第003食 新道の老舗店のカレー/ライス:大野屋(茨城・大洗03)

 大洗駅前に在る、カジキ漁のオブジェ辺りから、マリンタワーの方にまっすぐに走っている幅広の通りが「きらめき通り」という愛称を持つ「駅前海岸線」である。

 町のサイトを参照してみたところ、歩道四.五メートル、路側帯一.五メートル、車道三メートルで、二車線、十八.六メートルという数値が提示されていたので、書き手が抱いた印象に間違いはないようだ。

 

 この幅広のきらめき通りの計画それ自体は、昭和四十三年、一九六八年に為されたらしいのだが、実は、約半世紀の間、計画は実行されないままだった。だが、平成二十三年、二〇一一年三月十一日の東日本大震災の後、遂に、計画が実行に移された。

 その着工は平成二十七年、二〇一五年の末で、完成は平成二十八年、二〇一六年の十一月であった。

 すなわち、着工から完成まで一年もかかっていないのだが、このように半世紀という時間を経てようやく、計画が実行に移された事や、完成までの早さは、東日本大震災の経験を踏まえ、町が〈津波避難路の整備〉を急いだ事がその理由で、また、〈避難路の確保〉が道が幅広になっている原因なのだろう。

 とまれかくまれ、この完成してから十年も経っていないきらめき通りは、その道路としての新しさ故にか、道に面している飲食店の数は多くはない。だが、駅を背にして左側に「大野屋」という洋食店を見止める事ができる。


 この大野屋さんは、いわゆる町の洋食屋さんなのだが、大洗の老舗食堂という印象がある。

 〈新〉しい通りに在る店なのに〈老〉舗、ここに矛盾があるように思えるのだが、実を言うと、大野屋さんは、きらめき通りに移転する以前は、町民の多くが「大通り」と呼んでいる、町のかつての目抜通りに位置していた。

 

 さて、大洗町を舞台にしている、TVアニメ『ガールズ&パンツァー』(以下『ガルパン』と略記)の第四話は、大洗女子学園と聖グロリアーナ女学院との練習試合のエピソードで、その試合は、「大洗ゴルフ場」と思しき場所で開始される。その後、試合は市街戦に移り、大洗の戦車を聖グロリアーナの戦車が追う場面の中で、両校の戦車はマリンタワーと旧アウトレット前を通り過ぎた後で、道を右折してゆく。

 やがて、アニメにおいては、聖グロリアーナの戦車が道を徐行する場面が続くのだが、その道こそが、先に述べた「大通り」の「大貫商店会」付近なのである(第四話、一〇:一五頃)。

 この大貫商店会を舞台とする場面において、その背景に「食品 六壱屋」(現実では「綜合食品 酒井屋」)と書かれている看板が出てくるのだが、その後、視点が戦車に乗るキャラクターの目線に変わる。ここで、大通りの右側に面してる店に着目していただきたい。

 この右側の店の前には、赤地に白抜き文字で「とんかつ」あるいは「ハンバーグ」と書かれている幟や、持ち運びできる小さな看板、いわゆる〈スタンド看板〉が見止められ、その緑に縁どられた看板の真ん中に「大野屋」という店名、その下の緑地に「BC」というアルファベットが書かれている事に気付くであろう。


 TV版の『ガルパン』の放映時期は、二〇一二年秋クール、作品制作の為の現地の取材は、当然、それ以前だと推察され、事実、この第四話の市街戦の背景には、実際の二〇一二年当時の大洗町の大通りの様子が、物語の都合上の虚構的な修正がありつつも、実に写実的に取り込まれている。だから、少なくとも、二〇一二年秋のアニメ放映以前に、『ガルパン』の制作陣が町のロケハンをした時点においては、大野屋さんが、今在るきらめき通りではなく、大通りに面していた事が、アニメの一場面から知る事ができるのだ。

 実は、この第四話の上記のシーンにおいて、左に「日の出屋」というお好み焼き屋さん、右に大野屋さんが位置している付近は、今現在、現実の大洗町において、きらめき通りが通っている位置であり、別の見方をするのならば、大野屋さんは、道路を新設する、という町の都市計画の実行のために、かつてあった場所から移転を余儀なくされ、と言えるかもしれない。


 平成二十四年、二〇一二年にTV版が放映された『ガルパン』は、昨年、令和五年、二〇二三年の秋に、全六話予定の『最終章』の第四話が劇場公開された。つまり、足掛け十二年の『ガルパン』は未だ完結していない、実に息の長い作品なのである。しかしながら、最初のTV放映から最新の映画までの十一年の間に、舞台となった大洗町は様々な変化を迎え、その具体例の一つが、二〇一二年のTV版『ガルパン』の背景に出てきている、大貫商店会に在った大野屋さんなのである。


 なるほど確かに、大野屋さんは、店それ自体が無くなってしまった分けではないものの、この十二年の間に店が移転してしまい、その結果、厳密な意味においては、『ガルパン』に出てきたのと〈同じ〉店で食事する事は、今現在、残念ながら叶わない。しかしながら、たとえ移転したとしても、ここが『ガルパン』の背景になっていた大野屋さんである事に変わりはなかろう。


 今の大野屋さんの店の前に置かれているスタンド看板は、アニメに出てきた物と同じデザインで、さらに、道路に面したガラス窓には『ガルパン』のポスターが貼ってあるので、店はすぐに見付かるだろう。


 それでは、きらめき通りの大野屋さんに入店してみたい。


 店内は、テーブル席とカウンター席から構成されているのだが、お独り様であった書き手はカウンター席に座った。

 

 メニューには、ハンバーグ、ポークカツ、ポーク生姜焼き、ポークソテー、チキンカツ、エビフライ、オムライス、ナポリタンなど、典型的な洋食が並んでいたのだが、今回もカレー目的での入店なので、他の洋食を食べるのは別の機会にしたい。


 メニュー内にあったカレー料理は、「特製エビカレー(辛口)」、「特製ホタテカレー(辛口)」、「特製カツカレー(辛口)」の三種類であった。


 とまれ、漁業の町たる大洗でのカレーなので、具は魚介にしよう、と書き手は考えていたので、今回の選択肢はエビかホタテの二択である。

 実は、書き手は、数日前に、大洗での一食目のカレーに、〈クン(エビ)〉でのプーパッポンを食したので、今回の大洗での三食目は、ホタテカレーを注文する事にしたのであった。


 やがて、大野屋さんのおかみさんが、ライスとカレーが別々の容器にいれられた〈カレー/ライス〉を提供してくださった。

 ここで敢えて、〈カレー/ライス〉と表記したのは、東京都内のカレー提供店において、カレーを食べた経験に基づく、書き手の印象が理由になっている。

 これは、根拠なき言及なのだが、皿に盛られたライスにカレーがかけられたワンプレートの〈ライスカレー〉は、確かに、さくっと食べられ、回転率が高い店や、比較的開業が新しい店に多い盛り方で、こうしたライスカレーに対して、ライスとカレーを別々の容器で提供するのは、数こそ多くはなかったものの、いかにもカレー屋さんらしい、老舗の店に多いスタイルであるような印象を書き手は抱いている。

 だから、ライスとカレーの容器を別々にしているが故に、大野屋さんの〈カレー/ライス〉に、老舗の洋食店ならではのカレー料理に対する在り方が示されているように、書き手は感じた次第なのである。


〈訪問データ〉

 味のレストラン 大野屋:茨城県大洗町、最寄り大洗駅(徒歩数分)

 二〇二四年三月二十一日木曜十一時半

 特製ホタテカレー(辛口):八五〇(現金)


〈参考資料〉

〈WEB〉

 「きらめき通り(大洗海岸線)」、「メイン道路」、『大洗駅』、二〇二四年四月十三日閲覧。

〈アニメ作品〉

 TVアニメ『ガールズ&パンツァー』第四話、二〇一二年十月期。

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