北の大地で海老尽くし:小樽・新千歳空港
第008食 インサツカレー:クレイジースパイス・小樽本店
小樽運河の北端方面の、旧倉庫街が立ち並ぶその一角にある、元倉庫を再利用した店舗で営業している「クレイジースパイス」は、店の名に「小樽本店」とあるように、この小樽にて二〇〇四年に開業した、すなわち、創業二十年の店である。
店のホームページによれば、オープンから二十年の時を経た二〇二四年現在、小樽や札幌といった北海道のみならず、関東では埼玉、関西では滋賀や大阪、中国地方では広島、さらには沖縄といったように全国で十一店舗も展開するまでになっているそうだ。
実は、この日の書き手は、そうだ小樽に行こう、と突然思い立ち、さらに、運河を端から歩いてやろう、と企んだのだが、小樽の何処でカレーを食べるかはノープランであった。
そういった分けで、運河の北端に向かっている途中に目に留まったカレー店に入ってみた次第なのだ。
そして、予備知識無しに、クレイジースパイスに足を踏み入れた時、スタッフが、日本人ではなく、外国人であった事に、この店ちょっと変わっているな、という印象を抱いたのである。
東京都内でカレー店を巡っている時に、いわゆる、イン・パキやイン・ネパの料理店などでは、当たり前のようにネイティヴのスタッフに対応されているので、そこでは、特にそれを変に思う事など無いのだが、その一方で、都内のスープカレー店では、スタッフは日本人、あるいは、東アジア人が多いように思われる。
こういった書き手の印象は、おそらく、スープカレーは日本にて独自に進化を遂げた、こう言ってよければ、ガラパゴス的なカレー料理なので、寿司同様に、スープカレーは日本の料理だから、店のスタッフも日本人だ、と書き手は刷り込まれている故の事かもしれない。
そしてさらに、この店の入り口の看板に、今月の平日のランチ・メニューとして、「A グリルバターのインドカレー」と「B レイヤースパイシーチキンのスープカレー」の二つが掲げられており、えっ、この店ってスープカレー店じゃなかったっけ? といった驚きも書き手は覚えたのであった。
実際、店のメニューは、「クレイジースパイス メニュー」という名称のスープカレーと、「インドカレネパールカリー メニュー」の二種に大別されていて、前者は、お子様用メニューを除き、九種類、後者は十六種類のメニューが並んでいた。さらに、セットメニュー扱いでダルバートさえあった。
かくの如く、ナンとカレーのインド風の料理だけではなく、スープカレーも注文可能となっているので、書き手は、元々、インド・ネパール・レストランであった店が、開業地が、北海道という理由から、スープカレーも提供するようになったのではなかろうか、と想像した。
だから、書き手は迷ってしまったのだ。
そもそもが、イン・ネパ系の店ならば、「インドネパールカレー」から料理を選ぶべきではなかろうか、と。
だが、メニューとにらめっこしながら、しばし悩んだものの、今回は今年最初の北海道来訪で、そのコンセプトの軸は〈スープカレー〉に据えているので、たとえ、ネパール系の店に入ってしまったとしても、ここはやはりスープカレーを注文すべきだ、という結論に達したのである。
そして次に考えるべきは、いかなるスープカレーにすべきか、という点なのだが、これに関しては、あっさりと決まった。
実は、メニューとは別にパウチされた紙が置いてあって、そこに書かれていたのは、「いつものスープがさらに美味しくなる」という煽り文句と共に、プラス一五〇円で「超濃厚海老出汁」を加えられる、という情報であった。
まず、この特別感にやられてしまった書き手は、〈エビ尽くし〉というコンセプトの下、九種類あるスープカレーメニューから「プリプリエビカレー」を選び、さらに、五種類あるスープも「エビスープ」にしさえした。
この「エビスープ」、メニューには「エビのエキスが凝縮され旨味たっぷり」と説明が為されていた。これに、先に上げた「超濃厚海老出汁」を重ね掛けした場合、どのようなエビスープが現出するのであろうか。
こう考えただけで、ワクワクが止まらなくなる。
実は、このエビカレーは、メインのエビだけではなく、キャベツ、ニンジン、ナス、トルティーヤ、ジャガイモ、ピーマン、ブロッコリー、カボチャ、大根、シメジ、トルティーヤ、そして卵も入っており、つまり、野菜カレーと言っても過言ではないほど具沢山な品であった。
書き手は、初めて訪れた店だったので、辛さは一にしたのだが、それでも、多量の汗をかいたのは、この品に、発汗作用のあるスパイスがしっかりと使われている証拠であろう。
これは、イン・ネパの店が、ついでにやっているレベルのスープカレーではないように書き手には思われた。
後日、店のホームページを参照した際に知ったのだが、現在、店のマネージメント・ディレクターを務めている外国人スタッフの「アリヤル・ビナイ」氏は、かつて北海道を訪れた際に、札幌発祥のカレー料理〈スープカレー〉に出会った事を契機に、「伝統的なインド・ネパールカレーに似たスパイスの使い方や素材の美味しさをダイレクトに表現できるスープカレー」を提供したい、という抱負を抱いている、との事であった。
あの具沢山の野菜は、産地は示されてはいなかったのだが、おそらくは北海道の食材で、あのように、エビカレーなのに野菜が豊富だったのは、北海道の素材をダイレクトに活かそう、という先に見たコンセプトのあらわれなのかもしれない。
そして、スパイスが効いた、エビ出汁のカレー・スープは、ネパールのスパイス料理のエッセンスをスープカレーに応用したもののようにも思えてくる。
クレイジー・スパイスのルーツを知って、書き手は、この店は、インド・ネパール料理の要素を、札幌発祥のスープカレーに適用している分けだから、イン・ネパの店というよりもむしろ、イン・サツ(札)と呼ぶのが適切なのではなかろうか、と思うのであった。
〈訪問データ〉
クレイジースパイス:北海道小樽市(小樽駅から徒歩約二十分)
二〇二四年四月七日・日曜、十二時
プリプリエビカレー(一四八〇)エビ出汁(一五〇):一六三〇円(クレカ)
エビスープ、辛さ1、白米、辛さ1
〈参考資料〉
〈WEB〉
『クレイジースパイス』、二〇二四年五月三十一日閲覧。
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