しておきます」
マチョダは未だに、これからボディビル大会のようなものが行われると思っている。少しでも筋肉をパンプアップさせようと、いい姿勢を保ちながら、少しだけかかとを浮かせて立っていた。
モカはマチョダと談笑して気持ちが落ち着いたようだった。もしかして、マチョダさん……私の緊張をほぐすためにわざとあんなことを……? モカはさりげないマチョダの優しさに、思わず笑みを浮かべてしまうのだった。
「ところでマチョダさん……データに記載されていたMランクって一体……? 鑑定結果でクワット先生から何か言われたのですか?」
「いや……さっき係の人から『ランクはなんですか?』って聞かれたから、とりあえずMって言っておいたんだ」
「M? Mってどういう意味ですか?」
「もちろん……『マッチョ』のMだ!」
さあ、いよいよ第1試合が始まる。
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