第8話 ライバルの登場
「卒業式というのはいつなんだ?」
「一週間後です。それまでいろいろと試したいことがあるんです。お付き合いいただけますか?」
「もちろんだ。筋トレの時間以外ならいつでも構わん」
「ありがとうございます!」
モカとマチョダが満足げな表情で校長室を後にすると、目の前に腕組みをした一人の男子生徒が立っていた。
「進路は決まったか、モカ・フローティン? 魔力ゼロの人間を召喚したと聞いたが……まさか冒険者になる夢を諦めたりはしていないよな?」
茶髪をオールバックにして後ろで一つに結んでいる。そしてなかなか顔立ちも整っている。いかにもイケメンの雰囲気を漂わせた男子生徒がモカに話しかけた。
「もちろんよ。それにマチョダさんは魔力ゼロじゃないわ。私たちでは測ることのできない物凄いエネルギーを持っているのよ」
男子生徒はそれを聞いて、マチョダのことをじっと見つめた。魔法使いであれば、相手を見ただけで、大体の魔力を把握することができる。細かい数値やスキルなどを調べるためには、鑑定魔法などの専用の魔法が必要になるのだが。
彼は足先から頭の上まで一通り視線を動かすと、ふっと笑った。
「残念だが、この人間から魔力は微塵も感じないな。まさか君ともあろうものが最後の最後で召喚魔法を失敗するとはな……失望したぞ、モカ・フローティン!」
「なんとでも言うがいいわ。卒業式、あなたも模擬戦に出るんでしょ? そこで全てはっきりするわ」
モカの真っ直ぐな力強い目線に圧を感じた男子生徒は、「楽しみにしておくよ!」と
「……今のは?」彼の姿が見えなくなってからマチョダが尋ねた。
「ユーサン・ソウンド、同級生です。学園で一、二を争う魔力の持ち主で、炎の魔法を得意としています。ま、悪い人ではないんですけどね」
「ライバル的な存在といった感じかな?」
「……うーん、そうですね。私はあんまりそう思ったことはないんですけど……」
――先ほどクワット先生から天才魔法使いと呼ばれていたし、今の男子生徒や女子生徒三人組の態度から察するに……この子は相当デキるんだろうな。しかもそれを鼻にかけることもない。卒業して冒険者になりたいといっていたが……大したものだ。俺も、負けてはいられないな!
マチョダはそんなことを思って、腹筋に力を入れながら歩くのだった。
大回廊を横道に入ると、そこには緑の芝生がまぶしい広場があった。道はきれいに舗装されており、ところどころにテーブルと椅子が置かれている。天気も良いからか、そこで食事を楽しんでいる生徒たちもいた。
モカは広場をつっきって、奥にある宿舎のような建物へと進んでいく。マチョダももちろんそれについていくのだが、それを見て周囲の生徒たちがざわつく。どうやら二人が並んで歩いているのが異様な光景に映るようだった。
――天才魔法使いの召喚獣は人間なんだってよ!
――ユーサンはイフリートを召喚したらしいぜ! これはついに順位逆転か?
――っていうか、モカは召喚獣をずっと出しっぱなしにしておくつもりなのか?
「そういえば」マチョダがふと声を出した。
「どうかしましたか?」モカが振り返る。
「さっきのユーサンとか、女子生徒三人組……も召喚魔法を使ったんだよな?」
「ええ、順番としては私が最後だったので。何を召喚したのかは聞いていませんが、それぞれ召喚獣がいるはずです」
「だけどその召喚獣とやらの姿が見えなかったんだが……もしかして俺だけが見えていないのか?」
「召喚獣は呼び出すだけで魔力を消費してしまいますから……普段は姿を消していますね。ただ、マチョダさんは……」
少し言葉を選びながら、モカが続ける。
「人間だから……でしょうか。今も私が召喚している状態なんですが、私の魔力は減らないんです。不思議ですね!」
モカの魔力がすごいのか、それとも自分が精霊の類ではないからなのかマチョダはわからなかった。ただ、姿を消されたとしても……その間、筋トレはできるのか? それが彼には心配だった。
談笑しながら宿舎へ進むモカとマチョダの背後から、女子生徒三人組――スリムゥとレンダとリーン――が、先程の仕返しをしてやろうと近づいていた。
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