第2話 召喚獣の鑑定結果

 黒髪のスポーツ刈り。白いタンクトップにデニムのショートパンツ。そしてマッチョ。

 目の前に現れた人間の男に、全員が息を飲む。


 ――どうして人間なんかが召喚されたんだ? 何かの間違いなのでは?

 ――いや、でも確かに魔法陣は虹色に輝いた。きっとレアスキルを複数持っているに違いない。


 ざわざわとし始める生徒と先生たち。そんな中、モカに近づく三人の女子生徒の姿があった。


「それがあなたの召喚獣なの? モカ・フローティン! 人間を召喚するなんて、あなた……ププッ! 天才魔法使いの名が聞いて呆れるわ!」

「ちょっとやめなよ、スリムゥ。かわいそうじゃない。それにしても……ぷっ、人間! 精霊じゃなくて、竜でもなくて、人間!」

「……だめだよ、二人とも。馬鹿にしたら……」


 スリムゥと呼ばれたつり目の女の子が、哀れみの目で――でも口元は嬉しさを隠せないようでにこりとしながらモカを見つめていた。スリムゥの後ろにいる二人、一人は彼女と同様に嘲笑うような表情をして、もう一人はおどおどとしながらできるだけ姿を見せないようにして立っていた。


「スリムゥ、レンダ、リーン、下がりなさい。まだ鑑定が終わっていませんよ!」


 先生の一人と思われる女性が、モカに近づく三人に声をかける。「はーい! クワット先生、早くその素晴らしい召喚獣の能力を鑑定してくださーい!」スリムゥが嫌味ったらしく言って数歩下がる。


 召喚されたマッチョは目を閉じて、直立不動の姿勢で立っている。召喚後すぐはまだ眠ったままの状態で、鑑定が終わってからようやく覚醒するのだ。鑑定といっても細かい能力値が判明するわけではなく、名前や属性、スキル、魔力量程度の簡単なものしかわからないのだが。


「それでは鑑定を始めます。モカ・フローティン、少し下がりなさい」

「はっ、はい!」


 呆然としていたモカは先生の声ではっと我に返り、マッチョから少し距離を置く。先生が両手を広げて魔法の詠唱を開始すると、マッチョの前にステータスボードが現れた。それをクワット先生が読み上げていく。


「名前は……マチョダ? 人間の言葉は国によって違うから解読が難しくって……ま、間違っていないでしょ。マチョダ・ゲンキ……年齢は46歳」

 ――マチョダ……言いにくい名前だな。

 ――よ、よんじゅうろく……おっさんだろ……?

 ――あんまり成長が望めないんじゃないか?

 先生の鑑定に、周囲がざわざわと反応する。


「属性は……筋肉」

 ――聞いたことないぞ!

 ――属性って、火水土風陰陽の六つじゃないの? 筋肉って何? そもそも属性なの?


 いろいろな声が聞こえてくるが、モカはじっと黙って先生の鑑定を聞いている。大丈夫、私は天才魔法使い。最後の卒業試験で召喚魔法に失敗するはずがない。そう信じている目だった。


「スキル……なし」

 ――なし? 魔法陣が虹色に輝いたのに?

 ――あの天才、モカ・フローティンの召喚魔法だろ? そんなことってあるのか!


「魔力は……えぇ?」

 先生の驚きに、生徒たちがざわつく。

 ――きっとスキルはないけど、とんでもない魔力を持っているに違いない。

 ――いつもは驚かない先生があれだけの声をあげるんだもの! 桁が違うのよ!

 周囲の期待が高まるが、次にクワット先生から発せられた言葉は信じられないものだった。


「魔力……ゼロよ」

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