第3話 召喚魔法、失敗

「魔力……ゼロ……」


 モカ・フローティンが、クワット先生の言葉を復唱する。自分の召喚魔法は失敗してしまったのかと、力が抜けて膝から崩れ落ち、放心状態になった。


 ――魔力ゼロだってよ……。ハズレ召喚もいいところだ!

 ――スキルもないんだろ……全くの役立たずじゃないか!

 ――天才魔法使いが聞いて呆れるな!


 周囲の生徒たちがため息をついたり、残念そうな顔をしたりして、大広間から去っていく。ここ、魔法学園オリンピアの長い歴史の中で、歴代最高の成績を修め続けてきた天才魔法使い、モカ・フローティン。卒業前の恒例行事となっている召喚魔法を一目見ようと、生徒も先生も期待していたのだが……。結果はご覧の通り。スキルもない、魔力ゼロのただのハズレ・マッチョを召喚してしまったのだった。


「おーっほっほっほ! さすが天才魔法使いモカ・フローティン! 最後の最後で……ぶほっ、最高だわぁ、あなたのそんな顔が拝めるなんて!」


 モカの背後に、先ほどの三人組の女生徒、スリムゥ、レンダ、リーンが嬉しそうな表情をして立っていた。心ここにあらずのモカは何も返事をすることができず、ただその場にうずくまるばかりだった。


「いい気味よ! これまで散々私たちのことを馬鹿にしてきたツケが今回ってきたのよ!」

「……ま、実際のところ私たちが勝手に馬鹿にされたと思い込んでいるだけなんだけどね」

「モカは私たちを馬鹿になんか……してないよね?」

「うっさいわね、レンダ、リーン! いいのよ、このくらい言ってやっても!」


 スリムゥは腕組みをして、哀れなモカを見つめながら言った。


「私たちは自分の召喚獣と一緒に、もっともーっと魔力を高めながら冒険者として活躍するわ! ……まぁ、あなたはその魔力ゼロ人間と一緒にせいぜいがんばりなさい! そうね、町の警備員ぐらいがお似合いかしら? あ、魔力ゼロだからそれもできないのか、あはははは!」

「ゼロ人間、何かの役に立つといいね」


 スリムゥとレンダは自分が言いたいことを言い終えると、満足げに大広間を後にした。リーンはモカに何か言いたげだったが、二人の後に続いた。


「どうして……私は魔力ゼロの人間を召喚してしまったの……魔法陣も詠唱も……何も間違っていなかったはずなのに」


 モカは召喚魔法が失敗してしまったことの原因を、頭の中で考えた。しかし考えれば考えるほど、原因がわからなくなる。召喚魔法によって呼び出される召喚獣は、術者の魔力によって決まる。学園一の魔力量を誇るモカなら、竜王バハムートや闘神アスラなどの最高クラスの召喚獣を呼び出せるはずだったのだが……。


「モカ・フローティン。召喚獣が目覚めたら、一緒に校長室まで来なさい」


 魔法学園オリンピアの校長であるクランチ先生が優しい声で、そうモカに呼びかけた。モカは消えそうな声で「……はい」と呟いた。


 天才魔法使いの召喚魔法失敗に、ほぼ全ての生徒や先生が落胆の声をあげる中、校長のクランチ先生だけは密かに喜びに震え上がっていた。

 ――まさか人間を召喚するほどの天才だったとは……! みなは知らんのだ。人間を……しかもあれほどの筋肉を持つ者を召喚することがどれほど難しいことなのか……これは、時代が動くぞ!


 このモカが行った召喚魔法が引き金となり、世界が大きく変わっていくだなんて、モカも、もちろん町田マチョダもそんなこと知る由もなかった。

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