第010食 滑り込みの焼きりんご:共栄堂(東京・神保町):名店会その2

 新年度の始まりを慌ただしく過ごしているうちに瞬く間に時は流れゆき、『東京カレー屋名店会』の「5店盛り」をそれぞれの提供店で直接食べる、という企画を発想してから一か月が経過してしまった。


 再確認になるが、二〇二四年三月中旬における、名店会の五店盛りは、「共栄堂 ポークカレー」「東京スリランカ チキンカレー」「エチオピア チキン豆カレー」「エチオピア ビーフカレー」「デリー上野 カシミールカレー」だったのだが、いざ、そのどこかに行こう、と欲した場合、果たしてどの店から行き始めるべきか悩んでしまう。


 そんな四月中旬の木曜日の夕方、カレーを食べてから帰ろう、と考えた書き手は、この日は、田園都市線・半蔵門線沿線のとある駅付近で用事があったので、出先から乗り換えせずに一本で行ける、という理由もあって、半蔵門線の神保町駅で下車すると、その足で、駅から数分の所に位置している「共栄堂」に赴き、ここから〈名店会・五店直接訪問〉企画を始める事にしたのである。


 書き手が共栄堂を訪れる時、何カレーを食べるかで迷う事も多々ある。というのも、共栄堂のスマトラカレーは、ただ単に、同じカレーソースに異なる具材を入れただけの品ではなく、ポーク、ビーフ、チキン、エビ、タンといった具材ごとに調理法を変えているからだ。


 公式サイトを参照してみると、例えば「エビカレー」は、「エビを白ワイン、バターでフランベすることによって旨味が凝縮され、辛さの中にエビの香りが漂うカレー」という説明が為されている。

 とまれ、今回は、〈名店会〉の五店盛りに入っている品という〈縛りプレイ〉をしていたため、選ぶべき品は「ポークカレー」で、ポークに関しては、「やわらかく煮込んだ豚肉と野菜のブイヨンを合わせることによって、豚肉と野菜の甘みが口の中で広がります」という説明が為されている。

 今回はポーク一択だけど、次回はエビにしようかな、いや、最も高いタンにしようかな、などと考えながら、書き手は、駅から共栄堂に急ぎ向かった。

 そして、店の入口に続く下り階段の前まできて、そこに置かれていた茶色と緑の看板の方にチラッと視線を向けた際に、突然、足が止まってしまったのである。


 看板の隣に在ったイーゼルに、期間限定の「焼きりんご」が、四月中旬現在において未だ提供されている旨が書かれた貼り紙があったからだ。


 共栄堂では、秋から「冬限定」で「焼きりんご」が提供されている。

 たしかに、カレーと林檎の間に何らかの関係があるようには思えないのだが、それでも、共栄堂で、柔らかく調理され、甘味度が通常よりも遥かに増しているこの甘味を一度でも味わってしまったら、焼きりんご無しのスマトラカレーに物足りなさを覚えるようになってしまう。

 この焼きりんごは、冬季限定品で、その期間外には食べられない。さらに、テイクアウトも非対応、おそらくは、名店会でも提供してはいない。


 実は書き手は、冬季限定の焼きりんごの提供は三月までと思い込んでいたのだが、これは書き手の完全なる勘違いで、四月までが提供可能期間だったのだ。だが実際には、林檎の入荷の問題もあって、必ずしも四月三十日まで出せる、という分けではないようだ。

 そこで、リンゴの提供時期に関して、店のおやじさんに尋ねてみたところ、もうしばらくは焼きりんごは出せる、との事であった。


 とまれかくまれ、四月に共栄堂に直接来ていなければ、期間最後の焼きりんごを味わえなかった分けで、この点だけでも、五店盛り直説訪店企画を立ち上げた意義があったというものではなかろうか。


〈訪問データ〉

 スマトラカレー共栄堂:東京・神保町

 二〇二四年四月十八日・木曜、十七時

 ポークカレー(一二〇〇)焼きりんご(七〇〇):一九〇〇円(現金)

 

〈参考資料〉

〈WEB〉

 『東京神田神保町 スマトラカレー共栄堂』、二〇二四年七月四日閲覧。

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