第9話 広場で魔法は厳禁です
「絶対に許さないんだから、あの人間!」
「大回廊でいきなりメテオストライクとかありえないっしょ!」
スリムゥ、レンダ、リーンの三人は、モカとマチョダに気づかれないように距離をとって歩いている。そして背後から魔法を使ってマチョダに仕返しをしようと目論んでいるのだった。
「メテオ使うってことは土属性でしょ……だったらこっちは風属性で攻撃すればいいのよ! レンダ、あんたの召喚獣は風属性だったよね?」
「うん、ウインディ。風の精霊」
「ちょっと呼び出して、あの人間に一発仕返ししなさい!」
よーし、とレンダは風の精霊ウインディを呼び出した。彼女の背後に、緑色の鳥の姿をした精霊が現れた。「ウインディ、あの前にいる人間にかるーく風をぶつけちゃおっか!」と、レンダが右手を上げたときだった。
「やめとけ」
ぐっと誰かがレンダの右手をつかんだ。「何すんの……!」
スリムゥ、レンダ、リーンが振り返るとそこには学園第二位の実力者、ユーサン・ソウンドがいたのだった。
「ユーサン!」
スリムゥとレンダの目がハートになる。しかしそんなことに反応せず、ユーサンがレンダの腕を下ろす。
「こんな学園のど真ん中で精霊を呼び出して魔法を撃つ奴があるか。卒業前に退学処分になりたいのなら話は別だが」
「だってぇ、モカだってあの人間を使って私たちにメテオストライクぶっ放してきたんだからぁ!」
スリムゥがいつもよりも少し高めで、甘えたような声を出す。それに合わせてレンダも続く。
「そうそう、しかも大回廊のど真ん中で!」
――メテオストライクだと? 土属性の上級魔法……教師レベルでも上級魔法を使えるものはごくわずかだというのに……モカはその域まで達しているというのか?
ユーサンは冷静を装いつつも、若干モカの潜在能力の高さに悔しさを覚える。
「……それはモカが校長室に入る前のことか?」
「そうよ! しかも私たちのことを無視して!」
「ふふっ、だって二人とも白目剥いて気絶していたもんね!」
「うっさい、リーン! あんたは黙ってなさい!」
ぎゃあぎゃあ言い合う三人をよそに、ユーサンは大回廊のある方を振り返る。……特に残留魔力も感じない。仮にメテオストライクほどの強力な魔法を使ったのなら、いくらか魔力の跡が残っているはずだし、大回廊自体が破壊されていてもおかしくはない。
――つまり、こいつらが感じたメテオストライクは偽物。
はっ、とそこで彼は気づいてしまったのだ。
――そうか、幻惑魔法! あの人間は陰属性の使い手だったのか! それなら全て辻褄が合う。幻惑魔法で全ての情報を隠していたのだ。魔力ゼロ人間、それもきっと幻惑魔法によってカモフラージュした結果なのだろう……だが一体何のために?
ユーサンは整った顔立ちを崩さないように努めながらも、一人でいろいろ妄想を膨らませていた。
――まさか、モカが召喚したのはSクラスの精霊か! 俺たちにそれが知られたらまずいと、召喚した時点で幻惑魔法を使って教師をも欺いていたというのか! Sクラスの召喚獣を呼び出したとなれば、間違いなく王宮魔術師として引き抜かれてしまう。冒険者を目指していた彼女はそれを阻止するために、あの一瞬で判断したのだ……。
モカ・フローティンめ……なかなかの策士じゃないか。しかし、この俺が……火属性のAAAランク精霊、イフリートを召喚したこのユーサン・ソウンドが卒業式の模擬戦でその全てを暴き、Sクラスの召喚獣に勝利を収めてみせようではないか!
「私の召喚獣の秘密を暴くなんて……さすがユーサンね。そしてSクラスの召喚獣にも勝つなんて……規格外だわ……好き」
「俺もだよ、モカ。もしよかったら、二人で一緒に冒険者として行動しないか?」
「……嬉しい。ずっと一緒にいてくれる?」
「もちろんだよ、俺の愛しいモカ……」
ユーサンは、勝手に一人で盛り上がって興奮していた。
「ちょっと……ユーサン?」
「はっ!」
いつの間にかわちゃわちゃしていたスリムゥ、レンダ、リーンの三人が、変な目でユーサンを見つめていた。そして、気がつけばモカとマチョダは宿舎の中に入ってしまったのだろう。二人の姿はどこにも見当たらなかった。
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