第二章 北海道でスープカレーのルーツを求めて・その一
スープカレーのソース:札幌
第006食 元祖スープカレー店のオリジナル・カリィ:薬膳カリィ本舗アジャンタ総本家(一九七五年)
新年度の仕事が本格的に始まる前に、書き手は、四月最初の金・土・日の三日を使って、この年初めて北海道を訪れた。
札幌でカレーといえばスープカレー、スープカレーの本場と言えば札幌、それゆえに、書き手は、この機会を利用して、札幌で可能な限り、スープカレーを食す決意をしたのである。
札幌のスープカレーの歴史を紹介しているサイトを参照してみたところ、二〇二一年九月三十日の時点で、スープカレー店の数は、札幌市内だけで〈二〇〇〉店以上に上っているらしい。
これだけの店舗数になると、どこのスープカレー店を訪れるべきか迷いが生じるのは至極当然だ。
書き手も渡航前に悩んだ結果、札幌の、しいては、日本のスープカレーのルーツを辿る自主企画をやってみよう、と考えるに至った。
そして、サイトを渡り歩きながら色々と調べてみた結果、どうやら諸説あるらしいのだが、今現在、スープカレーと呼ばれているカレーの始祖となる液状のカレーを、札幌で最初に提供したのは「アジャンタ」という店である事が分かった。
だが、ここで確認しなければならない事実があって、実は、今の札幌には、二つの系列の「アジャンタ」がある事だ。
その一つが、二〇二四年四月現在、札幌市中央区の南二九条西十丁目に位置している「アジャンタ インドカリ店」で、もう一つが、東区の北二十三条二〇丁目に在る「薬膳本舗アジャンタ」である。
「アジャンタ」の創業それ自体は、喫茶店としてスタートした〈一九七一年〉であるらしい。
この喫茶店時代に、数十回もインドを訪れていた創業者が、一九七〇年代初頭に、フード・メニューとして提供し始めたのが、汁状のカレーであったそうだ。
創業当初の喫茶店時代は、御夫婦で切り盛りしていたらしいのだが、やがて、お二人は離婚し、奥様が引き継いだ店の方が「アジャンタ インドカリ店」で、一方、創業者であるご主人が、新たに、〈一九七五年〉、昭和五十年に開業したのが「薬膳カリィ本舗アジャンタ」で、創業者が亡くなった後に、お弟子さんが継承している、との事である。
札幌渡航の前夜に、スープカレーの源である「アジャンタ」の二つの支流のうち、その何れかに行こう、と書き手は決意した次第なのだが、四月五日の早朝に羽田空港を発った書き手は、飛行機が新千歳空港に到着するや、JRから地下鉄を乗り継いで、地下鉄「東豊線」の元町駅で下車し、「宮の森・北24条通 」を歩くこと約十五分かけて辿り着いたのが、一九七五年、昭和五十年創業の方の「薬膳カリィ本舗アアジャンタ総本家」(以下、総本家と略記)の方である。
実は、総本家の店を選んだ理由は至極単純で、書き手が参照したサイトには、金曜日は、アジャンタインドカリ店の定休日だ、と書かれていたからである。
さて、「薬膳カリィ本舗アジャンタ」の公式サイトによると、喫茶店の一九七一年当時には未だ、そのアジャンタのカレー・スープには、具は何も入ってはおらず、スープとご飯だけ、というシンプルなものであったらしい。
そのカレー・スープの出汁は、野菜と鶏肉でとり、出汁を取った後の出し殻は捨てていたそうなのだが、常連客から、捨てるくらいなら鶏肉を食べさせてくれ、と頼まれ、それが、具に鶏肉を使った「とりかりぃ」の誕生秘話で、これが一九七五年頃だという。
そしてさらに、総本家の店名に〈薬膳〉という冠が付けられているのは、ここの店のカレー・スープを作る際に使っているスパイスに原因があるようだ。
総本家の公式サイトによると、ホールから挽いた三〇種類のスパイスと、中国から直輸入した十五種類の漢方薬から成るアジャンタのカレー・スープは、毎日、早朝から開店までの六時間をかけて作られている、との事である。ちなみに、このように、手間暇をかけて作られているため、一日五十食程度しか作れないそうで、スープが枯れ次第に閉店になるらしい。そういった次第で、書き手は、空港から店に直行した分けなのだ。
とまれかくまれ、総本家では、ただ単に、美味しいカレー・スープを提供しているだけではなく、身体によい〈薬膳〉を重視しているのだ。
さらに、書き手は、折角、〈スープカレー〉の元祖の一つである「薬膳カリィ本舗アジャンタ総本家」を訪れたので、注文する品も、店のオリジナル・メニューにして、その代表メニューでもある「とりぃかれ」を注文する事にしたのであった。
つまり、先にも述べたのだが、アジャンタのカレーは、元々、鶏で出汁をとり、その出し殻の鶏を具に使うようになったものである。
総本家には、その鶏カレーを発端にした、「とりなすかりぃ」、「とり野菜かりぃ」、「野菜かりぃ」、具材にラム肉のミートボールを使った「かしみーるかりぃ」、鶏肉ではなく羊肉を入れた「らむかりぃ」などもあるのだが、元祖となる店の最初の最初の品、すなわち、源のメニューとして、書き手は「とりかれぃ」を選んだのである。
そのとりかりぃは、二本の骨付きの鶏肉が、はっきりと自己主張するかのように、カレー・スープの中にドンと入っており、注文した者は、カトラリーを使って、骨から鶏肉をそぎ落としながら食べる事になる。このように、骨から肉をとる作業は、案外簡単ではないのだが、書き手は、ほぐし取った肉をライスの上に置きながら、ゆっくりと口に運んだのであった。
さらに、チキンレッグ以外に、皿の中に明確な存在感をもって入っていたのが、二種の野菜で、それが緑のピーマンと、赤いニンジンである。
書き手の印象では、これら野菜は、鶏肉に負けず劣らずの大きさなのだ。
そして、平日の昼限定で、ライスの大盛か、数量限定のコラーゲンの何れかが無料なので、書き手は、迷わずに、物珍しいコラーゲンを注文したのであった。
ちなみに、ライスを大盛にしなかったのは、今回の札幌訪問の初日に、スープカレー店を連荘する予定だったからである。
〈訪問データ〉
薬膳カリィ本舗アジャンタ総本家:北海道札幌市、最寄り元町駅(徒歩約十五分)
二〇二四年四月五日金曜正午
とりかりぃ:一五〇〇円(現金)
〈参考資料〉
〈WEB〉二〇二四年五月十一日閲覧
「札幌グルメの『スープカレー』ならまずはここ!おすすめの店10選!」「アジャンタインドカリ店」「アジャンタ総本家」、『サツメシ』(二〇二一年九月三十日付)
『札幌スープカレー アジャンタ総本家』
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